第23話:Critical Process[【罪引き】ライヒアルトVS【神剣】シリウス]
マーサに決着をつけたクードは、そのまま屋敷を覆っていた結界に近づき、斬り裂いて穴を開けた。
極光の双剣の威力にスコットたち騎士は驚く。
「おお、結界が!」
「すげえ……!」
そのスコットに、今しがたまで纏っていた殺気のなくなったクードが頼む。
「スコットさん、あとをお願いします。マーサも、急所は外しているので、すぐに治療を……おっと」
しかし、そのクードもがくりと膝をついてしまった。【魔双剣】の輝きも、もう消えている。慌てるスコット。
「クード殿! どこかやられましたか!?」
「いいえ、大丈夫です。ちょっとあの技、魔力消費が激しくて……」
クードがふらついたのは、久しぶりの魔力の大量消費によるものだった。それを聞いて安堵した様子のスコット。
「では、クード殿はここで休んでいてください。あとは我々が引き受けます。というか、本来我々の仕事なのに、申し訳ありません」
「そこはまあ……半分僕らの自分勝手なので」
そしていつも通りの穏やかな表情で、ふう、と一息ついたクードは空を仰ぎ見て言う。
「後は、ライヒアルトとシュラーか……リガルはバールーフさんに呼び出されたって聞いたけど、一体……」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ライヒアルトのハルバードが俺の左肩を掠めた。
俺はその衝撃を利用して体を捻り、突きを繰り出す。
しかしそれは、ハルバードの柄で捌かれる。
俺は今度、その捌かれる勢いを受け流すようにバスタードソードの角度を変え、ライヒアルトの右足を狙う。
それをライヒアルトは、回転を混ぜたバックステップで躱した。
距離が開いた。
そんな俺たちを、バールーフはよくそうするように、顎に手を当てて興味深そうに眺めている。
高級そうなデカい椅子を転移させてきて、そこに座ってやがる。今、ライヒアルトが誰のために戦っているのか分かってんのか、こいつは……!
いや、今は忘れろ。優先すべきはライヒアルトだ。
「ライヒアルト、汝はなぜそんなにバールーフをかばう?」
再び接近、刃を交えながら、俺はライヒアルトに問いかけた。
「失礼ですが、逆に伺います。配下が主人をかばうことがそんなに不自然ですか……!?」
激情を押し殺しながら話しているようなライヒアルトの声。
「何も命を奪おうというわけではないのだぞ」
「名誉が穢されると言っているのです! 我が主が、今までどれほどの人命を助けてきたか、知らないわけではないでしょう?」
俺のバスタードソードを外側へ鋭く弾いたライヒアルトのハルバードが、うなりを上げて薙ぎ払う。
「だからと言って、犯罪者を人ひとりの判断で裁いていいわけではないだろう。皆で合意形成した法の下で裁かなくては」
跳躍してライヒアルトを飛び越え、肩を狙う俺。
ライヒアルトは身をかがめて鎧で受け流し、突きの姿勢に入った。
「その『皆』とやらはどれだけ信頼できるものですか? 数さえ集めれば万能だとでもいうおつもりですか? その『万能でない法』で殺してはいけない犯罪者もいるのではないでしょうか?」
俺の着地を狙い、防御の穴をつくようにハルバードが襲い掛かってくる。
俺は時折それをいなしつつ、重心を読まれないステップで躱す。
そしてライヒアルトがハルバードを引き戻すタイミングで急接近、その穂先を剣先で絡めとり、外側へ逸らし、バスタードソードの間合いに持ち込む。
「だからシュラーたちを隠し、匿うというのか?」
俺の攻撃を柄で受け止め、俺たちはいっときバインドの状態に入る。
「……そうです」
「それは……バールーフの受け売りか?」
そういったとき、ライヒアルトの殺気が少し鋭さを増した。
その足元の地面から岩の槍が飛び出し、俺の腹部に迫る。
俺は飛び退きつつ、岩の槍を叩き落す。
「最初はそうでした。しかし、今は違います。罪に比べて罰があまりにも大きすぎる場合、その犯罪者を助ける者がいるべきです。その犯罪者から外的要因を取り去った時、罰するべきでない人物である可能性があると、私自身もそう思っています」
それは確かにそうかもしれない。その可能性は無視してはいけない可能性だと、俺も思う。
だが、俺の頭には二人の人物の涙がよぎっていた。
自分の腕と頭が、わずかに熱を帯びるのを自覚する。
そして、力の溜めを見切られない踏み込みを使い、ライヒアルトを強襲した。
上段からバスタードソードを叩き込む。
「その人物を罰から逃すせいで、他の人間が傷ついてもか……!」
「――ッ!!」
バスタードソードを受け止めたハルバードのその先、仮面の内側で息を飲んだのが分かった。
「ファシエが誘拐の被害者に襲撃されたと聞いて、ファシエと話して、汝は謝罪し、苦悩していたな。あれは何だ? 善人の振りでもしていたのか?」
「そんなわけでは……!」
俺に押し込められそうになりながらも、ライヒアルトは必死な様子で否定する。本心なのだろう。
それでも、俺の気はすまない。
「それとも、バールーフと共に正義の味方ごっこにでも興じていたのか? そうであるならば、児戯だな、汝らは!」
「なッ!? ……それは!!」
ライヒアルトは、力任せにハルバードを振り回し、俺を押し飛ばした。
今の俺の言葉が効いたらしい。その腕がカタカタと小刻みに震えている。
「き、聞き捨てなりません……私はともかく、我が主を侮辱しようとは……!!」
ライヒアルトから発せられる殺気の鋭さが段違いに上がったのが分かる。
すると、何もないところから次々と無数のハルバードが飛び出し、俺に殺到する。
しかも床の全面が隆起し、岩の槍で埋め尽くされた。
「…………!!」
とっさに事象干渉力を足に集中し、空中へ駆け上る俺。
しかし、それだけではない。辺り一帯には無数の魔法陣が起動しており、重力でこちらの動きを阻害したり、ライヒアルトの動きを補助したり、ハルバードや岩の槍の軌道や速度を変えてくる。
「貴方に何が分かる……」
異空間から絶え間なく飛び出したハルバードは、重力魔法によって加速、屈曲する軌道の刃の雨を注がせる。そのひとつひとつがさらなる重力を纏っており、脅威を感じるほど重い。
「く……!」
今の俺では防ぐだけで精いっぱいだ。
空中で防戦一方の俺に狙いを定めるライヒアルト。
その背中には、巨大な魔法陣。重力の莫大な魔力が充填されているのが、光と振動で伝わってくる。
「貴方に、罪を犯した人の何が分かるというのだ!!」
自身の背中に発生させた重力魔術を受け、咆哮を上げて渾身の一撃を放つライヒアルト。
俺は多少の被弾を覚悟し、それを真正面から迎撃した。
俺のバスタードソードの突きの衝撃で、何とかライヒアルトの馬鹿げた重さのハルバードを捌いた俺。そのまま変化した攻撃線で、ライヒアルトの兜に直撃させた。
俺の方も、直撃こそしないものの、四方から飛んできたハルバードを躱しきれず、仮面に被弾する。
俺の仮面と、ライヒアルトの兜が同時に吹き飛ぶ。
そして俺は、奇妙なものを見た。
割れて吹き飛んだ兜の下、そこにあるライヒアルトの顔。
その肌の色は、深い海のように青かった。
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