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神剣のプロトコル ~底辺まで落ちた元S級最強剣士の俺が、錬金術師少女に『武器の臨床評価』とかやらされ、結果的に世界を救うまで~  作者: 深井立花 数白
第3章:転移術師の犯罪学

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第22話:Critical Process[児童連続誘拐模倣犯マーサVS【彩嵐】クード]

 屋敷の広間はまるで、とりどりの色たちが弾けているようだった。


 クードが炎の刃を飛ばせば、マーサは氷の刃をぶつけて相殺する。

 マーサがカトラスに岩石を纏わせて潰しにかかれば、身を翻して躱したクードが雷の刃でカウンターを狙う。


 リガルと同様に、クードは一目見てマーサが相当の腕前であることを見抜いていた。その見立てが間違っていなかったことを、クードは身をもって確かめている。


「はは! やるねえ、あんた! これでもあたしは、道場ではシュラーと互角だったんだよ!」


 自分と同じく、両手のカトラスをくるくると舞うように操るマーサ。並みの相手ならその動きに翻弄され、細切れにされてしまうだろう。


 二人の剣と魔力の交錯。もはや広間はズタズタになっていた。無傷なのはその中央で踊り続ける二人だけ。


 その途中、クードはマーサを糾弾した。


「なぜこんな誘拐事件を引き起こした!?」

「そりゃあ、いい条件がそろっていたからねえ。息子が病死して、心を失ったようなヤツを犯行に導くのは簡単だった。あとはそいつと同時期に同じようなコトを起こせば、あたしらの罪はそいつがかぶってくれるかもしれないと思ったねえ」

「実の弟に対してなんてことを……!」


 家族を道具としてしか思っていないようなマーサに絶句するクード。

 その間も二人の舞踏は止まらない。


「ハッ、シュラーね。あいつも我が弟ながらバカなもんだよ。ちょっと『テッドのために天国にお友達を送って、住みよい街にしてあげればいい』っていったら、すーぐその気になっちゃってさあ」

「……!」

「あ~あ、もう少しだったんだけどねえ。まさかシュラーがしくじるなんて……それにシリウス・カリバーが出てくるなんてねえ。運がないよ、まったく。もうちょっと早く身代金を要求すべきだったねえ……」


 そのセリフに、クードは、ハッ、と笑いの息を漏らした。


「いいや、運がいい方だよ。本来ならここにもシリウスがくるはずだったんだから」

「おや、そうなのかい? なんだかわからないけど、得したねえ。それなら、あんたさえどうにかすれば、あの金髪の娘でも人質にとって逃げられそうだねえ」


 マーサはクードと自分が互角に戦えているとおもっているのだろう。


「だろうね。だけど、僕にとっても幸運だったよ」

「あん?」

「こうして、ファシエさんを傷つけた『悪しき原因』を直接切除できるんだからね……!」

「ハハ! やっぱり言うねえ、あんた!」


 そうして二人の剣劇は苛烈さを増す。

 容赦ない応酬が、互いの体を少しずつ斬り、穿ち、削り始める。


 しかし、精神的な余裕を保っているのは、マーサの方だった。


「あんた、さっきから何そんなに怒ってるんだい? 太刀筋が語ってるよ」


 その言葉の通り、冷静さを欠き始めたクードの剣をかいくぐり、マーサのカトラスから発せられた炎がクードの脇腹を焼く。


「ッ! ……あなたたちが誘拐した子供の母親が、一人の女性を襲撃したことを覚えているか?」

「んん? はあ~ん。なんだい、それがさっきの『ファシエさん』? あんたその女に惚れてるってわけかい? ははは! それでそんなに頭にキてるってのかい」

「それはもう、キてますよ。あなたみたいな子悪党に彼女が2度も心を傷つけられるなんて……」


 そのとき、クードは普段の穏やかさからかけ離れた表情を見せていた。

 しかし、そのような感情はマーサの好物でもあった。


「それはあんたさあ、その女のせいでもあるんじゃないの? 1度目がなんだか知らないけどねえ、そんなんで心を病むほど弱いのがいけな――おっと」


 クードの剣から伸びた氷の刃がマーサの口元をかすめる。


「ああ、よく回る舌ですね。ちょっと切り離して観察したくなりました」

「ひゃあ~、コワいこと言うねえ~」

「どうせ切ってもすぐ生えるんじゃないですか? あなたのは。試してみましょうよ、ねえ」


 その瞬間だった。クードの体や【魔双剣(サーヴァ)】から発せられていた魔力が一切感じられなくなった。


 同時に、身体の芯を貫くような寒気がマーサを襲った。


「――ッ!? あんた、何言って……」

「そうだ。どうせなら全身をどれくらい斬っても平気か、評価してみましょうよ」


 先ほどまで炎や雷を発していた【魔双剣(サーヴァ)】が、今度は静かに、ただ光り始める。


「は!? 『評価』……!? 全身を斬るって……」

「ええ、そうです。あなたの耐久力評価……この【彩嵐(さいらん)】クード・ロットノウが務めましょう……」


 そしてクードは、もう使わないと決めていた、かつての『奥の手』を発動した。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 スコットは歯噛みしていた。


 エニア達がマーサの屋敷に突入し、自分たちがその敷地の包囲を完成させた頃、マーサの家の中が騒がしくなった。

 しかし、何事かと思ったときにはもう、マーサの屋敷の敷地は強力な結界魔術で覆われていた。


 幸い、エニアと通信が取れたので人質はひとまず無事らしい。


 しかし、広間で以前誰かが交戦している。

 突入すべき盤面だ。しかし結界のせいでそれも叶わない。

 スコットは魔術捜査班に結界の解除を命じるも、なかなか難しいようだった。


 その時だった。

 玄関のドアをぶち破り、一人の人物が庭に吹き飛ばされてきた。


 容疑者、マーサだった。

 そして、彼女に続いて躍り出るひとつの影。


 両手に剣を持っていることは分かるが、その剣は目まぐるしく色を変えながら強い光を放っている。放つ光はあまりに強く、その輝きに直視が難しいくらいだ。


 しかし、よく目を凝らしてみると、


「ク、クード殿……?」


 そう、それは確かにエニアの武器屋の仲間のひとりのクードという青年だった。


 そしてクードは、地面が爆発したかと思える強さで地を蹴り、マーサに殺到した。

 マーサも両手のカトラスでクードの攻撃を受ける。


 しかし、凝縮された魔力の光を放つ剣を受けるたび、マーサのカトラスにも、その身体にも瞬く間に傷が増えていく。

 それを見ていた騎士のひとりが、呆然と呟いた。


「【彩嵐(さいらん)】……こいつ、元A級8位の【彩嵐】クードだ!」


 その一言にどよめく騎士たち。

 無理もない。かつてA級冒険者世界8位にランクインし、【彩嵐】の二つ名を授与された冒険者。


 それはかの【神剣(じんけん)】パーティでアタッカーを務めていた魔法剣士。

 当然周囲の期待は高く、またそれに応えるように【彩嵐】は【神剣】とともに成果を上げ続け、A級ランキング上位入りも確実と思われていた。


 しかし、彼はある日ランキングから突如姿を消した。その詳細を知るものはいなかった。


 その彼が、今目の前にいる。

 極光の魔双剣を振るい、この事件の悪しき原因を削り殺さんとしている。


 そしてスコットも、思わず呟く。


「これが……【彩嵐】……」


 そう。クードの二つ名、【彩嵐】。それは彼の愛剣【魔双剣サーヴァ】に過剰なほどに高圧圧縮された魔力が放つ極彩色の輝きと、それを超高速で振るう斬撃の苛烈さからつけられたものだった。


 そして、そんなものに耐えられるほど、マーサも、マーサの剣も強くはなかった。


 以前街を襲った茨竜(ソーンドラゴン)のように、強力な魔力障壁や身体強化魔術があれば話は別だっただろう。しかし通常、人間の体にそこまでの防御力を発生させられる能力はない。


 もう何度目かもわからないクードの斬撃にマーサのカトラスは耐えられなくなり、両手のカトラスはまとめてクードに叩き斬られた。


 そして、双閃。


 クードのXの字型の一撃を受けたマーサは、静かに崩れ落ちた。

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