第21話:Critical Process[マーサの手下たちVS魔術師プリシラ]
その戦闘は轟雷の閃きから始まった。
エニア達が部屋の外に出てくるところを、使用人の振りをしていた男たち、マーサの手下が魔術で狙い撃ちにしたのだ。
しかしそれは、クードにはひらりと躱され、プリシラには魔力障壁で防がれた。
それに苛立ったマーサは部下を怒鳴りつける。
「何やってんだい! このヘタクソが!」
「いや、待ってくれよ、お頭! あいつら強いぜ!?」
「ぐだぐだ言ってんじゃないよ! お前たちは、あのアホの女の方だけでもなんとかしな!」
「わ、わかったよ!」
対するクードとプリシラは、
「プリシラちゃん、マーサは僕にやらせてくれ。残りは任せちゃっていいかい?」
「いいよー!」
そういって二手に分かれる。
クードは手下を無視して、雷を纏った【魔双剣】でマーサに斬りかかる。それを両手のカトラスで受けるマーサ。そのカトラスには、クードの魔法剣と同じように、炎が揺らめいている。
「あんた、一番やるねえ……でも、あたしにも腕に自信はある。同じ魔法剣の二刀流同士、どっちが上か試してみようじゃあないか?」
「いいですね、乗ります。でも、途中で降りるってのは無しですよ?」
魔法剣のぶつかる光の中で笑う。二人ともだ。
「言うねえ、あんた! 気に入ったよ!!」
「ハハハ、光栄です……僕はあなたが大嫌いですけどね!!」
そして刃と光の華が二人を包み込んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一方、マーサの手下の相手を自信満々に引き受けたプリシラだったが……
「待てー、アホそうな女―!」
「待てー、殺してやるー!」
「わああああああ!! ちょっと待って、こっちこないでー!」
4人の手下のうち、2人を相手にてこずっていた。
いや、てこずっていたどころではない。逃げていた。
ちなみに、4人のうち2人と言っても夫婦の振りをしていた男女は速攻ボンバー。
今はクードとマーサが戦っている広間の片隅で、アフロ頭の状態で気絶している。
では、誰から逃げているのかというと……
「子供相手なんて聞いてないよー! どうすればいいのー!? 魔術で攻撃なんてかわいそうだよー!」
そう、いまプリシラが逃げている相手は、夫婦の子供の振りをしていた、12歳くらいの兄弟に見える二人だった。
彼らも犯罪ギルドの一員とはいえ、プリシラは子供を攻撃する気にはなれなかった。
普段、こういう時にはアホ毛様が助けてくれるが、
『待って! プリシラちゃん! 一旦止まって――』
アホ毛様と会話をするための『魔力ペン』は空中に魔力を固定させて書くペンだ。逃げているうちはアホ毛様と会話できない。今まで使っていたペンと紙は邪魔だからもう持ち歩いていなかった。
もはや状況はただの鬼ごっこかかくれんぼだ。
ひとまず、空いていたクローゼットに隠れたプリシラは考える。
(とりあえず、魔力の鎖で縛っちゃおうかな? あれならリー君でも簡単には抜けだせなかったし……)
そんなことを考えているプリシラの耳に、兄弟の会話が聞こえてくる。
「おいお前、そっち探せ」
「うるさい、命令するな」
「お前、もし捕まりでもしたら、分かってんだろうな」
「分かってるよ、そんなことになったら舌嚙んで死んでやるよ」
(!!??!?!?)
プリシラは仰天した。
(なんで!? なんで捕まったら死んじゃうの!? なんでベロ噛むの!? ベロ噛んだら死んじゃうの!? どういうこと!? アタシだって、ベロ嚙んじゃったことあるよ! 死ななかったけど! あれ、もしかしてアタシってばもう死んで――)
プリシラは混乱の境地にいた。そんな彼女の頭をぺしぺし叩く存在がひとつ。
言わずもがな、アホ毛様だ。
今度こそ、『魔力ペン』を使ってアドバイスを送る。
『プリシラちゃん! ためらっている場合じゃないよ!』
「でもアホ毛様、あの子たち、おかーさんとおとーさんに言われてこんなことしてるだけかもよ? なのに痛い目に遭わせるなんて……」
プリシラは、先日のリガルの話、『犯罪を行うしかなくなるほど、自分以外の要因に追い詰められた人を裁くにはどうしたら良いか』という問いを完全に理解できなかったわけではなかった。
プリシラはあの会話からも一人で考えつづけ、「悪いことをする人には、悪いことをするだけの理由があるかもしれない」くらいには思い至っていたのだ。
だからこの兄弟も、『親に命令されているから』という理由で悪いことをしているのではないかとプリシラは考えていた。
『………………』
アホ毛様はプリシラの話を聞いてから、しばらく止まってしまった。
しかし、やがてこんな提案をしてくる。
『プリシラちゃん。催眠魔術を使ってみよう』
「え、催眠魔術? アホ毛様、手伝ってくれるの?」
『ううん……今回、アタイは手伝わない』
「え、うそ……」
始めてアホ毛様に突き放され、プリシラは戸惑った。
催眠魔術は魔力の正確なコントロールが必要とされている。しかしプリシラは、魔力量ならともかく、コントロールはアホ毛様に頼りっぱなしだった。そのアホ毛様が、今回は手伝ってくれないという。
『どうする、プリシラちゃん。あの子たちを攻撃して倒すか、催眠魔術で眠らせるか……プリシラちゃんが選んで』
プリシラはいっとき悩んだが、やがて決意した。あの兄弟を傷つけずに捕まえたい。その一心が勝ったのだ。
「アホ毛様! アタシ、やってみる! 催眠魔術のやり方を教えて!」
『そうこなくっちゃ!!』
そしてプリシラは、催眠魔術のコツをアホ毛様に教えてもらう。
しかし、その話が終わろうとしたころ、
「おい、この部屋探したか?」
「まだ」
すぐ近くで、兄弟の声がした。
(――ッ!?)
まずい。いまこの状態で見つかったら、ぶっつけ本番で催眠魔術を使わなければいけない。
アホ毛様は手伝ってくれない。
自分にはアホ毛様のようにできるのか。
失敗したらどうなるのか。
様々な不安がプリシラの頭のなかでぐるぐるしていた。
いよいよプリシラが隠れているクローゼットの扉が開かれる。
そして――、
「いたぞ!」
「殺せ!」
「だ、ダメーー!!」
プリシラは兄弟に向かって杖を突き付け、催眠魔術を発動した。
アホ毛様に教えてもらったように、相手が安心して眠るような気持ちになることを念じて。
そして兄弟は、
「あ? お前、何して……って、あれ……」
「くそ、なんか、眠……」
その場に倒れ、安らかな寝息を立て始めた。
プリシラは二人同時に催眠魔術にかけることに成功したのだ。
「や、やった! やったよアホ毛様!!」
『し、静かに! せっかく眠ったのに、起きちゃうでしょ! さ、魔力の鎖で縛って、あとは猿轡を噛ませて……』
「へ? 『さるぐつわ』ってなに?」
『えーっとね……』
とりあえず、プリシラはマーサの手下の無力化に成功した。
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