第19話:Process4[悪しき原因]Flow5
翌日、俺はエニア達に言ったように、朝イチで騎士団の捜査本部に赴き、スコットひとりを呼び出した。
格好はいつも通り、シリウスモードだ。
「スコット。エニア達の調査で、闇魔道具を作成した人物、およびそれを大量に買った人物が明らかになった」
「……! 本当ですか!? ずいぶんと早いですね」
エニア達が2日足らずでそこまでたどり着くとは思っていなかったのだろう、スコットは驚いていた。
「ああ、ファシエが女性冒険者に襲われた主原因は模倣犯にあるからな。エニア達は相当頭に来ているようだ」
「そして、その魔道具を大量に買った人物というのは……」
「シュラーの姉、マーサだ」
マーサが模倣犯であることについて、スコットはそれなりに驚いていたものの、どこか納得した感じだった。
「……あまり驚かないのだな、汝」
「はい。あの家の人物はどの人も怪しかったですし……全員に戦闘の心得があることも、地下室の毛布などが新しかったことも、合点がいきました」
俺はスコットの口ぶりが少し引っかかった。
「合点がいった……? なにか分かったのか?」
「はい。騎士団の内部を極秘調査した結果、犯罪ギルドのメンバーが一人見つかりました。現在は泳がせているので、マーサたちにも気づかれていないでしょう」
「本当にいたか……!」
危なかった。それならやはり、騎士団が模倣犯の存在に気付いていると感づかれるわけにはいかなかったことになる。ブルーノさんのこともスコットだけに相談しておいて良かった。
「ではそいつがマーサたちに情報を流していたのだな?」
「そう思います。おそらく、我々が家宅捜索をするときも、あらかじめ誘拐した子供たちを他所へ移していたのでしょう。マーサたちが誘拐した子供は2人です。しかも昏睡させる魔道具があるなら可能でしょう。地下室で使用人が暮らしていた、というのは子供たちを監禁して昏睡状態にしていた形跡をごまかすためでしょうね」
そして俺たちは、マーサ捕縛の詳細を話し出す。
「内通者が騎士団にいるなら、表立って捕縛作戦を実行することはできないな」
「ええ。エニア殿たちにマーサの家を訪れてもらうのと同時に内通者を捕縛、そして部下に緊急命令を出し、マーサの家を包囲させます」
「分かった」
「あと、マーサたちが襲ってきた場合、もし我々の到着が遅れたら、エニア殿たちは対応できそうでしょうか?」
「それも問題ない。彼らの中には元A級8位【彩嵐】と、高い魔力を持つ魔術師、そして防御力に特化した異能を持つ者がいる。むしろ我や騎士団の出番はないくらいだ」
俺がそういうと、スコットは苦笑してしまった。
「はは……それはそれで問題なのですが……あとは、エニア殿たちとの連絡手段を用意しないと……」
「それなら、通信魔道具を預かってきている。これで汝とエニアで連携をとるといい」
「おお、準備がいいですね」
「エニアたちはマーサたちをつぶす気満々だからな」
「それはちょっと騎士としては歓迎できないのですが……」
スコットは民間人が大捕物をやらかすのが歓迎できないのだろう。渋すぎるお茶でも口にしたような顔をした。
「フッ、では獲物を横取りされないようにすることだ。言っておくが、我はマーサ達には手出しするなとエニア達に言われている。彼女らの好きにさせるつもりだ」
「そんなに怒っているのですか、エニア殿たちは?」
「特に【彩嵐】の怒りが凄まじい。下手に横やりを入れると、騎士たちも巻き添えを食うぞ」
「ええ……急いだ方がいいのか、見守っていたほうがいいのか……」
スコットがそういったとき、俺の【SABER】専用通信魔道具に着信があった。
俺はまたライヒアルトかと思って急いで応答したが、その必要はなかった。
着信相手は【安全装置】バールーフだったからだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そこは無機質な、箱の中のような部屋だった。
四方の壁と床が、石のような金属のような、よくわからない物質のブロックで作られている。
そして、なぜか周囲の壁にはいくつもの扉。床に接しているものだけではなく、壁面に貼り付けられているように浮いているものもある。
バールーフに呼ばれ、マーサたちのことをエニアやスコットたちに任せて転移してきたのは、そんな奇妙な部屋だった。
そして、俺の前に立っているバールーフと――
「ライヒアルト……」
行方をくらませた黒い甲冑の男が、そこにいた。
「これは……バールーフ。汝がライヒアルトを捕えたということでいいのか?」
俺はこの状況で考えられる、一番無難な質問をしてみた。しかし、帰って来た答えは最悪に近いものだった。
「そうではない。ライヒアルト・エルゴーは私の部下のようなものだ」
俺は衝撃で、うまく頭を働かせられなくなった。
「どういう……ことだ…………部下? ……ライヒアルトがシュラーを連れ去ったのは、汝の命令だと……そういうことか……?」
俺の問いには、ライヒアルトが答えた。
「いえ、シュラー殿に関しては、私の独断で行いました。我が主、バールーフ様には関係ありません」
今、確かにライヒアルトはバールーフのことを「我が主」と呼んだ。以前の通信でバールーフを呼ぶときには、噛んだのではなく口走りかけたのか。いや、今そんなことはどうでもいい。
「シュラーに関しては、独断……? 他の例があるのか……?」
今度はバールーフが答える。
「そう。私とライヒアルト・エルゴーは、一部の犯罪者を異世界にかくまっている」
……何を言っているのかわからない。
「犯罪者をかくまっていた? なぜそんなことを?」
「この世界は外的要因によって犯罪を起こしたものを正しく処罰できていないからだ」
先日の問答と同じことを繰り返すバールーフ。
「だったら、我の要求は分かっているはずだ。シュラーを引き渡せ。彼が追い詰められた理由を世間に知らしめるべきだ」
しかし、その要求をする俺から、バールーフを守るようにライヒアルトが割り込む。
「お待ちください、シリウス殿。そうしたら、我が主が世間の非難にさらされてしまいます。考え直していただくことはできませんか」
「できないな、ライヒアルト。それらは向き合うべき非難だ」
きっぱりと言い放ってやる俺。それでもライヒアルトは食い下がる。
「で、では、順序を逆にしてもらうことはできませんか!? 各国の司法の在り方をかえてから、匿ったものたちを引き渡すことは……!」
そんなまどろっこしいことを言い始めたライヒアルト。何を考えているんだ……?
「それに何年かかると思っている。それに、世間を変えるにもシュラーは引き渡してほしい。そして、バールーフ。汝が何を、なぜしていたかを発表してほしい」
「私は構わない。ただし、各国の司法の在り方を見直すのが条件だ」
ライヒアルトとは逆に、バールーフはあっさりと承諾した。
そんなバールーフに向かって、ライヒアルトは訴える。
「そんな、それでいいのですか……?」
「それがこの世界にとって、良き原因となるならば」
「主よ、それでは、貴方が……。いえ、待ってください。ではまず私の単独犯ということにして……」
何がライヒアルトをそこまでさせるのか、どうしてもバールーフを世間の矢面に立たせたくないみたいだ。
「だめだライヒアルト。こう言っては酷だが、汝が発表したところでバールーフほどの影響はない。世界は変わらないだろう。バールーフの口から明かすことが大事なのだ」
「そんな……!」
「バールーフ、本当に構わないな?」
「うむ」
絶望的な声を上げるライヒアルトに対し、バールーフはやはりあっさりと、超然として答える。
「では……まずはサルティヴの国王に……」
しかし、バールーフを国王に謁見させるつもりの俺に、ライヒアルトの低い声が掛けられる。
「……お待ちください、リガル殿」
あの夜と同じように、どこからともなく出現させたハルバードを俺に突き付けるライヒアルト。
その手は、細かく震えている。ライヒアルトの中で、何かが拮抗しているのか。
「私は、我慢なりません。それでは我が主が、心無いものに非難されるでしょう。主がずっと、この世界を守って来たのにも関わらず……!」
ライヒアルトは、震える手を押さえるように呼吸を整えながらハルバードを構える。
「私は、我慢なりません。外的要因によって罪を犯した者たちも、今の司法の元にさらせば耐えがたい非難にさらされるでしょう。私の提案に乗っていただけないのなら、シリウス殿、貴殿をここから返すわけにはいきません……!」
「汝は……」
本当に、何がライヒアルトをそこまでさせるのか。
バールーフも、ふむ、と興味深げに俺たちを見ている。手出しするつもりは全くないらしい。
「そして私自身も、主に命を救っていただきました。主が世界中から辱めをうけるのをだまって見過ごすわけにはいきません。貴殿の剣、主に届かせるわけにはいかないのです。止めさせていただきます……!」
「それが……汝の答えか!」
いつもどおり、黒い兜の内側には何も見えない。
しかし、そこに悲壮なものがあることを感じ取った俺は、やむなくバスタードソードを構えた。
少しでも面白いと思っていただけたなら、
下にある「ブックマークに追加」をクリックしていただけたり、
「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしていただけると励みになります。
よろしくお願いします。




