第18話:Process4[悪しき原因]Flow4
まさかライヒアルトの方から着信があるなんて。
俺は自分の心が刃に変わるのを感じた。
「おい、この前はしでかしてくれたな。自分が何してるかわかってんのか?」
「……はい、もちろんです。今日は、その……お詫びを、申し上げたくて……」
ライヒアルトは甲冑の中で俺から目を逸らしたらしい。なにかライヒアルトの、葛藤、のようなものを感じた。
それでも俺は糾弾せずにはいられない。
「お詫びって、なんのお詫びだよ。『誘拐犯を連れ去ってゴメンナサイ』ってことか?」
「……それも、少しはあります。ですがなにより、ファシエ殿が襲われたと聞いて……」
それを聞いて、俺の心の中の刃がより鮮明に形作られたのを感じた。
「……そうか。その原因の一端がお前にあるってことは、分かってるんだな……」
「リ、リガル……」
隣のファシエは、不穏な俺たちの雰囲気に不安を感じているらしい。
一方、ライヒアルトは俺の言葉に答えた。
「その通りです。なのでファシエ殿にお詫びを申し上げたいと思い――」
「………………」
腹が立つ。フザけるなと言いたい。
しかし、ファシエ襲撃の件で一番悪いのは模倣犯の方だ。コイツに当たっても仕方がない。
俺が怒りを抑え、呼吸を整えていると、ファシエが言ってきた。
「リガル、ライヒアルト様とお話しさせてください」
「……もう、大丈夫なのか?」
「はい。それに、ライヒアルト様が何をお考えなのか、私も知りたいと思います」
「………………」
その言葉を聞き、ライヒアルトは声もなくうつむいた。
なんだ? コイツはコイツで苦しんでいるみたいに感じる。
そう思った俺は、二人の話したいようにさせようと思った。
「分かった。おい、ライヒアルト。これ以上ファシエを苦しめたら斬り潰すからな」
「はい。承知しています」
「……そうか。じゃあ、ほら、ファシエ」
俺はファシエに通信魔道具を渡した。
「ありがとうございます、リガル。お久しぶりです、ライヒアルト様」
「……武器屋でお会いして依頼ですね、ファシエ殿。冒険者による襲撃の件……お怪我がなくて、その……」
言葉を詰まらせているライヒアルト。しかし奴に対し、ファシエは微笑んでみせた。
……ファシエのこういうところは、すごいと思う。
「幸い、大丈夫でした。私には今、心強い仲間がいますので」
「……それでも、申し訳ありませんでした。私がシュラーを連れ去っていなければ……」
「考えすぎですよ、ライヒアルト様」
「いえ、そんなわけにはいきません! シュラーを騎士団がしっかり取り調べていれば、模倣犯の存在は早期に明らかになったでしょう。そうなればきっと、あなたが危険な目にあうことはなかったはずです!」
ライヒアルトの口から、堰を切るように、一気に流れ出した言葉。
そうか……こいつも、自分の行いが想定外の事態を引き起こして、苦しんでいたんだな……。
俺がメイの万引きを見逃したことで、シュラーが誘拐犯だと分かるのが遅れたように。
そのライヒアルトに、ファシエは穏やかに語り掛ける。
「ライヒアルト様、伺ってもいいでしょうか?」
「……はい」
「なぜ、シュラーさんを連れ去ったのですか?」
「それは……今の司法制度では、シュラー殿が……いえ、申し訳ありません。詳しい事情は、どうしても……」
なんだ? 『司法制度』……? バールーフみたいなこと言い出したな、コイツ。
「そうですか……ライヒアルト様にも、なにか理由がおありなのですね……」
「くっ……しかし、そのせいで、危うく貴女は……!」
ライヒアルトも、ファシエに謝罪したいと思っているのは本当らしい。
どうしようもない感情を、なんとか言葉にしているのを感じる。
あの黒い兜の下で、コイツはどんな顔をしているだろう……?
「はい。わかっております、ライヒアルト様」
ファシエは、やはり穏やかにライヒアルトの言葉を受け取る。
一方のライヒアルトは、もうぐったりとしたようすだ。体の芯から力が抜けている。
そのタイミングで、俺は二人の会話に割り込んだ。
「おい、ライヒアルト。ファシエは寛大だからああ言ってるけどな、俺は納得いってねえからな? とっととシュラー連れて出頭しろ」
ライヒアルトは、ぐったりしたまま、
「少し、考えさせてください……」
と言い、通信を切った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ライヒアルトとの通信からしばらくして、エニア達が帰って来た。
そして魔道具解析の成果をエニアから聞いた俺は驚いた。
メイの伯母・マーサが模倣犯だったとは。
「シュラーはその魔道具、買ってなかったのか?」
「そうです。買ったのはマーサさんだけ、しかも10個も買っています」
「多いな……じゃあ、シュラーが使っていたのは……」
「マーサさんから渡ったんでしょうね。それ以外に入手方法がありませんから」
「ちょっと待て、マーサが魔道具を買った時期は?」
「最初の誘拐の1週間前です」
「じゃあ、マーサは最初から……」
「シュラーさんに誘拐事件を起こさせ、その裏で自分たちも誘拐し、折を見て身代金をとろうとしていたのでしょうね……」
「マジか……」
思ってたよりだいぶ狡猾な奴らだな。
「それで、どうするお前ら? このままマーサのヤツをシバきにいくか? あいつら、使用人の方も全員、多分犯罪ギルドのヤツらだぜ」
「はい、なのでスコットさんに一度連絡したいとおもいます。マーサさんたちを拘束するのにも人手がいるでしょうし……」
ここで暗い顔をしたクードがぼそりと呟く。
「犯人どもの汚い首がつながっていればの話だけどね」
「お、おい……殺すなよ?」
俺はクードならそんなことはしないだろうと思いながらも念を押しておくが……
「相手の態度次第だね」
「くーど……なんか、コワい……」
今回のクードは大分頭にキてんなあ。ヒスイもクードから距離をとって、ちょっと震えている。
まあ、とりあえず……
「スコットには明日朝イチで連絡するわ。俺はマーサたちの捕縛には参加できそうもないが……」
そういってチラッとクードを見ると、
「問題ないよ。今回だけは、僕に譲ってほしいな」
クードは早くも【魔双剣】の手入れをしながら答えた。
なんだか、ものすごい危なっかしさを覚えた俺は、小声でプリシラに話しかける。
「なあ、もしクードがブチギレたら、お前の重力魔術かなんかで抑えてくれよ?」
そしたら、プリシラはあっけらかんと答えた。
「その時は、アホ毛様がなんとかしてくれるってー」
「そ、そうか」
元A級8位を抑えるアホ毛っていったい……。いや、今更か。コイツに関しては。
「じゃあ、明日お前らはマーサたちの捕縛ってわけだな?」
「はい、そうですね! ファシエさんやメイちゃんの分まで、ボコボコにしてやります!」
「分かった。俺も早く、ライヒアルトとシュラーを見つけないとな……」
そのライヒアルトから、ついさっき通信があったことは黙っておく。クードが更にキレそうだったからだ。
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