第15話:Process4[悪しき原因]Flow1
俺は工房に戻り、エニアに『現場に残っていた闇魔道具』と『闇魔道具商の情報一覧』を渡した。
エニアは張り切って闇魔道具の解析にかかったが、そんなにすぐ終わるものではないらしい。
そして、ファシエは別の個室で休んでおり、メイも一緒にお昼寝しているらしい。
ちょうどいい。俺はファシエやメイを除いたみんなに聞いてみたいことがあった。
「なあ、お前ら。お前らが仮にシュラーに対する罰を決められるとしたら、どうする?」
しかし、そんなことをいきなり聞いても、エニア達を困惑させてしまったみたいだ。
「え? それって、どういう……?」
「……?」
「なになに? なんの話?」
「なにかあったのかい? リガル」
「ああ、スマン。ちょっと最近悩んでてさ……」
そして俺は、バールーフから『犯罪を行うしかなくなるほど、自分以外の要因に追い詰められた人を裁くにはどうしたら良いか』『罪を裁くとはどういうことか』という問いを投げかけられたことをみんなに話した。
「う~ん……『罪を裁くとはどういうことか』っていうのは分かりませんけど、確かにシュラーさんを処刑してしまうのはやりすぎだとおもいます。シュラーさんの事情もちゃんと考慮するべきだと思います」
というエニア。
「わたしは、どんな事情があっても、やっちゃいけないことをやったら、その分の罰をうけて当然って言われてきた……でも、それだと、『罰を与えればそれで終わり』みたいになっちゃう気がする……」
というヒスイ。
「僕もはっきりと答えは出せないけど、人の自由意志の力をどこまで信じるかが問題だって気はするね。その犯罪者が能動的に動いていたのか、受動的に動いていたのかはどうやって考えるべきなんだろう?」
というクード。そして、
「え? 悪いことしたら、『悪いことしちゃダメ』って言っちゃいけないのー?」
……プリシラには難しい話題だったか。と思った時だった。
控室にふらりと入ってくる人影があった。
「あの……私もお話ししたいのですが……」
ファシエだった。俺はちょっと気まずいような気がした。内容が内容だからだ。春に罪を犯したばかりのファシエには酷なんじゃないか……?
しかし俺は、ファシエが話したいというなら、口にさせた方がいいだろうとも思った。
「分かった……ファシエの話も聞かせてくれるか……?」
そして椅子に座り、ファシエは語る。
「……春の魔物暴走事件のときの私は、完全にウィリオンの操り人形でした。リガルたちを陥れているときも、『ウィリオン様がそう言っているから』というだけで信じ、自分ではもう何も考えられていませんでした。それはきっと……」
そこでファシエは、ちらと俺を見て、言いづらそうにうつむいた。
「いいんだ、ファシエ。言ってくれ」
ファシエは頷き、
「私は誰かを信じ、依存しなければ落ち着かない性質があったと思うのです。そして、最初に依存したのが、かつてのリガルでした。しかし、リガルは……2年前……」
そこで俺は気付いた。みんなも気づいただろう。ファシエの顔色が悪い。
「ファシエさん! 言いたくないなら言わなくていいんだ!」
「そうです! そんな無理してまで……!」
「シエさん、だいじょぶー? 店長呼ぶ?」
「ふぁしえ……」
ファシエを心配するみんな。だが俺は、あえて踏み込んだ。
「ファシエ……聞かせてほしい。続きを」
「リガル! 君は……!」
俺の言葉に、反射的にだろう、クードが立ち上がった。
しかし、当のファシエがそれを止める。
「クード、ありがとうございます……。でも大丈夫です。言うべきことは、言わないと……」
ファシエは深呼吸してから、言った。
「あの時の私は、リガルに失望しました。どうして私を守ってくれなかったのかと」
このあたりの心境は、前にも聞いた。だから、もう一度無理して言わせることはないという、みんなの意見は分かる。
だけど俺は、その先のことが聞きたかった。
「そして、依存していた存在を失った私は心が弱っていたのだと思います。ですが、それでもウィリオンのことを無条件に信じたのは、自分のせいだと思うのです。私は、自分自身で冷静に考えて判断しなかったのですから。誰にだって過ちや、失敗をすることがあります。【神剣】だってそうです。それを私は、一度の失敗で手のひらをかえすように……浅はかでした」
ファシエは呼吸を整えるようにし、話を続けた。
「しかし、バールーフ様に言わせるならば、そんな私の心の性質すらも、外的要因が重なり、巡って形成されたものかもしれません。しかし、私自身は、私の行動が積み重なってできたものだと思うのです」
そして、最後にファシエは言った。
「私は確かに罪を犯し、裁かれました。そして、裁かれてよかったと思っています。そうして初めて、自分の弱さに向き合えたのですから」
そうか。ファシエも、ずっと考えてたんだな……。
ファシエが話を終えてから、いっとき、俺たちの間に沈黙が下りた。
しかし、そのうちエニアたちが口を開いた。
「ファシエさん、悩んでたんですね、辛かったですね……でも、今は私たちがいますから!」
「そうさファシエさん! 今は僕たち仲間がいる! そしてゆくゆくは、仲間以上のいやらしい関係に……」
バカなことを言いかけたクードをヒスイがどつく。
「くーど、余計なこといわない……でも、ふぁしえが仲間なのはホント……」
そしてプリシラも、
「シエさん、なんか悩んでたのー? なんかよく分かんなかったけど、でももう、だいじょぶだよ! アタシたちがいるし!」
よく分かってなかったのかよ。だが……
「ファシエ、よく話してくれたな。俺たちはこんなんだけど、もう仲間だ。これからは、言いたいこと言って、頼りたいことがあったらまた頼ってくれていいから」
「はい……! 皆さん、ありがとうございます……!」
涙を流しながら、不器用に笑おうとするファシエ。
その表情を見て、俺はバールーフの問いに対する答えを決めた。
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