第14話:Process3[罪を引き、罪に引かれ]Flow3
子供を誘拐された騎士の男性、ブルーノさんはコレルスのジジイに事件の解決をお願いした。
そしてジジイは、【神剣】シリウス・カリバーなら信頼できるから、ジジイから彼に連絡をしておくこと、そしてシリウスから騎士団に連絡がいかないよう徹底させることを約束した。
2年のブランクがあるとはいえ、【神剣】は以前民衆の英雄と認識されているらしく、ジジイの人を安心させる雰囲気もあって、ブルーノさんはひとまず胸をなでおろしていた。
しかし、驚いた。シュラーの誘拐の裏で、別の誘拐事件が発生していたとは。シュラーを発見する前に身代金回収されて高飛びされたら、最悪捕まえられなかったぞ。
あと、本当に騎士団に内通者がいた場合が怖い。この模倣犯の件、本当にスコットに相談すべきか……?
そして昼過ぎ、工房に戻った俺はもう一度驚くことになった。
ファシエが蒼白な顔をして、椅子に座ってうつむいていた。傍らには、ファシエを支えるようにクード。ヒスイ、プリシラ、メイも心配そうな顔をしている。なにかあったのか。
そこに、厨房からエニアが入ってくる。
「ファシエさん……カモミールティーです。落ち着きますよ……」
それを一口飲むファシエ。しかしその表情は変わらない。
俺はたまらず、尋ねた。
「おい、ファシエに……なにかあったのか?」
俺の問いにはエニアが答えた。
「ファシエさん……襲われたんです。商店街で、娘さんを誘拐されたお母さんに」
「な……!? なんでそんなことに……!」
「そのお母さん、誘拐犯がウチの武器を使っているって噂を真に受けていて……それで、誘拐が始まったのと同じような時期にウチに来たファシエさんを怪しんでいたらしいんです」
なんだそりゃ……、あの噂が巡り巡って、こんな事態に……!
いや、ちょっと待て。
「そのお母さん、騎士団に通報とかしていなかったのか? なんでいきなり、自分で……」
「犯人から身代金を要求する手紙があったらしいんです。しかも、騎士団と冒険者ギルドの中に内通者がいると……だから、そのお母さんは、思いつめていて、その時にファシエさんが目に入ったものですから、目の前が真っ赤になったらしくって……幸い、ヒスイさんが一緒にいたので、【拒絶の盾】で防げたんですけど……」
「マジかよ……」
まだファシエの心が癒えきっていないときに……!
しかもブルーノさんの時と同じ状況だ。
「そのお母さん、職業は分かるか?」
「冒険者だそうです。女で一人で、3人の娘を育てているとか……」
間違いないだろう。シュラーが誘拐したとされていた『冒険者の三女』と『騎士の家の三男』は模倣犯の仕業だ。シュラーが見つかって、もう新たな誘拐はできなくなったと分かって身代金の要求に移ったのか。
「なあ、エニア、お前ら……状況、分かってるよな……?」
俺は皆に問いかける。
「はい。そのつもりです」
「なんか、悪い人が他にいるんだって聞いた! 最悪だよ!」
「うん……模倣犯がいる……」
「お父さんの真似をして、他の家の子たちを……」
「……その果てにファシエさんが……! 許しては、おけないね……」
全員、怒り心頭に発しているようだ。特に今のクードの前に模倣犯を連れてきたら、即座に滅多斬りにしているだろう。
これはもう、聞くまでもないが、俺は一応聞いてみた。
「俺はシュラーとライヒアルトの方で手いっぱいだが……やるつもりか?」
皆を代表してか、エニアが力強くうなずいた。
「はい。黙っていられません」
それを聞いてか、ファシエはハッとした表情で顔を上げた。
「み、皆さん!? 何をするのですか!? まさか、危ないことを……!」
心配そうなファシエに全員が答える。
「仲間をこんな目に合わせた人たち、ただでは済ませません」
「ふぁしえ、おかし作ってくれる……いじめる人、悪い人……」
「だいじょーぶだって! アタシたち、さいきょーだから!」
「逆に模倣犯の心配をするべきかな。今回、僕は手加減するつもりはないよ」
メイまでファシエのそばに来て、椅子の上に立ち上がり、ファシエの頭を撫でる。
「ファシエお姉ちゃん、メイが寂しいとき、傍にいてくれた。今度はメイが傍にいるね。よしよししてあげるね」
「メイちゃん……」
ファシエの目に涙が盛り上がる。
「でも、リガルお兄ちゃんはメイのものだから」
「ふふっ……そうなんですか、分かりました」
「おいファシエ、『分かりました』じゃないだろ、『分かりました』じゃ」
ファシエの目からは涙がこぼれたが、その表情はやっと明るくなった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ファシエの心が持ち直したのはほっとしたが、俺は急いでシリウスモードで騎士団の本部に向かっていた。
商店外でファシエを襲った女性冒険者は、騎士団と冒険者ギルドに内通者がいることを暴露したらしい。
この情報が騎士団に広まり、かつ本当に内通者がいた場合、誘拐された子供が危ない。
俺はスコットひとりを呼び出して、模倣犯の件を説明した。すると、スコットも模倣犯の存在に思い至っていたらしい。どうやら、女性冒険者を取り調べたのがスコットの部下で、そいつは俺と同じことを考えてスコットのみに相談したとのこと。部下、お前ナイスだよマジで。
これでいまのところ子供たちに危害が及ぶ必要はなくなった。
しかし、今後の捜査が問題だ。模倣犯を表立って探すことはできない。
信頼できるメンバーだけで小規模のチームを作るのも考えた。でも「小規模のチームを作ってこそこそ別の捜査をしている」というのは内通者から見ると、模倣犯を探しているように見えるだろう。
そこで俺は提案した。
「スコット。模倣犯の件、ウチの店のメンバーに任せてみないか?」
「エニア殿たちに、ですか?」
「なに、捜査権をよこせとは言わない。ひとまずは騎士団の持っている情報を教えてくれないか? ウチのメンバーなら分かることがあるかもしれない」
「………………」
スコットはしばらく考えていたが、
「そうですね。ちょうどウチの魔術捜査班では解析しきれないものがあったところですし……ここはひとつお願いします。とはいえ、騎士団に内通者がいないと分かるまでです。この後、隠密に長けたメンバーで模倣犯対策チームを組織しますので」
「妥当なとこだな、了解だ。ところで、解析しきれなかったものってのは?」
「シュラーが子供たちを昏睡させるのに使っていた魔道具です。どうやら闇で出回っている特殊な品らしく、解析が思うようにいかないのです」
「なるほど。そりゃウチ向きだ」
「ええ、エニア殿ならあるいは、と。一緒に、騎士団が把握している闇魔道具商の情報もお渡しします。くれぐれも漏洩の内容にお願いしますね」
「分かった」
そして俺はスコットから預かった魔道具と闇魔道具商の情報を手に、エニア達の待つ工房へ戻った。
これが俺たちの両面作戦の始まりだった。
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