第13話:Process3[罪を引き、罪に引かれ]Flow2
捜査からの帰り、夕暮れの、なぜか他に誰もいない広場でバールーフと出会った俺。
「……汝、最近よく出てくるな」
「ふむ、その言い方では害虫扱いされている気がするが……貴公らの間では、そのような言い回しが流行っているのか?」
「そういうわけではない」
バールーフはたまに俺たちの間での流行などを気にすることがある。なぜかは知らない。考えてもどうせ分からないだろうしな。
「そうか。私は先日言ったように、この事件の犯人に興味がある。そして今日は、貴公に尋ねたいことがあって来た」
「尋ねたいこと、だと?」
「貴公は、シュラー・エウケイロスを捕縛してどうするつもりなのだ?」
その質問に、俺は少し面食らった。予想外の質問だった。
「どうと言われても……それは当然、法に従って処罰をするまでだ」
「今回の事件は王族の子息が誘拐されている。王家の命令で処刑が言い渡されることも大いに考えられる。それでも貴公は王国の法によって裁くべきだと主張するか?」
「……ッ! それは……」
俺の脳裏にメイの悲しむ姿がよぎる。
できない。
たとえそれがこの国の法であったとしても、俺は子供が悲しむような結末はごめんだ。
俺の考えを見通したのだろう、バールーフは俺の返答を待たずに話をつづけた。
「私はだ、貴公。シュラー・エウケイロスをこの国の法によって裁くことは誤っていると考えている」
「……それはまた、はっきり言うな。汝は」
うむ、とバールーフは首肯して続ける。
「犯罪者の中には、犯罪を行うしかなくなるほどに追い詰められた人たちがいる。今回の誘拐犯、シュラー・エウケイロスもそうだ。息子の死による悲しみ、周囲からの心無い批判、そして起こる償いの気持ち。そのようなことが原因となり、自己の能動性を失い、受動的に罪を犯した者たちに犯罪の責任を問うことは本当に正しい事なのか?」
「……それは……」
俺は答えられない。シュラーは確かに、何かに操られているように感じたからだ。それを「能動性を失っている」「受動的」というなら、そのとおりだと思った。
「シュラー・エウケイロスのような者が犯罪者となった外的要因が存在するのではないか。罪を裁くとはどういうことか。このような視点がこの国の法には欠落していると、私は考える。貴公はどう考える? シリウス・カリバー」
「……分からない。考えたことも、無かった……」
情けない俺の答えに、それでもバールーフは失望した様子もない。
「そうだったか。では、少し考えてみるといい。なかなか興味深い命題だ」
そしてバールーフは歩いて去っていく。
その背中を見ているうちに、この人物に尋ねるべきことがあることに気づいた。
「待ってほしい、汝に尋ねたい。汝の転移術は、使った後に痕跡を残すものか?」
振り向いたバールーフ。その表情はいつもと全く変わらない。
「残さない。私の転移術は、魔術でも異能でもないからだ」
「何……? では汝の転移術とは何であるのだ?」
そこでバールーフは、ふむ、と一瞬考える仕草を見せた。そして答える。
「貴公にはいずれ明かしてもいいが、今はその時ではない」
「……? なんだ、その答えは……? まあいい、最後に聞くが、ライヒアルトを転移させたのは貴公の転移術によるものか?」
「その可能性はある。ライヒアルトには、私の転移術を込めた魔道具を貸与している。正確には『魔道具』と呼ぶのは誤りだが」
「そういうことか……ちなみに汝、やはりシュラーとライヒアルトの捕縛に協力する気はないのだな?」
「そのとおりだ。私にとっては、現在のこの国の法でシュラー・エウケイロスを裁くことは誤りだ」
「では、ライヒアルトに貸与した魔道具を回収、ないし無効化することは……」
「断る」
「くっ……汝は、いったい何を考えている…………?」
「それを貴公が理解することを期待している。では失礼する」
そうして、バールーフは俺を置いて去っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌日、俺はいつもの姿で孤児院を訪れていた。シュラーの犯行が確定した今、メイは一人だ。正確には伯母のマーサさんがいたが、メイはどうしても行きたがらない。かといって屋敷にひとりきりにするわけにもいかない。なので一旦孤児院に預けてはどうかと思って、職員のジョセフさんたちに相談しに来たのだ。
幸いまだ孤児院には余裕があるらしく、快く引き受けてくれた。そして、ジョセフさんたちに礼を言って孤児院を後にしようとした時、
「ご、ごめんください……」
と、弱弱しい男性の声がした。見ると、きちっとしたこぎれいな身なりの男性がいる。しかし、その顔は真っ白だ。なんか、見るからにヤバそうだ。ジョセフさんも男性の様子を見て慌てていた。
「どうなさいました! お加減でも悪いのですか!?」
ジョセフさんに案内されて机に座り、水を出されるも、それに口を付けずにあたりをせわしなく見回している。しばらくそうしていたが、男性はやっとジョセフさんと話し出した。
「あの、ここは……コレルス様の孤児院ですよね……」
コレルス・ステノ。この孤児院の代表であり、S.Ⅹ【無償の愛】の二つ名を持つ。俺の育ての親にして、【隋変一心流】を生み出した、俺の戦いの師匠だ。
「はい、そうですよ。ええと、それがどうかなさいました……?」
「コ、コレルス様に連絡することはできないのでしょうか……?」
あのジジイに連絡? 冒険者ギルドでなくてか? なにが目的だ、この男?
ジョセフさんも困った様子で返答する。
「コレルス代表にですか? それはちょっと難しいです。財団に連絡するなら魔道具がありますが、代表は今、他国の被災地で活動中なので、連絡はつかないと思います」
「そ、そうなのですか……では、せめて財団に言伝を……あ、いや、しかし……」
言伝さえためらっている男性。直接連絡したいのか? ……俺ならできるんだよなあ。【SABER】専用通信魔道具で。どうしよう、ちょっと詳しい話きいてみるか。俺は男性に話しかけた。
「ちょっと悪い。アンタ、直接コレルスのジジイに連絡取りたいのか?」
「え!? あ、あなたは……?」
「ああ、俺はジジイの孤児院の出でさ。あと、ジジイの戦いの弟子でもあるんだ。だから、なんとか連絡付けられると思うぜ?」
本当は百発百中で呼び出せるが、その辺はあえてぼやかした。『シリウス・カリバー』なら一発で信用されるんだろうけどなあ。今【銀狼の鎧】着てないし。
しかし、効果はてきめんだった。
「ほ、本当ですか!? ぜひお願いします!!」
顔を一瞬で真っ赤にして興奮し、俺の方をガシッとつかんで揺さぶってくる男性。
……あれ? この人結構力あるな。なんの仕事してんだろ。
「わ、分かったんで、落ち着いてくれ……」
「あ! し、失礼しました。それで、具体的にはどうすれば……」
「ああ、こういう時の特殊な魔道具があるから……ジョセフさん、どっか部屋貸してくんない? あと、周りの人払いよろしく」
「ええ、分かりました」
そしてジョセフさんが空けてくれた部屋で、あくまで「特殊な通信魔道具」と言って【SABER】専用通信魔道具を使う俺。まあ、たぶん俺まで【SABER】だとは思わないだろう。
「おーい、ジジイ。いる?」
するとすぐ画面にコレルスのジジイの顔が映る。
「おやリガル。どうしました? あなたの方から連絡をくれるとは、珍しいですねえ」
その穏やかな笑顔に、明らかに隣の男性がほっとしたのが分かる。
「いや~、実はさ。ジジイに頼みごとがあるっぽい人が孤児院に来ててさ~」
俺はちらっと男性に目配せする。すると男性は通信魔道具の画面に入るように顔を出し、
「お、恐れ入ります、コレルス様。じつは内密にご相談がありまして……」
ただ、そこまで言ってから、やっとハッとした顔で俺を見た。ジジイ以外の人にはどうしても聞かせたくないのだろう。
しかし、ジジイは男性を安心させるように言った。
「ご安心ください。その子は私の一番弟子だった子。人柄は保証しますよ。どうか、私と一緒に力にならせてください」
俺は一応、ペコリと頭を下げる。
「ども。永久保証済みの一番弟子です」
我ながらテキトーな態度だったが、とりあえず男性は納得したらしい。
「で、では、どうしても助けてほしいことがありまして……」
そして男性が話した内容に俺は驚愕した。
その男性・ブルーノが、誘拐されてまだ見つかっていない子の父親の騎士だったからだ。
ブルーノさんが言うには、シュラーが行方不明になってから、子供を誘拐した犯人を名乗るものから手紙が届いたらしい。それは、やはり身代金を要求するもの。しかも、騎士団や冒険者ギルドの役員に内通者がいるとほのめかし、それらに相談でもしたら子供を殺すと脅迫されていた。しかし、要求された金額は大きく、ブルーノさんに支払える額ではなかった。
そして、騎士団の同僚にも冒険者ギルドにも頼れないブルーノさんは孤児院を通して、霊性ランクS級の間違いなく潔白な実力者、【無償の愛】コレルスに連絡をとろうとしたらしい。
俺は少し、混乱した。
どういうことだ? シュラーかライヒアルトが身代金を要求? いまさら何のつもりで……。
しかし少し考えて、『その可能性』に思い至った。
模倣犯が、いる。
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