第12話:Process3[罪を引き、罪に引かれ]Flow1
呆然としてしまった俺の元に騎士団が到着したのは、それからすぐのことだった。
「シリウス様! ご無事ですか!? シュラーはどうなったでしょうか!?」
スコットが駆け寄って尋ねてくる声で、俺は我に返った。
「――っ! す、すまない。子供たちは、そこの廃教会の中で見つけたが、シュラーには、逃げられてしまった……」
「なッ!? シリウス様から、逃げおおせるとは……!」
スコットはいっとき驚いていたが、すぐに何かを考えるような顔をした。
「シリウス様……何か、あったのですか?」
「……察しがいいな。そのとおりだ。だが、ここでは……話せない」
「……分かりました。では後ほど、本部で内密に……」
そして、廃教会を調べていた騎士たちから報告が入る。
「小隊長! さらわれていた子供たちが見つかりました!」
「無事だったか!?」
「命に別状はない様子です! 魔道具で昏睡されていただけでした! ただ……」
「どうした?」
「子供たちの数が足りないのです。幸いと言っては何ですが、エレオス殿下はいらっしゃいます。しかし、冒険者の家の子供と、騎士の家の子供は見つかりません!」
「なんだと……? シリウス様、シュラーは子供たちを隠した様子でしたか?」
「いや……そんなそぶりは見せなかった」
「どういうことだ……? いや、それよりも、今は……」
スコットは俺に向き直って言った。
「シリウス様、本部まで来ていただけますか? なにがあったのかをお聞かせください」
「ああ……分かった」
そして捜査を続ける騎士団を残して、俺はスコットと共に本部へ移動し、そこで一部始終を話した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌日。
俺は再び『シリウス』姿で冒険者ギルドへ向かっていた。
昨日、騎士団本部でスコットと話したことをゲオルグ支部長にも連絡するためだ。
まず、騎士団は俺とシュラーの後を追っていたが、貧民街の途中で奇妙な現象に遭っていたらしい。
なんでも、道を進んでも、気づくと元の場所に戻ってしまっていた、というのだ。しかも、魔術の痕跡はなかったらしい。まあ、どうりでシュラーやライヒアルトと戦っている間に騎士団が来なかったわけだ。今のところ原因はわからないが、ライヒアルトが何かしたのかもしれない。
しかし、【SABER】専用通信魔道具でライヒアルトを呼び出したが、連絡がつかない。ギルドマスター経由での連絡も試みたが、反応なし。
幸い、見つかった子供たちは無事だったらしい。昏倒する魔道具を使われていたせいで、ヒューレ店長の大型観測機に引っかからなかったのだろうということだった。
また、シュラーがアジトにしていた廃教会から手記が見つかり、『テッドのためにもっとたくさんの友達を天国の街に送らなければ』と書かれていたらしい。
これをもって、騎士団はシュラーが別の場所にも子供を監禁していると考え、その場所を捜索するとともに、姿を消したシュラーとライヒアルトの捕縛を目標に設定した。
俺はこれらのことを、直接支部長に伝えた。
支部長は驚き、頭が痛そうにしていた。無理もない。【SABER】が犯罪者を無断で連れ去るとは。
そして早速、俺の【SABER】専用通信魔道具に着信がある。内容は、依頼の内容を『シュラーの捕縛』から『シュラーおよびライヒアルトの捕縛』。騎士団から要請の更新がされたのだろう。受理した。
最後に俺は、何か分かったら連絡が欲しいと支部長に頼み、冒険者ギルドを後にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今日騎士団は、ライヒアルトが消え去った仕組みを分析する予定だと聞いた。だから俺はいったん工房に寄り、エニアをつれて騎士団の捜査に合流した。それにエニアの【観測機】が役立つかもしれないと思ったからだ。
現場に到着した俺にスコットが駆け寄ってくる。
「お疲れ様です、シリウス様。と、エニア殿でしたね。えーと、もしかすると、現場の分析にご協力いただけるのでしょうか?」
「うむ、その通りだ。さすが話が早いな」
「恐れ入ります。どうにも通常の魔術や魔道具でもないようで、我々もてこずっておりました。エニア殿、ひとつ見ていただけますか?」
「分かりました。やってみます」
そしてスコットは俺とエニアを先導する。場所は、昨日ライヒアルトが暗い穴に消えた場所だ。
エニアは【観測機】を目に当て、【演算機】を取り出し、カタカタと操作を始める。
俺は武器評価のたびに見るのでもう見慣れているが、騎士たちはそうではないらしい。主に魔法的な捜査を行っているらしい騎士たちや、ローブ姿の魔術師っぽい人たちがエニアの一挙手一投足を興味深げに見ている。多分、ローブ姿の方は魔術師ギルドの協力者だろう。
そして、しばらく様々な『アプリ』とやらで分析を続けていたらしいエニアは、首を傾げた。
「おかしいです……完全になんの痕跡も残っていません……魔術によるものでも、異能によるものでも、普通はなにか痕跡がのこるものなのですが……」
それを聞いてスコットも頭をひねっていた。
「そうなんですよね……何をどう調べても、何の痕跡も出てこない。シリウス様、確認ですが、ライヒアルト氏が消えたのはこの位置で間違いありませんか?」
「ああ、昨日の戦闘や魔術の後からしても間違いない」
「う~む……そうですよね……」
「エニア、汝の師匠が持っていた、大型の観測機を使えば何とかなりそうか?」
「無理でしょうね。師匠のものは超広範囲を対象にできますけど、今みたいに特定範囲を対象とする場合は、私の【観測機】と差はでないでしょう」
「そうか……」
「まあ、分からないものにあまりこだわっても、捜査は進展しません。ここの分析は魔術師ギルドの方にお願いするとして、我々はシュラーおよびライヒアルトの捕縛、そして残りの子供たちの捜索に当たりましょう」
スコットはそう判断し、騎士たちを集めて命令を伝達し始めた。
その間に俺は、再び分析を続けるエニアと話す。
「なあ、エニア。魔術や異能の痕跡って、絶対検出できるものなのか?」
「それは確実に言えます。この分析アプリを実装する際に、きっちり評価したうえで確認しました」
「そうか……じゃあなんなんだ? 昨日ライヒアルトが使ったのは……?」
「う~ん……なにかひっかかります。なにか前提を変えなければいけないような……」
エニアは一生懸命考えていたが、結局その場で答えは出なかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それから、俺はその日の夕方、「今日はもう捜査ではなく体を休めてほしい」とスコットから提案された。
昨日、俺は別に一太刀も浴びていないのだが、もう何日も捜査詰めだったからありがたく休息をとることにした。
メイの様子も気になる。
シュラーを見つけたが、ライヒアルトに連れ去られてしまったことは、今朝のうちにメイに話した。メイは動揺していたが、今はもう大丈夫だろうか。
そんなことを考えながら、珍しく人気の全くない噴水広場を歩く。
まあ、今は『シリウスモード』だから人気がないのはありがたい。
だが、俺の足は不意に止まる。
噴水傍のベンチで、黙々と知恵の輪に取り組んでいる人影を見つけたからだ。
その人物は、俺を視界にとらえると、知恵の輪をしまって、話しかけてくる。
「貴公、どうやら問題があったようだな」
【安全装置】バールーフだった。
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