第7話:Process2[久しき銀狼]Flow1
「あ、あなたが【神剣】シリウス……! お目にかかれて光栄です! あ、握手していただけますか……?」
「ああ、もちろんだ」
「お、俺の剣にサインしてくれませんか!?」
「あ、ずるいぞお前!」
「ははは、汝ら、サインくらいならいくらでもしよう。だから順番に並んでほしい」
ははは、「汝」だってさ、「汝」。2年ぶりに口にしたよ。
でも2年前までの俺はずっとそうしていたから、いまさら変えられない。ちくしょー。ハズイよー。仮面あってよかったー。
俺はゲンさんとの会話の後、家の隅っこに置きっぱなしだった、かつての俺が愛用していた鎧と仮面のセット、【銀狼の鎧】を引っ張り出し、工房で急いで手入れして、商品のバスタードソードを一振り借りてから騎士団の待つ噴水広場に合流した。
いまは若手騎士に囲まれて質問攻め・サイン攻めなんかにあっている。
「あ、あの、シリウス様。今日お持ちのバスタードソードは、どこで……」
「う、うむ。有名なヒューレ錬金術工房で武器を売り出したと聞いてな。これがなかなか良質なものであったから、試しに使ってみるつもりなのだ」
「や、やべえ……じゃあ、あの工房で買えば、俺もシリウス様レベルの攻撃力が……」
なんて言った騎士の頭を、同僚らしい女性騎士がどつく。
「バカ。同じ剣使っても、あんたが同じ土台に立てるわけないじゃないの」
「でもさ! あの【神剣】シリウス様と同じ剣だぞ! ロマンじゃん!?」
「それは、まあ、確かにそうね……」
あ~あ、やっぱり人気だなー、【神剣】シリウス。
2年前まではこんな扱い受けて英雄気取りだったけど、一回冷静になってみるときっついなー。
騎士団の集団の周りまで市民で埋まってるし。うわ、ロイたち孤児院の子もいるよ。
で、そのなかで、すごーく複雑な顔をしている少女がひとり。
言わずもがな、エニアだ。
「あ、あれがS.Ⅱ【神剣】シリウス・カリバー……! あれが【銀狼の鎧】……! くっ、かっこいいです……。あれの中身がリガルさんだなんて……リガルさんだなんてぇ……!」
とか言っているのが聞こえる。
武器屋のメンバーも全員いるし。クードは懐かしそうに、ヒスイやプリシラ、メイは物珍しそうに、ヒューレ店長はニヤニヤして、そしてファシエはにこにこしている。
うう、ファシエの前でこの格好すんのが一番つらい……! ああ、2年前のトラウマが……ヤバい。【棄却】でそう。でちゃいそう。
そんな感じで俺が内心で悶えながら若手騎士たちの持ち物にサインをしていると、スコットがやってきた。
「シリウス様、現在の捜査状況をご説明申し上げたいので、会議室までご足労願えますか?」
「分かった。よろしく頼……」
「ま、待ってくださいよスコット小隊長! 俺まだシリウス様のサインもらって……」
そんなことを口にした若手騎士はスコットに一喝される。
「バカなことを言ってるんじゃない! ……失礼しました、シリウス様。参りましょう」
「そうだな。汝、済まぬ。サインはまたの機会にして欲しい」
そして俺とスコットは本部の会議室に向かった。
「サイン、忘れないでくださいねー! 絶対ですよー!」
という、未練がましい若手騎士の声を背中にうけながら。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして会議室。俺は捜査班の現場指揮を執っているスコットから現在の捜査状況の説明を受けようとしているのだが……。
「なあスコット、その『シリウス様』ってやめてくんない? 今になってくるとハズいんだよこの名前……他のヤツがいないときだけでいいからさー」
「そうは参りません。公私の区別はつけさせていただきます」
「そうっすかー」
「シリウス様」
俺を咎めるように、強い口調で言うスコット。
「わ、分かった。汝の言う通りにしよう。それにしても、なぜ『我』に要請することになったのだ?」
「昨日遅く、エレオス殿下の警護に当たっていた、例の誘拐犯に深手を負わされた騎士が目を覚ましました。そして、犯人の動きがシュラー殿に酷似していると証言したのです。よって、少なくともシュラー殿が殿下を誘拐したのは確実といっていいでしょう。よってシュラー殿を捕縛する優先度は最上位になりました」
「そうだったか……」
仕方がないから『シリウス様』のまま説明を受ける。
まず、誘拐された子供はエレオス殿下も含めて6名。それだけの子供たちを、一切周囲に気づかれることなく監禁している。しかし、身代金の要求はない。
あるいは、考えたくないが、すでに殺害しているかもしれない。しかし死体は見つかっていないし、殺害が目的であればそもそも誘拐する必要がない。
監禁している場合、あるいは殺害する前にもっと残虐な行為に及んでいる場合、それなりの設備が必要だ。
よって騎士団は一定以上の広さを持つ、一軒家を中心に立ち入り捜査をしていたらしい。しかし、今のところ手がかりなし。
「子供たちを分散して監禁している可能性はないか?」
「当初はそれも考えていましたが、子供とはいえ人ひとりを周囲に全く気付かれずに監禁するのも困難です。単独犯ならなおのことです。一か所に集めている可能性が高いかと」
「しかし、『一定以上の広さを持つ一軒家』というのも、このシデロには無数にあるのではないか?」
「おっしゃる通りです。もう少し対象を狭めることができれば……」
ここまで話していて、俺はひとつのアイデアを思いついていた。
「スコット。うまくいけば、それは可能かもしれん」
「……! 本当ですか!?」
「ああ、ある人物に協力してもらう必要があるが……」
そして俺とスコットはその人物の元へ向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その人物がいる場所、それは――
「おや、『ヒューレ錬金術工房』ですか?」
「うむ」
そう俺が思いついたのは、エニアの【観測機】で人の反応が不自然に固まっている場所を探せないか? ということだ。
それを確認しに、俺は工房にスコットを連れてきたわけだ。
そして店に入ると、当然エニア達は俺に気づく。
「あれ? どうしたんですか、リ……シリウス様」
エニアのやつ、俺を本名で呼ぼうとしたな。まあいいけど。
「あー、エニア。こいつ、スコットって騎士なんだけど、こいつは俺の本名知ってるから『シリウス』呼びしなくていいぞ」
「え? そ、そうなんですか?」
「まあ、私は職務なので『シリウス様』とお呼びしますが」
あくまで自分の姿勢は曲げないスコット。
「えと、それではリガルさん、スコットさん、なにかご用ですか?」
「ああ、お前の【観測機】で探してもらいたいものがあるんだよ」
そして俺は、俺の狙いをエニアに説明した。すると、
「なるほど、そういうことでしたら、師匠の持っている大型観測機の方がよさそうですね」
「お、そんなのあんの?」
「はい、あれならこの街の住宅の構造と居住人数、全部分かっちゃうくらいの能力が出ますから!」
「マジか。そりゃすげえな」
感心する俺の隣で、スコットが希望を見出したような顔をしている。
「それが分かれば、捜査範囲を一気に狭めることができそうですね」
「はい。早速師匠にお願いしましょう!」
そして俺たちは、ヒューレ師匠にこの街の住宅の構造と、住んでいる人の数を調べてもらった。
「うひひひ。このオレにかかれば、そんなん朝飯前だぜ。今昼飯前だけどなー」
そしてなんだかよくわからない、でっかい箱みたいな精密魔道具で、なんだかよくわからない操作をしていたけど、結果欲しかった情報は紙に印刷して得ることができた。
各住宅の正確な間取りや、どの部屋に何人暮らしているかなど、詳細すぎるほどの情報。スコットは返って戸惑っているくらいだった。
「こ、これほどの情報を市民の許可なく得るとは、なんと説明すれば……? いやでもエレオス殿下の捜索は王家から最優先だと言われていますし……ううむ……」
「確かに、こういうの嫌がる人多そうだな。ちょっと安易に考えすぎてたか……?」
俺もちょっと反省だな。
「いや、しかし、エレオス殿下たちの命を救うためです。活用させていただきます。ただ、ヒューレ様……」
「分かってるよ。騎士団の許可なく使わねえって」
「ご理解、感謝いたします……」
ちょっと市民の、特に上流階級の非難とかはありそうだが、これで捜索先を大幅に絞ることができるだろう。
俺とスコットは、全住居の情報をもって本部へ戻った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして本部へ戻った俺たち。その場にいた騎士全員に、店長に調べてもらった結果を共有した。
やっぱり怪訝そうな顔しているやついたなー。次からはもっと方法を考えるべきかな?
しかしそんな騎士たちも、スコットに「エレオス殿下、他5名の子供の命を優先しましょう」と言われれば不満の声はだせなかったみたいだ。
よって、店長にもらった調査結果をもとに、怪しい住宅への立ち入り捜査が決まった。それには俺も同行する。もし本当にあたりを引いたら、シュラーと戦うことになるからだ。
そして明日、俺が同行すべき最も怪しい住宅が決まった。
店長の調査結果とも合致するし、これに関しては異論はでないだろう。
最有力の住居、それはシュラーの姉、マーサの住む家だ。
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