第2話:Process1[導かれた少女]Flow2
そしてある日の昼下がり、俺は休憩時間におやつのプリンをまさに食べようとしていた。
しかし、そこにエニアが飛び込んでくる。
「リガルさん! 大変です!」
「後にしてくれ。俺は今比類のない神々しいような瞬間を迎えつつあってだな……」
しかし俺のプリンは皿ごとエニアに取り上げられてしまう。
「それこそ後にしてください! 万引きです!」
「今、俺はプリンの窃盗にあったのだが」
「アホなこと言ってる場合ですか! 強力な精神治療薬が万引きされたんです! リガルさんも早く追いかけてください!」
ビシッと外を指さして喚きたてるエニア。
あー、万引きかー。そりゃー大変だー。でもさー。
「他の3人に任せておけば大丈夫だって~」
「明日のプリンがなくなってもいいんですね?」
そうか、万引きか。他人様の物を盗もうなど、お天道様が見逃しても、このリガルさんが許さんぜよ。
「フッ、万引き犯くらい、俺に任せておきなさい。で、犯人はどんなヤツ?」
「……黒と白の上質そうな服を着た、長い黒髪の小さい女の子です」
なぜかエニアは、ちょっとあきれた顔をしながら説明した。
「え、子供?」
「そうです! だから下手に薬を使うとちょっと危ないんです!」
「わ、わかった。ちょっと見てくるわ」
俺は、店の外に飛び出し、他の3人が探していない方向の路地裏などを、飛ぶように探して回った。
そして、速攻でエニアから聞いた特徴と一致する子供を商業区画の片隅で見つけた。
早く帰ってプリンを食べたい一心がなせる早業であった。
そしてその子供に声をかける。
「おいコラー、そこのチビッ子ー」
「ひいっ……」
振り向いた少女の顔。なんだかものすごく怯えているように見える。
なので、俺はなるべく威圧しないように、かる~い口調で話しかけた。
「お前かー? ウチの工房から薬を盗んだっていうのはー?」
「ち、ちがうもん……」
首を振って否定する少女。
「じゃあ、いま後ろに隠しているモンをみせてくれよ。ウチの商品じゃないんだろ」
「そ、それは……」
しばらく少女はぎゅっと口をつぐみ、何かに耐えるような顔をしていたが、やがて泣き出しはじめてしまった。
んー、なんだろ。なにか事情があるっぽい感じだな。
そう感じた俺は、少女の目線に合わせて、何があったのかを問う。
「おー、どうした。なんか理由があってこんなことしたんだろ? 怒んないから、話してみ?」
「………………」
しかし少女は泣きながらも、なぜ自分が薬を盗んだか話そうとしなかった。何とか薬は返してもらったが、絶対に万引きの理由は話そうとしない。
困ったなー。なんか事情がありそうな感じなんだけど……騎士団に引き渡すべきか……?
その時だ。俺の脳裏に、先日のバールーフとの会話で、俺が『良き原因』と出会ったことで立ち直ったという話が出たことを思い出した。
そして俺は思った。この困っているらしい少女にとっても、なにか『良き原因』が必要なんじゃないだろうか。
だとすれば――と思ったとき、こちらに走り寄ってくる人影があった。30台半ばくらいの、黒髪の女性だ。
「メイ!」
「ひいっ……!」
女性を見ておびえる少女。どうやら名前はメイというらしい。女性はメイに駆け寄ると、俺との間になにかあったらしいことを感じたのだろう。
「あの、あたしはこの子の伯母のマーサってもんですが、この子が何か……?」
「あー、そのー……」
俺はちょっと迷った。「いや、その子ねー、ウチの店の大事な商品万引きしやがったんですよー」とか言ったらメイは間違いなくめっちゃ怒られるだろう。どうしよう。
うーん……それでも、騎士団に突き出されるよりマシか? というわけで、俺はやむなく女性に事情を説明した。すると、
「メイ! あんたはなんてことをしてくれたんだい!」
当然と言えば当然だが、女性は激昂してメイを叱り始める。メイの目からは、もう涙が止まらない。
それを見ていられなかったのもあるが、俺は女性にこう言った。
「マーサさん、もうメイには俺から説教しておきました。二度とこんなことしなければ、騎士団に突き出したりもしないんで。商品も無事でしたし」
「ゆ、許していただけるんですか……」
「ま、今回だけは……ってことで。メイ、もうこんなことしちゃダメだぞー」
「………………」
俺はもう一度メイに目線を合わせて話しかけるが、やっぱりメイはうつむいて俺の目を見てはくれなかった。
ま、しかたないか。
「マーサさん、メイにもきっとなにか悩みとかがあってのことなんで、あんまり怒らないでおいてくれますかね?」
「あ、あんたがそういうなら……」
「ええ、これでいいんで。ほらメイ、もう結構暗くなってきたから、伯母さんとお家帰んな。あんまり一人で抱え込まないでさ、ちゃんと周りの人に相談するんだぞ?」
「………………」
それでも口を開かないメイに代わって、マーサさんがお礼を言ってきた。
「あ、ありがとうございます……では、あたしたちはこれで……ほらメイ、おいで。行くよ」
そして、メイはマーサさんと一緒に帰っていった。
ん? あっちはちょっと上流階級の住宅街の方角だな。メイもマーサさんも上品な服着てたし、ちょっといいとこの家なのかな?
俺はメイが万引きをした理由が再び気になったが、もう同じことはしないだろうと思い、工房に戻ることにした。
今回の万引きを厳しくとがめず、周りを頼るように言ったことが、メイにとっての『良き原因』になってくれることを願いながら。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして工房に戻ってきた俺。まずはエニアに経緯を説明した。
「あー、悪い。万引き少女見つけて商品取り戻したけど、そいつには逃げられちまった」
エニアは、とりあえず薬が戻ってきたことにほっとしたみたいだ。
「あ、万引きの子見つかったんですか。あの薬が戻ってきてよかったです。でも、リガルさんから逃げるなんて、その子……っと、そういえばリガルさんにお客様が来ていますよ」
「へ? 俺に客?」
「そうです。控室で待っていただいてます」
「おー、分かった」
俺はエニアに万引きされた薬を渡し、控室に入った。そして、そこで待っていたのは――
「リガル殿、先日ぶりですね」
丁寧な物腰ながら、黒い全身鎧の物々しい見た目の男が会釈をしてきた。
「ライヒアルトじゃん。どした、なんか用?」
そう、俺の客とは同じ【SABER】のライヒアルト・エルゴーだった。相変わらず、非戦闘時にもかかわらず兜も取らずにいる。なのでせっかく出されたお茶にも全然口を付けていない。
「ええ。今回、リガル殿のフォローを務めることになりましたからね。貴殿の普段の様子を見せていただこうと思いまして、バールーフ殿の転移魔道具で移動してまいりました」
「そっか、悪いな。手間取らせちゃって。でもフォロー助かるよ」
俺が軽く礼を言うと、
「いえいえ、これも仕事ですから」
なんて言う。真面目だねえ~。
「しかしリガル殿、調子悪くなさそうですね」
「ま、そうじゃなきゃ【SABER】復帰なんてできないからな」
「それもそうですね。ところで、ちらと『万引き』と聞こえましたが?」
となんだかライヒアルトが興味を示していたので、万引き犯を見逃したことについてはなした。
「おや……なぜ見逃したのですか?」
「その子はなにか思いつめた感じだった。きっとなにか事情があるんだと思ってさ。教えてはくれなかったけど。まだ子供だし、伯母だって言う人も来てくれたし、もうこんなことはしないと思ったんだよ。だから、目くじら立てて怒る必要もないかなってさ」
「なるほど、リガル殿はお優しいですね」
ライヒアルトは、なんだか嬉しそうにそう言った。そんな直で言われると、ちょい照れくさい。
「そんなんじゃないけどさ。最初に気の迷いでやらかしたことには目をつぶるから、次からはもうちょっと考えてから行動するようにしてほしいとおもったんだよ。俺が、あの子にとっての『良き原因』になれるようにさ」
「『良き原因』……ですか」
ライヒアルトは俺が使った言葉を反芻した。
「はは、先日の会議でバールーフが俺に使った言葉さ。俺が立ち直れたのは、『良き原因』に出会ったからなんだろうってさ」
それを聞いたライヒアルトは、得心したように頷いていた。
「なるほど、リガル殿はきっと……」
「言わないでくれ、ハズいって」
「あはは、これは失礼。しかしその子、立ち直れるといいですね」
「ああ、そうだな」
そしてライヒアルトは、最近のシデロの街の様子や児童連続誘拐の情報を俺と共有してから帰っていった。
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