第1話:Process1[導かれた少女]Flow1
夏の太陽の下、空気はジメジメ、地面はベチャベチャの湿地帯で大型の昆虫型魔物・城塞蟹と、その無数の子供と対峙している俺たち。
エニアが【誘導魔弾砲エーテルチェイサー】から針状の魔力を撃ちだし、それらは魔物に刺さったあとに爆発する。
クードは両手の【魔双剣サーヴァ】を華麗に操り、多彩な魔法剣で魔物を片付けていく。
プリシラも先々月見たタバサを真似して氷の嵐を起こし、次々と魔物を凍らせていった。
そして俺と言ったら、やたら装飾のついた紅蓮の大剣を構え、ひとつため息をつきながら大型魔物に向かって走り出す。今回はこの、とある冒険者から特注で請け負った武器の臨床評価なのだ。
俺は城塞蟹に斬りかかる直前に叫ぶ。
「いまこそ、その力を示せ! ファナティック・レヴァンテイン!」
そう、この大剣、エニアが名付けた「獄炎天焦剣:ファナティック・レヴァンテイン・試作零式」は、今俺が叫んだセリフに反応し、組み込まれた魔石から一気に噴出する炎の魔力を刀身に纏わせ、威力を爆上げできるのだ。
俺が叫びたくて叫んだんじゃないことはここに明言しておく!!
ちなみに、「試作零式を客に売るなよ……」という俺の常識と良識にあふれた意見は無視された。なんでじゃ。
しかし、さすがエニア特製の大剣は、竜の攻撃も通さないとされる城塞蟹の甲殻を見事に斬り裂き、討伐に成功する。
そして一息つく俺に駆け寄る人影。
それは、5か月前の魔物暴走事件にかかわり、一度勾留されてしまったファシエだった。
俺は彼女から水筒を受け取りながら、少し前の出来事を思い出す――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それは3週間前くらいのことだった。
「なんなんですか、この記事は―!!」
ある日の昼、休憩中の控室で、エニアが怒りとともにゴシップ週刊誌を破り捨てる。
無理もない。そこに書いてあったのは、「人気急上昇中のヒューレ錬金術工房製武器、児童連続失踪事件に利用か!?」という記事。
児童連続誘拐事件というのは、このシデロの街で、10歳前後の子供が次々と誘拐されている事件のことだ。騎士団はもちろん、冒険者ギルドも要請を受けて捜査と警備をしているが、犯人の手がかりや誘拐された子供の安否などは一切分かっていない。騎士団の発表を聞く限りでは、身代金の要求もないらしい。
今エニアがビリッビリにした記事には、その犯人がエニアの作った武器を使っていたと書かれていたのだ。
しかしそれは事実無根だ。俺も【神剣】時代にかかわりのあった、信頼できる騎士に聞いてみたが、そんな事実はない。完全な売り上げ目的のフェイクニュースだ。
一体犯人はだれなのか。怒りのエニアが出版元におしかけるも、情報元は明かせないとのこと。まあ、それはあたり前だけど、根拠がないのにそんなこといわれてもなあ。
といっても犯人の予想はつく。最近評判目覚ましいエニアの武器屋に嫉妬した、他の武器屋のくだらない嘘だろう。
しかし武器屋の客足はぱったり途絶えた。
前にも似たようなことあったなー。
それから2週間、エニアの怒りは限界に達していた。
「また嘘の情報が広まったせいでお客様が来なくなるなんて……! しかも犯人も分かりませんし……出版社相手に裁判でも起こしてやりましょうか……!」
「わりとそういうのって、相手も『業界内での噂を出版社に持ち込んだだけだ。悪意も故意もない』とか言われて言い逃れするんじゃねえの?」
「それでも、黙っているわけにはいきません! ここは引き下がらずに……」
と、エニアが立ち上がった時だ。久しぶりの来客があった。
ファシエだった。
最初は、魔物暴走事件のことを謝りに来たのだろうと思ったが、それは半分正解、半分間違いだった。ファシエは騎士団に移動範囲を記録する魔道具をつけることを条件に、ウチの店で働きたいと言ってきた。
俺たちは、魔物暴走事件に利用されたファシエがどれだけ傷ついたかを知っているので、ファシエの社会復帰の手助けになるならと、ファシエを採用した。
しかし、元俺のパーティの魔術師だったとはいえ、ファシエは一度重傷を負って体力を落とした身だ。あまり戦闘には参加せず、販売を主に担当してもらうことになった。
ただ、なんだか俺に対する態度がちょっと変だ。
なにやら留置所にいたときに、隣の部屋で留置されてた女性から「男に弱みを握られた女は『りょーじょく』というエッチなことをされてしまう」とか吹き込まれたらしい。ファシエは俺に、
「リガルは、私を『りょーじょく』するのですか?」
と頬を染め、うるんだ瞳で聞いてくるが、諸君も知っての通りの紳士である俺は、なんとかその誘惑を振り切った。エニアの冷たい視線と、なぜか、
「ああ……ファシエさんがリガルに……なんてことだ!! しかし、この腰から背中にかけて這い上がる甘い悪寒はいったい……」
とかいってクードが悶えているのを感じる。
そしてなぜか「しゅん……」としているファシエ。
やっぱり俺が安らげるのはお家だけなのか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そしてファシエを武器屋の仲間に迎えてから、『あ き ら か に』男性客が急増した。彼らの目当ては言う必要はないだろう。エニアなんかは、
「あ、あんな『せくはら』な人たちがいっぱい……でも売り上げは確実に伸びてますし……むむむ……」
なんて複雑な顔をしていた。
しかし、そのエニアの機嫌も数日後に好転する。初めて、「特注で、自分の専用武器を作ってくれ」という冒険者があらわれたのだ。
やたら偉そうな態度のそいつは、俺たちにも商品にも目もくれずにファシエの前に陣取り、
「うん、ここは良い店だね! A級冒険者であるボクの武器をまかせるのにふさわしいよ! ねえ貴女、僕のために、特注の剣を作ってくれないか? 費用なんて気にしなくていいよ。なんたって、ボクはA級冒険者だからね! お金なんていくらでも(以下、不快なので省略)」
とか言っていた。俺やクードなんかは「本当に性能に見合った実力をもっているのか」という部分が気になったが、いかんせんエニアがこの注文に食いついた。
そして性能や造形についての内容をすり合わせ、エニアは初の特注武器の作成にとりかかった。ちょっと見積金額を見た時の冒険者の顔が引きつっていたが。
で、その特注の剣、『獄炎(以下、不快なので省略)』の品質確認のために、シデロの周辺にいる限りで一番防御力の高い魔物の討伐をすることになったわけだ。
その結果は前述のとおり。あの剣を手にしたA級冒険者のヤツは攻撃力と引き換えに、毎回「いまこそ、その力を示せ! ファナティック・レヴァンテイン!」と叫ぶ運命を背負うこととなった。赤面する回数で昇華点が得られるなら、彼は【SABER】に手が届くだろう。
あーあ。俺知らない。
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