Prologue[復帰・改名・胃の薬]
「おい【神剣】。貴様、本当に今の自分で通用すると思っているのか?」
この一言で俺の胃の痛みはさらに増した。
もうやだ。
おうち帰りたい。
おうちでプリンたべたい。
ここは【SABER】専用の、異空間に隔離された会議室。重厚な円卓で話し合っている今の議題は「少しは復活してきた俺を【SABER】の任務に復帰させるかどうか」。
その議論の途中で俺を非難したのは、S.Ⅲ、【徨血】ロデウェイク・デア・スペイク。赤い目に白くやや長いストレート髪の、ヤバいレベルの美形。ある王国で近衛騎士をしていた、魔法剣士の頂点にいると言われる男だ。
なんでか以前から俺を目の敵にしていたけど、2年前に俺がヘタレてからさらに態度がきつくなった。どうやらS級の実力を出せなくなった俺がSABERに残留していたことが気に入らないらしい。
しかしここで、先日のクラウ・ソラス事件を俺と共に解決したS.Ⅵ、【武装翁】ジョルジオのジーさんが助け舟を出してくれた。
「それは儂からも太鼓判を押させてもらうわい。その【仮面剣】があれば、小童も【SABER】の任務を十分こなせるじゃろう。以前も、ウチの【戦執事】が手も足も出なかった魔物を一刀に伏しておるからのう」
しかしロデウェイクの目つきは変わらない。
「貴様、甘いのではないか? 偶然がたった一度起きただけかもしれんだろうが」
「まあまあロデウェイクくん、今は気に入らないだろうけど、シリウスくん……いや、リガルくんならすぐに復活してくれるでしょう。でも、君のいうことにも一理あるね」
ジョルジオのジーさんまで睨むロデウェイクを宥める落ち着いた声。ギルドマスターだ。本名のゲンデハウザー・サウザンドマッシブという印象とは真逆の、痩せた壮年の男。
ギルドマスター就任前は筋肉マシマシのS級冒険者だったらしいが、就任後は筋トレをする暇がなく、筋肉がすっかり落ちてしまったらしい。気さくな話し方をするオッサンで、俺たちは気軽に「ゲンさん」と呼んでいる。
ちなみに今ゲンさんが俺を呼びなおしたのは、【SABER】メンバーの前では『シリウス・カリバー』を名乗るのをやめるように俺が頼んだからだ。一度心が折れた前の名前で呼ばれるのは、キツいしハズい。キツハズい。
「では、しばらくは私がリガルの手助けをしましょうか?」
そんな中、俺のフォローを申し出てくれたのは、S.Ⅹ、【無償の愛】コレルス・ステノ。まるで聖職者のような、穏やかな笑顔に眼鏡をかけた老人。大陸各地に孤児院を経営しており、俺もそこのひとつの出身だ。
そして、俺の流派・【隋変一心流】の開祖であり、戦いの師匠でもある。
「ありがとうございます。確かにコレルスさんなら、リガルくんと連携するには問題ないでしょう。しかし、コレルスさんには、もしもの時のために余力を残しておいてほしい。だから……」
そこでゲンさんの目は別の男に向く。
「ライヒアルトくん。リガルくんの手に負えないようなことがあったら、君が手を貸してもらえるかな? バールーフくん。ライヒアルトくんに転移魔道具を貸してやってほしい」
「はい、承知いたしました」
「こちらもかまわない」
最初に返事をした方は、S.Ⅸ、【罪引き】ライヒアルト・エルゴ―。丁寧な話し方をするものの、常に全身に鎧を着こんでおり、素顔を誰にも見せない。ちょっと謎めいた、たぶん若い男。
しかし、冒険者しての腕と人格は本物とみなされ、【SABER】に迎えられた。
そして2番目に返事をした男、世界最強の事象干渉力を持つS.Ⅰ、【安全装置】バールーフ・アヴィティウス。あるものを別の場所に移動させる「転移術」の使い手であり、仮に俺たちですら手を出せないような魔物が出た場合や、大災害が起きた時に出動し、速やかに問題を取り除く。
こいつはもはや、世間では人間とみなされておらず、「神や精霊のようなもの」と認識されているほどだ。
二人のサポートの了承を得たところで、ゲンさんが俺に最終確認してくる。
「じゃあリガルくん、今後は段階的に【SABER】の任務をこなしてくれるということでいいかな?」
「ああ、分かった」
そして会議はいったん、休憩時間を迎えることになった。ロデウェイクの舌打ちとともに。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして休憩時間。
「ふぃ~~~~~……まあ、とりあえず俺も【SABER】復帰かあ……」
胃痛の原因、左隣のロデウェイクが席を外したところで、俺はほっとして伸びをする。
そこで、今度は右側から声がかかってきた。
「貴公、もう大丈夫なのか」
バールーフだ。珍しい。休憩時間とかは、いつも紅茶を飲みながら趣味の知恵の輪をカチャカチャさせているのに。
おっと、返事をしないと。
「おかげさまで。どーも迷惑を掛けました」
今俺が「迷惑」と言ったのは事情がある。俺が【棄却】のせいで戦えなくなった2年間、俺が負うべきだったクエストは全てバールーフが肩代わりしてくれていたのだ。
「それらは私の役目でもあった。貴公は貴公の成しうる役割を全うすれば良い。気に病むことは何もない」
「気は病んでます。文字通り」
「ふむ……そうか。それは済まなかったが、貴公はここにいる。良き原因に恵まれたようだ」
「……まあ、多少は」
詳細を聞くのはやめてほしい。「自分の恐怖に向き合って……」とか、「仲間たちとの絆と思い出の力で……」なんて説明したくない。
「ところで貴公、改名したのか?」
「ほっといてくれませんか」
それ以降は、ほぼいつも通りの連絡で終わり、解散になった。
そして明日は……、
ああ、『あの評価』が待っている。
それを思うと、俺の胃はまた痛み出した。
第3章まで読み進めていただき、ありがとうございます。
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