SubProcess[エニア大佐の大願]
※第2章本編が開始するまえのサイドストーリーです。
「おー、お前ら~。めずらしい飲み物手に入ったぜー」
その事件は、ちょうどクードが休みの日の閉店後、酒の匂いとともにフラフラと帰ってきたヒューレ店長のひとことから始まった。
その店長の両手には、黒い液体が入った大きめの瓶が握られている。
差し入れのつもりだろうか。
今思えば、これは何かの前兆だったのかもしれない。
いつも飲んだくれて、店のことはエニアやレイチェルさんに任せっぱなしのこの店長が、差し入れとか。
「もう、師匠……またこんなに酔っ払って……」
エニアが呆れながらも駆け寄り、店長がぶらぶらさせていた瓶を預かる。
そしてテーブルに置かれたその瓶をよく見ると、底から細かな泡が立っている。発泡酒か?
「うぃ~、ひっく。厳しいなあ愛弟子よお~、細けーこと言ってっと、ま~た胸が育つぞ~」
「そ、そんなことで大きくなる訳ないじゃないですか! せくはらです!」
「うひひひ。いーじゃねーか、いーじゃねーか」
そうかそうか、なるほど。
俺が今後、どうやってエニアに小言を言わせようかと考えている横で、プリシラとヒスイは黒い飲み物に興味津々だ。
「ねー店長! コレなに? 美味しいヤツ? お酒?」
「ん……お酒なら、わたし飲めない……ずるい……」
「んん~、そりゃあ酒じゃねえからヒスイも飲めるぞー。『コーラ』っつーシュワシュワして甘いジュースだ~」
「へえ、コーラか。久しぶりに見たな」
確かシデロの街より南西の方でよく飲まれている炭酸飲料だ。
「リーくん、知ってるの?」
「ああ、何回か飲んだことがある。独特の香りがあって、なかなか美味かったぞ」
「お~、結構ウマいぞ~、ひっく。オレはウイスキーで割って呑んだけどなー」
「ホント!? てんちょう、飲んでみていい……?」
「いいぞ~、お前らにやる~。オレにはちょっと甘過ぎたからな~」
瓶の中身が美味しいジュースだと知って、途端に目を輝かせるヒスイ。
「ね、えにあ。飲んでみよう……! せっかくだし、ね……?」
「はいはい、ちょっと待っていてくださいね、今師匠をお部屋に運んで……」
そう言ってエニアは、よろよろしている店長を支えようとしたが……、
「ひゃッ!?」
「おわぁ~」
「おっと」
バランスを崩して、コケた……ところをとっさに俺が支えてやった。
店長、酒臭っ。
エニア、柔らかっ。
……脇を支えたら、ちょっと際どいところ触っちまった。
「エニアぁ~、ちゃんと支えろよぉー。悪ぃなーリガ坊~」
「す、すみません師匠、リガルさ……って! どこ触ってるんですか!?」
「い、今のは脇腹だろ!? ギリセーフだろ!?」
「とかいいながら、本当は思いっきり揉みしだくつもりだったんじゃないですか!? せくはらです!!」
胸を押さえながら、俺と距離を取るエニア。
「違うって!!」
「むむむ、怪しいです……もう、そのまま店長をお部屋に連れて行ってください! 私はグラスと氷の準備しますから!」
「はいはい、分かったよ……」
そして俺は店長に肩を貸す感じで支え、店長の自室に運んだ。
部屋の中は大量の本と、それを超える量の酒瓶が転がっており、足の踏み場もありゃしない。
俺は転ばないように苦労して店長をベッドに運び、降ろした。
「ほら店長、部屋着いたっすよ……」
「おお~、ごくろーさん……んで? どうだった?」
とてつもなくニヤニヤした顔で、何かを尋ねてくる店長。
「どうだった……って、何がっすか?」
「揉んだんだろ? 揉みしだいたんだろ? エニアの、あの胸をよお。それとも尻か? 尻いったのか? うひひひ」
「いや、だから、揉んでないって言ってるじゃないっすか……」
「隠すなよお~、オレとお前の仲じゃんか~」
呆れる俺に店長はヘッドロックを掛け、ついでに脳天をぐりぐりしてくる。
ホントに、こういう酔っ払いはめんどくせーなあ……。
と、思っていたら――
「……くかー……」
「……店長?」
人にヘッドロック掛けたまま、寝た。器用な人だ。
仕方ないので、そのままそっと店長の腕を抜け出し、ベッドに寝かせてやり、俺はリビングに戻った。
そして、俺が目の当たりにしたのは――
「……くー……」
真っ赤な顔で机に突っ伏して寝ているプリシラ。
「………………」
なぜか椅子の上で足を組み、瞑想しているヒスイ。
そして、
「リガルしゃん! リガルしゃんはどこれしゅかー!!」
コーラの瓶を抱え、真っ赤な顔でぐでんぐでんになったエニアだった。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
店長を無事寝かせてリビングに戻ってきたら、ノンアルコールのハズのコーラで三人娘がどうかなってた。
そのひとり、エニアはじろ~りと俺をにらみ、呂律の回らなくなった舌で語ってくる。
「むー、リガルしゃん……」
「なんでせう」
「リガルしゃん!!」
「なんでせうか」
エニアはビシッと自分の隣の席を指し、
「しゅわれ」
と言った。
状況的に「座れ」と言ったのだと解釈した、言語学者も驚愕の読解力を示したリガルさんこと俺は、大人しく座ることとした。
従わなかったら、とても面倒くさいことになる気がしたのだ。
そしてエニアの隣に座った俺に、エニアはコーラがなみなみと注がれたコップを差し出し、
「にょめ」
と言った。
状況的に「呑め」と言ったのだと解釈した、言語学者も驚愕の読解力を示したリガルさんこと俺は、大人しく口を付ける。
それはやはり普通のコーラだった。酒じゃない。
しかし、結局はとても面倒くさいことになった。
日頃の俺の振るまいがどれだけ『しぇくはら』であるのか、エニアはうだうだと語りはじめた。
「だいたい! だいたいれしゅよ! リガルしゃんは、『しぇくはら』をししゅぎなんれしゅ!!」
「してないれしゅ」
「毎日毎日、あっちで『しぇくはら』、こっちで『しぇくはら』……ん~もう! いい加減にしてくらしゃい!!」
「してましゅ」
「してにゃいのか、してりゅのか、どっちなんれしゅかー!?」
「ええ……」
机をぺちぺち叩きながら喚き立てるエニア。
面倒くせぇ……。
「やい、リガルしゃん! 聞いているんれしゅか!?」
もう放っておきたい。
しかし、我らがエニア様は「れしゅか」と仰せである。どうしたものか。
その時である。
突っ伏して寝ていたプリシラがガバッ! と起きた。
そして目をぐるぐるさせて、首をふらふらさせまま宣った。
「エニちゃん大佐! 敵が進軍してきます!」
「「エニちゃん大佐?」」
プリシラの発言に、俺とエニアは同時に首をかしげる。
「大佐」ってなんだ「大佐」って。どこから出てきた?
エニアも真っ赤な顔のまま、首をかしげかしげ、
「エニちゃん大佐? ……エニちゃん大佐?」
と、プリシラの言葉の意味が分かっていないみたいだ。
しかし、しばらくすると、
「そうれしゅ! 私は、『しぇくはら』をやっちゅける、エニア大佐なのれーしゅ!!」
コーラのグラスを高々と上げて、意味のわからない名乗りを上げた。
そのエニアにプリシラが言うことときたら、
「エニちゃん大佐! 質問があります!」
「しちゅもんを許可しましゅ!」
「ブラックアホ毛団がやってきます! やっつけてもいいですかー!?」
『ブラックアホ毛団』て何? だれかこの話のまとめかた教えて。
「『ブラックアホ毛団』は『しぇくはら』をするのれしゅか!?」
「はい! 『ブラックアホ毛団』は『せくはら』をいっぱいします!」
「ならぶっ殺してよーし!!」
「あいあいさー!!」
そしてプリシラは敬礼をとったまま……
「ぐー」
寝た。
なにやってんのコイツら。
そして、プリシラが再び寝てしまったにもかかわらず、エニアは依然『大佐』のままらしい。
俺をビシッ! 偉そうにと指さす。
「リガル三等兵!!」
俺、三等兵かよ。【神剣】だぞ俺。
「プリシラ伍長に代わって、ブラックアホ毛団を『サイクロンあじゃぱー』にしてくるのれーしゅ! これはぁ、プリシラ伍長のぉ、弔い合戦なのれーしゅ!!」
だから『サイクロンあじゃぱー』ってなんなの? ちょっと前にも聞いたことあるけど。
あと伍長、お前の隣で立ったまま寝てんじゃん。
「エニア大佐、質問があります」
「しちゅもんを却下しましゅ!」
「なんでですか」
「りがるしゃんは、私をナメているかられしゅ!」
なんかまた、突然違う話しだした。これだから酔っぱらいは……。
いや、ノンアルコールだけどさ。コーラは。
「別にそんなつもりはないんだけど……」
「私だって、私だって、かっこいい冒険者になりたかったんれしゅー!!」
なんかもう、涙をだばだばと流しながら愚痴りだしたエニア。
ブラックアホ毛団の脅威はどこかへ言ったらしい。
「それはまあ、わかってるけど……」
「それなのに、リガルしゃんも、プリシラしゃんも、くーどしゃんも、私にみせちゅけるように、かっこよくたたかいましゅ。せくはられ~~~しゅ!!」
「し、しかたねえじゃん……お前、ロクに剣も振れないくらいなんだし……」
「うわ~ん! いちゅか、いちゅか私も剣をちゅかえるようになって、みんなに『かっこいい』って言われるようになるのれしゅーー!!」
そしてエニアはガタン! と立ち上がり、走り出した。
「おいおい、お前どこへ……」
と思ったら、エニアは自室のベッドに突っ伏してすやすや寝ていた。
なんのこっちゃ。
俺はエニアに布団をかけてやって部屋を出た。
ついでにプリシラとヒスイも寝泊まり用ベッドに寝かせておいた。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
翌日。
「おはよー」
「あ、おはようございます! リガル三等兵さん!」
朝イチで俺は再び三等兵に就任した。
「……三等兵さん?」
「……え、あれ? いま私、なんで『三等兵』って……?」
自分の発現が分からず、首をかしげて戸惑うエニア。
結局その日エニアは、何回か俺を『三等兵』と呼んだ。
(完)
新章の投稿が9月末~10月半ばになりそうなので、
せめてもと思い、執筆の合間に書いたサイドストーリーを投稿することにしました。
楽しんでいただけたら幸いです。
さて、ここで新章の紹介をちょっとだけ。
サブタイトルは『転移術師の犯罪学』。
新しい【SABER】メンバーも登場します。
アニメ1クールの最後のようなアツい内容になるように鋭意執筆中です。
公開の際はよろしくお願いします!




