Secret Results[その希望的観測は、あたかも]
オルデンブルクを巻き込んだ争いが一息ついた後、俺・リガルはジョルジオのジーさんの元を秘密裏に訪れていた。
「おー、ジーさん。工房の方とかはもう大丈夫なのか?」
「うむ、もともと死者は出んかったし、破壊された設備も復旧しておるわい」
「そっか、なら良かった。じゃ、さっさとコレを始末しちまいますか」
そして俺は一振りの剣を収納錬成具から取り出す。
それは精緻な装飾が施され、剣の根元に大きく青いコアが埋まった神秘的な雰囲気を持つ。剣というより魔道具みたいな見た目をしている。
クラウ・ソラスの実物だ。
これがあることを知っているのは、ジョルジオのジーさん、酋長のトーヌフさん、ヒューレ店長、そして俺の4人のみ。
今回俺達は、この剣があたかも元から存在しなかったように見せかけて、こうして秘密裏に回収することを目的として動いていた。
なぜか。
それは、危険すぎる技術を持つクラウ・ソラスを破壊し、それが争いに使われることを防ぐためだ。
最初にジーさんが俺に通信をよこしてくるずっと以前から、ダーナの里ではクラウ・ソラスの扱いでもめていたらしい。酋長達は技術の悪用を防ぐためにこれまで通り里に隠し、外部との交流を断絶することを選んだ。
しかし外の進んだ文明を取り入れたい急進派は、クラウ・ソラスの技術提供と引き換えに魔道具などの物品を手に入れる算段をたてていたらしい。そこをデボンやラヴィナにつけ込まれて利用されていた訳だ。
クラウ・ソラスの扱いについて、ジーさんはトーヌフさんとずっと話し合っていたらしい。
ただ、ジーさんも技術者だ。やはりエニアが言うとおり、クラウ・ソラスの技術を身体の不自由なひとのために使いたいという思いはあったらしい。
しかし、兵器利用された場合の危険性を鑑み、ジーさんはクラウ・ソラスを封じる方針で協力していた。
が、そこにデボンとラヴィナが現れた。
ヤツらはしつこくクラウ・ソラスを求め、またオルデンブルクの調査権を求めた。
ソイツらのように私利私欲でクラウ・ソラスを使おうという輩の手には渡せない。そこで、先の4人によるクラウ・ソラス抹消計画が立ち上がった。
俺も呼ばれたのは、クラウ・ソラスがジーさんの兵器をもってしても破壊できない強度だったからだ。破壊するなら、俺と【仮面剣】の力が必要になる。
そして決まった計画の主旨は、『クラウ・ソラスを心から求める人物の口から、クラウ・ソラスは存在しないと発表させること』というものだった。
そのために俺達が利用したのが、エニアだ。
俺とヒューレ店長は、日頃のやりとりで、クラウ・ソラスが実在するならエニアがそれを自身の運動能力の補助に使おうとすると確信していた。
そして話はジーさんからの通信に至り、エニアをオルデンブルクへ招待した。
その後、エニアはタバサに課題をふっかけられてダンジョン攻略するハメになったが、この間に俺も裏で動いていた。
何をしていたかと言えば、まずはクラウ・ソラスの回収だ。
実は、俺達がオルデンブルクに到着したその日から、俺はトーヌフさんに接触し、クラウ・ソラスを収納錬成具に隠していた。
そう。クラウ・ソラスはずっと俺が持っていたのだ。
次にやったことは、ダーナの里の遺跡のダンジョン化だ。
もともとあの遺跡は、クラウ・ソラスが安置されていただけの普通の遺跡だ。
それをわざわざダンジョン化したのは、エニア達やデボン、ラヴィナにも、クラウ・ソラスがまだ遺跡に置かれていると思い込ませるためだ。
トーヌフさんは、遺跡はクラウ・ソラスを守るために最初からダンジョン化させていたといったらしいが、それはつまりウソだ。
実際はクラウ・ソラスを回収した後に、俺が余所のダンジョンから拝借してきた【百害】を設置してダンジョン化させた。
ただし、ラヴィナが単独でダーナの里を占拠して遺跡に突撃したのは計算外だった。
だから俺は途中で【SABER】の呼び出しをうけたとウソをついて抜けだし、単独でダンジョン化した遺跡に忍び込み、ラヴィナ達に使者が出ないように強力な魔物を倒したりして調節していた。
そして後は、エニア達の見たとおりだ。
ちなみに、「仲間こそが最強の武器なんだゾ☆」と彫られた石版を置いたのも俺だ。
本当はあの渾身のリガルさんジョークでみんな爆笑して終わる予定だったんだが……まあ、みんな俺のセンスについてこられなかったのだろう。自分の非凡さが憎いぜ。
というわけで、これが今回の事件の全容だ。
クラウ・ソラスの前に、珍しくジーさんは覇気がない。
「本当に、あの小娘には悪いことをしたのう……」
「なんだジーさん、今さらクラウ・ソラス壊さないとか言い出さないだろうな」
しかし、ジーさんは本当にためらっていた。
「う、うむ。実は小娘になら、クラウ・ソラスの技術を託してもいいんじゃあないかと思えてのう」
「兵器利用の危険性がうんぬんってのはどうすんのさ?」
「それは、今なら小童、おぬしが守ってやれれば……」
「ダメだってジーさん。みんながクラウ・ソラスの技術の危険性を理解しないまま手を出したら、エニア以外の誰かが兵器に利用しちまうだろうよ。すこしずつ考えて、身につけて、なにが危険なのかをみんなで話し合って、そうやって技術は広めていったらいいんじゃねえのか?」
「そう……じゃな。スマン」
本当に、今日のジーさんはしんみりしてんなあ。
「なんだジーさん。珍しく元気ないな」
「うるさいわい。この年になると、若いもんを応援したくなるもんなんじゃあ」
「応援はいいけど、クラウ・ソラスは必要ねえよ。エニアのヤツ、今しゃかりきになって開発に打ち込んでる。もしかすると、ジーさんが考えているよりずっと早く、身体の補助をする魔道具なんてもんが出てくるかも知れないぜ?」
「そうか……そのほうがいいかもしれんのう」
「じゃ、やるぞ」
「うむ」
そして俺は【仮面剣】を取り出し、心で呼びかける。刀身に光の刃が追加されていく。
そのとき、クラウ・ソラスは光を発した。
やわらかく青い光を、一度、二度。
俺にはその光がなんだか、俺達を応援してくれているように感じた。
都合良く考えすぎかな? でも、俺はそう考えることにした。
「そっか、ありがとな。クラウ・ソラス……」
そう言って俺はクラウ・ソラスに【仮面剣】の切っ先をあてがい、
「さよならだ」
そのコアを、砕いた。
(第2章 クラウ・ソラスはかく語りき 完)
さて、いかがだったでしょうか、第2章。
読者の皆様の予想と違う所に落ち着いたかも知れませんが、私の書きたいように書いたらこうなってしまいました。
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