第9話:Process3[盗人は許せないです!]Flow1
新武装の試験中にエニアの前に現れた、オレンジ色のカールのかかったツインテールに赤いドレスアーマーを来た貴族の娘、ラヴィナ。
彼女はつかつかとエニアの前に歩み寄ると優雅にカーテシーをして挨拶する。
「お初にお目にかかりますわ。クラウ・ソラスの正当なる主、シャトレ家のラヴィナ・フォン・シャトレと申しますわ」
「え!? あ、はい、どうも。錬金術師のエニア・コレクトです……」
突然の貴族の訪問に慌てるエニア。とりあえず相手の真似をしてスカートの端をつまみ、カーテシーのまねごとをして返す。
ラヴィナはエニアの様子にくすりと笑って話しかけてきた。
「ごめんなさい、何やら面白そうなことをしてらっしゃるのが外から見えたもので、つい見物に来てしまいましたわ」
その目線はエニアの新武装に注がれている。興味があるのだろうか。
「はい。これはジョルジオ様の工房の技術を応用した武器です」
「何だか魔術のような弾を撃ち出していましたけど、どのような武器ですの?」
やはりラヴィナはエニアの新武装に興味があるらしい。
「これはですね、プラズマ状のエネルギーを撃ち出して、それが相手に向かって自動で飛ぶようにしている武器なんです。まだちょっと調整中なんですけど」
エニアがそう言うと、たちまちラヴィナの目の色が変わる。
「相手のいる方に? 自動で? も、もしやそれはクラウ・ソラスの技術を用いているんですの!?」
ぐいぐいくるラヴィナにエニアはちょっと引いてしまう。
「い、いえ、これは私のこのゴーグルと専用の演算器を用いている私独自の技術で、クラウ・ソラスは関係ないんですけど……」
「あ、そ、そうなんですの……イヤですわ、私ったら。申し訳ございません」
エニアの技術がクラウ・ソラスと関係ないと聞いたラヴィナは、慌てて身を引いた。そして、何だか意気消沈したようにも見えた。
しかし、やはりクラウ・ソラスに未練があるのか、こんなことを聞いてきた。
「ちなみに、ジョルジオ様は本当にクラウ・ソラスをお持ちでないのですか?」
と、聞かれてもエニアには答えようがない。
「そ、それはジョルジオ様に直接伺うべきだと思うのですが……」
「そうですわね、失礼いたしました。しかし、本当にクラウ・ソラスがあったら素晴らしいと思いませんこと?」
ラヴィナの発言は何だか未練がましいと思ったが、いち技術者として興味のあったエニアは思ったままを答えた。
「そうですね。本当に持ち主の意志を読み取って動くのなら、足の不自由な人がもう一度歩けるようになったり、そういう使い方も出来そうです」
それを聞いたラヴィナは意外そうだった。
「あら、てっきり武器に利用するものだと思っておりましたのに」
「そういうことも出来るんでしょうけど……そうすると人や国同士の争いに使われてしまいそうで、ちょっと怖いです……」
エニアの望みは人を守ることであって、むやみに人を傷つけることではないのだ。
その答えを聞いたラヴィナは、何か失望したような表情を見せた。
しかし、それも一瞬のこと。また元通りの上品な笑顔に戻った。
「そうなんですの……あら、いけませんわ。わたくしとしたことが、すっかりお邪魔をしてしまいましたね」
「いえ、構いません。ちょうど休憩しようと思っていましたので」
「うふふ、お気遣いいただいてありがとうですわ。それでは、わたくし行きますわね。ごきげんよう」
「あ、はい。ごきげんようです」
ラヴィナは来たときと同じようにカーテシーをしてから立ち去っていった。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
オルデンブルクでの滞在中、エニア達はそれぞれジョルジオの屋敷の部屋で寝泊まりさせてもらっていた。
ある日、その一室でエニアが起床すると、なにやら作業場の方が騒がしかった。
なにかあったのだろうか。
不吉な予感が胸に飛来する。
手早く身支度を調え、作業場に急ぐ。
その途中、廊下を急いでいるタバサに会った。
「エニア様! お呼びしようと思っておりました!」
「なにかあったんですか!」
いつになく慌てた様子のタバサ。
そして彼女の告げた内容は、
「窃盗です! 作業場のものが荒らされ、幾つかの機械が盗まれました!」
「ええ!?」
不吉な予感は当たっていた。
エニアは、他のメンバーにもこのことを知らせると言うタバサと分かれ、作業場に向かった。
そこで、エニアにとって最悪の事態を目の当たりにした。
エニアの新武装がまるごと盗まれていたのだ。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
作業場では、憤慨するジョルジオの指揮の下、被害状況の確認を行っていた。
「まったく、どこのどいつじゃあ……こんなふざけた真似しおってからに……!」
怒るジョルジオ。それに対してニックが手を動かしながら声を上げる。
「あのデブのオッサンじゃねえのか? クラウ・ソラスがないか探しに入ったんだぜ多分! 扉の鍵もブッ壊されてるしよお!」
その軽口を、今度はロナルドがたしなめる。
「確かな根拠もないのに滅多なことをいうんじゃない……それに、クラウ・ソラスを欲しがっていたとして、なぜエニアさんの武装をまるごと持って行ったんだ?」
「そりゃ、そうだけどよお……」
エニアは彼等の会話を聞きながら、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。自分の夢の第一歩があと少しでかなうというところで、何者かに奪われてしまった。
その彼女に、タバサから事情を聞いて駆けつけてきたリガルが声を掛ける。
「エニア、その……酷い目にあったな……大丈夫か?」
普段の飄々とした雰囲気はなりを潜め、その声は心からエニアを心配しているようだった。
エニアは努めて気丈に振る舞った。
「だ、大丈夫です、これくらい。また作ればいいだけの話です」
他の武器屋メンバーも集まり、口々に怒りの声を上げた。
「えにあ……大丈夫……?」
「ろくでもないヤツがいたものだね……」
「ドロボーとか、最悪だよ! 見つけたら丸焼きにしてやる!」
そんなピリピリした空気が蔓延する作業場に、突然不快な声が響いた。
「おやぁ? 何やら騒がしい様子ですが、なにかあったのですかなぁ?」
それは、エニア達がオルデンブルクに来た初日、ジョルジオとの面会を拒絶された豪商、デボンだった。
ジョルジオの不快指数が急上昇していくのがエニアから見ても分かる。
「なんじゃ! またおぬしか。今忙しいんじゃ、出て行かんか!? それとも、まさかおぬしの仕業じゃなかろうな!?」
「んん? なんの話ですかな?」
「ウチの作業場に盗人が入ったのじゃあ!」
するとデボンは大げさなくらい驚いてみせた。
「なんと! それは物騒なはなしですなあ……ワタクシは防犯用の魔道具も扱っておりますぞ、ジョルジオ卿、いかがですかな?」
「いらん! おぬしとそんな話はしたくないわい!」
デボンの空気を読まない発言に、ジョルジオの不機嫌さは天井知らずに上がっていく。
「そうですな、ワタクシもそんな話をしに来たのではありません。ジョルジオ卿、いい加減クラウ・ソラスの調査許可をいただけませんか? 金ならお好きなだけお支払いしますぞ」
「金の問題じゃないわい! 目障りじゃといっておろうが!」
しかしデボンもしつこく、ジョルジオがどれだけ言っても堪えた様子もない。
「なるほど、では今度は卿のお気に召す品を持って参りますぞ!」
「おぬしの扱うような気味の悪いもんなんかいらんわい! とっとと出て行かんか!」
「ぬふふ、では今日はこれにて。また明日お会いしましょう」
「二度と来んでええわ!!」
そして奇妙な笑いとともにでっぷりとした腹を揺らしながら、デボンは立ち去っていった。
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