第10話:Process3[盗人は許せないです!]Flow2
せっかく作った試作機が盗まれてしまい、本人は強がっていたみたいだが、やはりエニアは悲しそうだった。
俺もエニアがどれだけ頑張って、あの試作機の完成を楽しみにしていたかは知っている。
盗難の被害が分かった直後はひたすらエニアが気の毒だったが、時間が経つにつれて俺も腹が立ってきた。
マジで一体どこのどいつだ。見つけたらボッコボコにして二度とプリンの食えない身体にしてやる。
一応ジーさんは騎士団に報告をし、彼等は見回りを増やしてくれるとのことだった。
だがジーさんは騎士団をあまり信用していない。俺たちも夜間の見張りをしようと言い出した。
そして、すくなくとも俺、クード、タバサの誰か一人でもいれば安心だろうということになり、俺たちは交代で見張りをするようになった。
しかし、それはタバサが2回目の見張りを担当した翌朝のことだった。
「また盗みに入られたじゃと!?」
屋敷にジーさんの怒号が響き渡る。
ジーさんの執務室に急いでみると、そこには頭を抱えるジーさんと、ジーさんに報告に来たらしいロナルドさんとニック、そして取り乱しているタバサ。
「そんな、まさか、私がずっと見張っておりましたのに、どうやって……」
「分かりません。しかし、また何者かが入ったのは確実です。エニアさんの新武装がいじり回されており、部品が少し取り外されて、持ち去られたようです」
俺はエニアの様子が気になり、タバサと話しているロナルドさんに聞いてみることにした。
「なあ、ロナルドさん。エニアはどうしてる?」
「エニアさんも、すっかり落ち込んでしまっています。試験機まるごと盗まれなかったのは幸いでしたが……」
俺は壊された試作機を前にしょげているエニアを想像し、胸が痛んだ。そして、ついタバサへの非難が口をついて出てしまう。
「おいタバサ、あんたしっかり見張ってたんだろうな? 怪しいヤツとか来なかったんだろうな?」
「もちろんです! 昨夜作業場に来たのはニック様お一人です!」
「……え?」
「……なんじゃって?」
「ニックが来たのかい?」
俺たちの目が一斉にニックに向けられる。当然ニックは慌てだした。
「ち、違うって、俺サマじゃねえよ!」
「本当か?」
俺はひとまずニックを疑ってみることにした。コイツはエニアをバカにしてたっぽいから、なにかイタズラのつもりでやったかもしれない。
しかし俺と対照的に、ロナルドさんは冷静だった。
「タバサさん。昨夜見たニックはどんな様子だったのですか?」
タバサは依然うろたえたままで説明し出す。
「昨夜のニック様は、風邪をひいていらして、マスクをしておいでで、声が変で……」
その要領をえない説明をまとめると、次のような出来事があったらしい。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
昨夜、作業場の見張りをしていた所に、工房の作業着と帽子、そしてマスクを付けた若い男がフラフラ近づいてきたらしい。
当然タバサはその男が誰か確かめようとした。すると男はこう言ったそうだ。
「オレが分かんない? オレだよオレ、オレだよタバサ~」
夜ということもあり、相手の顔はよく見えなかったが、言葉遣いでタバサは相手の見当を付けた。
「その軽薄な言い方……ニック様ですか?」
「そうだよ、オレはニックだよ! 見張りお疲れ様、タバサ~」
しかし、その声は普段のニックと微妙に違っているように聞こえた。
「ニック様、なんだかお声がいつもと違うような……」
「それは、アレだよ! ちょっと風邪気味っぽくてさー、ゲホ、ゲホッ!」
その咳き込み方はなんだかわざとらしいように見えたが、ニックならそんなものだとタバサは思ったらしい。
「なるほど、それでマスクをしておられるのですね。でしたら、早くお部屋でお休みになられてはいかがですか?」
しかしそのニックと思しき男はこう言った。
「それがさ、作業場に大事な物を忘れちまったんだよ~。通してくれない? 少しでいいからさ~」
その頼みを、タバサは一度は突っぱねた。
「いけません。今は誰も入れぬようにと会長から言われております」
するとニック(仮)は世にも情けない声を出してこう言ったそうだ。
「そんなあ~、それじゃあ親父に任された仕事が出来なくて、明日怒られちまうよ~!」
「し、しかし、今は通す訳には……」
「ええ~!? なんで執事が仕事の邪魔するんだよ~! じゃあお前、オレの仕事が終わらなかったら、責任とれんのかよ~! 祖父さんと親父にお前のせいだって言うからな~」
ここでジョルジオとロナルドの名前を出されて、タバサは慌ててしまったらしい。
「わ、分かりました。それでは特別に入れて差し上げます。本当に少しだけですよ?」
「分かってるよ~、ありがとうなタバサ~、へっへっへ……」
そしてタバサはニック(仮)を作業場に入れたらしいのだが……
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「んなもんニセモノに決まってるだろうが!! お前の警戒心は田舎のばあちゃんクラスか!?」
話を聞いた俺はたまらずそう叫んでしまった。
「ええええええ!! ニック様のニセモノ!? まさか、そんな……」
タバサは本気で驚いているようだった。
本気で驚いていることが俺にとっては驚きだぞ、このポンコツ執事!
そしてロナルドがニックのアリバイを証言する。
「昨晩、ニックは私を含む職員達と一緒に書庫の整理をしておりました。抜け出して作業場に近づくことは不可能です」
だが、それよりもニックは、タバサが自分のニセモノを見抜けなかったことの方がショックだったようだ。
「俺サマ、タバサにそんな風に思われてたのかよ……声も顔もニセモノだったのに……」
がっくりと俯いて放心している。
しかし、そんなことよりも、と言ってはニックには酷だが、これ以上盗みを繰り返させる訳にもいかない。
ジョルジオのジーさんは苦々しい顔で告げた。
「……タバサ。おぬしは作業場の警備から外れてもらう」
それは、タバサにとって耐えがたい辛さなのだろう。必死にジーさんに懇願した。
「会長! 昨夜の事は申し訳ありません! もう二度とあのような油断はいたしませんから……」
しかしジーさんの決定は覆らない。
「だめじゃ。これ以上、こちらの不手際で客人のモノに手を出させる訳にはいかん。分かってくれ」
「ううっ……」
俺もジーさんと同意見だった。はっきり言って最初から俺とクードに任せてもらえれば作業場の警備は万全だったろう。
だがまさか、ジーさん側の人間のせいで2回目の盗みが発生するとは。こればっかりは俺も予想できなかった。
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その夜から、早速俺とクードの二人交代による警備に切り替わった。冒険者の俺たちにとっては、夜間の見張りは慣れている。パーティで野宿することもあるからな。
そしてクードとの交代の時間、俺は作業場に向かっていた。
「クード、お疲れ。何か変わった事あったか?」
俺は別に何もないだろうと思って、そう言ったのだが、クードは微妙な顔で苦笑していた。
「あー、いや、変わった事でも問題でもないんだけど……」
「ん?」
「タバサさんが勝手に夜のパトロールしてるよ。雪辱を果たすために犯人を捕まえるんだって」
「なにしてんだあのポンコツ執事……!」
それでもまあ、盗人に対する牽制くらいにはなるだろう、と思っていたのだが……、
「は、犯人を捕まえましたーー!!」
いきなり、そんなタバサの大声が聞こえた。
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