第7話:Process2[試練なんて楽勝です!]Flow3
エニア達がタバサの試験でダンジョンへ行っていたころ、留守番中の俺は用事があってジーさんの執務室を訪れていた。
「お~い、ジーさん、いる? ……って、いないか」
「会長なら作業場です。エニア様の武器の性能調査を視察中ですよ」
ジーさんの代わりに執務室にいたのはタバサだった。書類の山を相手に忙しくペンを走らせている。
「お、ポンコツ執事ちゃん」
「誰がポンコツですか……」
ムカッときたらしいタバサ、書類から目を離さないまま、眉間にしわを寄せて言い返してきた。
「まあ怒るな、アイスブレーキングのためのリガルさんジョークさ。しかし、さすがジーさんの部屋だな。本だらけ」
ジーさんの執務室はデカい本棚に囲まれており、分厚い技術書と思われる本がぎっしりと埋まっている。
せっかくな気もしたから、それを眺めて回る俺。
「リガル様。それらの本に勝手に触れないで頂けますか。中には非常に貴重な本も混ざっているので」
「大丈夫、そんなことしない……ってあれ?」
ちょうどタバサの机の後ろ辺りの本棚だけ、ちょっと違う感じの本が並んでいる。
それは他の本棚とは違い、「○○入門書」とか「はじめての□□理論」とか、明らかに初心者向けの本がおいてあり、みなホコリをかぶっている。
「なんか、ここの本棚だけ初心者向けじゃない? 全部ホコリかぶってるし」
すると、タバサはハッとして俺の方を振り向いた。
「そ、そこは私の本が入っているところです! その、昔、技師を目指していた時の……」
「へー、ジーさんも言ったたけど、そうだったんだ。それがなんで冒険者兼執事になったんだ? しかも、冒険者成分必要だったのか?」
俺は何も考えずに聞いてしまったが、タバサは途端にうつむいてしまった。
「私には……どうしても、技師の才能がなかったので……」
「あ、悪い……イヤなこと聞いちまったかな?」
「いえ、構いません。今はこうして、会長としてのお仕事と、冒険者としてのお仕事をお手伝いできているわけですし、私にはそれで十分です」
「冒険者としての仕事も手伝いたかったのか?」
なんだか、執事として働ければ十分なきがするけど。
「むしろ、そちらの方が先なのです。私が小さいころ、住んでいた村を魔物が襲いました。それから助けてくださったのが会長だったのです。そして私は会長の扱う兵器に憧れ、技師を志したのですが……」
「あー、それで技師の才能はなくても冒険者としての才能があったワケか」
「はい。そちらのお手伝いから徐々に任されるようになり、今は工房の事務仕事も……ってリガル様、なんだか理解が早いですね?」
「似たようなヤツを知ってるからな」
エニアのことだ。あいつは冒険者になりたかったけど運動神経がないから、せめて冒険者の助けになる武器を作ろうと錬金術師になったヤツだもんな。そう思うと、なんかエニアとタバサって正反対だな。
「そうだったのですか……ところでリガル様、会長が戻るまではまだ時間があります。それまで手合わせしていただけないでしょうか?」
意表を衝く提案だ。
「いいけど、書類仕事の方はいいのか?」
「はい、後は合計金額を書くだけですから」
そういってサラサラとペンを動かすタバサ。しかし……
「おいタバサ。合計金額、どう見ても0がひとつ多いぞ」
「え!? まさか、そんなはずは……」
そして慌ててペンを持ち直したタバサは、インクのボトルをペンでひっかけて倒してしまう。
「ああっ!!」
当然、書類はインクまみれだ。書き直さなければいけないだろう。
「……やっぱりお前、ポンコツだろ」
「……そんな気がしてきました」
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
そして俺とタバサは手合わせのため、兵器の試験場で木剣を手に向かい合っていた。
「それではリガル様、一手ご指南お願いいたします」
「おー、こちらこそな」
そして木剣を下段に構えたタバサの周囲にいくつもの魔法陣が出現する。そして、わずかに姿勢が沈んだと思った瞬間、タバサの剣が目の前に迫っていた。
おお、思っていたより速い。
とはいえ、俺に弱体魔術の影響があっても一本取るにはまだまだ遅い。
俺は最小限の動きだけでその剣をよける。
すると、タバサの剣の隙をカバーするように、氷の針が何十本も飛んできた。
俺はタバサ本人の剣と氷の針に囲まれ、絶え間なくそれらの刃の防御をせざるをえなくなる。
まあ、まだまだ片手で対応できるレベルだし、余裕あるけどね。
並の冒険者や魔物ならとっくに氷漬けになり、穴だらけになっているだろう。
「強いなー、さすが【戦執事】」
「……その名前で呼ばないでください」
「あれ? 気に入ってないの?」
「なんかちょっとダジャレっぽいところが嫌いです」
そしてタバサの攻撃に変化が生まれる。氷の針だけではなく、剣、槍、斧、チャクラムなど、多数の形状に変化した。それらが時間差で、異なる軌道で向かってくる。タバサ本人の猛攻もありながらだ。
「おお、器用だな」
「私には、戦闘しか取り柄が、ないもので……!」
俺はタバサの剣、様々な形状の氷の武器を木剣一本で対処し続ける。俺の方は全く平気。言っちゃ悪いけど、クードの多彩な魔法剣に慣れている俺としてはまだカワイイ攻め方だ。
タバサもそれは分かったのだろう。少し悔しそうに目元を細めている。
「くっ……これくらいではビクともしませんか……それなら……!」
するとタバサはさっと距離をとると、地面に手を当て、大規模な魔術を発動。辺りの地面が一瞬で凍り付き、俺の脚も氷に捕まってしまう。そして、
「ハアッ!!」
タバサは続けざまに、さらに強力な魔術を発動。それはまさに氷の竜巻。極低温の冷気と氷の刃が俺を襲う。もちろんそれまでに展開していた氷の武器も襲い掛かってくる。俺はさすがに剣を振るい、それらを叩き落としていく。
しかし、その一瞬の間に、タバサの姿を見失った。
……いや違う、上にいる!
見上げるとそこには、空中で巨大な氷の槌を振りかざしたタバサ。なるほど、これなら相手が巨大な魔物だとしてもバッキバキに砕け散ってしまうだろう。
「私の全力を試させてください、リガル様……!!」
「ああ、もちろん」
なんか、これくらい真っ直ぐ向かってくると、戦っていてちょっと気分いいな。
でも、何だろう? ちょっと切羽詰まっているような感じもする。さっきタバサ本人も言っていたけど、これしか取り柄がないと思っているような……って、そんなこと考えている場合じゃないな。
俺は足元を固める氷を崩してよけても良かったのだが、あえて氷の槌に正面から斬りあうことにした。真っ直ぐな気持ちには、真っ直ぐ向き合ってやりたいからな。
そして、俺に振り下ろされる、タバサの氷の槌。
「ハアアアアッ!!」
それに対し俺は木剣を構え……、
「ふッ!」
木剣のまま、氷の槌を斬り砕いた。事象干渉力をコントロールすれば、これくらいの事は今の俺でもできる。
そして、氷の槌が空振りに終わったタバサの首元に木剣を突き付けて終了。
「ん、俺の勝ちでいいかな?」
「はい……お見事です」
そして俺たちの手合わせは終わった。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
手合わせの後も、俺はちょっとタバサを話をしていた。
「やっぱりあの戦闘スタイルは、ジーさんが苦手な素早い敵を仕留められるようにしてるわけ?」
「はい、そうです。他にも会長を狙う不届き者などもおりますので……ふう、でもまだ力不足ですね。エニア様の剣を使わせるところまでは持っていきたかったのですが。まさか木剣のみで凌がれるとは……」
「そりゃまあ、こっちも【神剣】名乗らせてもらってますんで」
ちょっと一息ついてから、俺は執務室で聞いた話をまたくわしく聞いてみたくなった。
「なあタバサ、なんで技師を諦めて冒険者になったんだ?」
「それは…」
そして俺はタバサの身の上を聞いた。
タバサの村が魔物に襲われて、それをジーさんに助けてもらったとこからだ。
タバサはジーさんの姿と、兵器を開発して村を魔物の脅威から守った姿に感銘を受けて、自分も技師になろうとしたらしい。
しかし、算術が身につかなかったり、手先が不器用だったり、おまけに生来の早とちりのせいで精密な計算と作業が要求される技師を諦めたらしい。
しかし、その代わりにタバサには魔術の才能があった。それで冒険者ギルドに入り、剣術も身に着け、魔物の撃退、素材の採取、身辺警護などで役に立とうとしたのだという。
そして、めでたくそれをジーさんに認められ、ジーさんの仕事に随伴することになり、ついでに戦闘以外の役にも立ちたいと執事になることを志願したらしい。
で、そのまま活躍を重ねて今やA級冒険者年間上位10名にランクイン。【戦執事】の二つ名を授与された(本人、あまり気に入ってないみたいだけど)。
そこまで聞いた俺は、つい余計なことを聞いてしまった。
「もしかして、エニアに嫉妬してる?」
その言葉にビクッとしたタバサ。とても気まずそうな顔をしている。
やっぱりそうか。エニアは技師としての才能がすげえからなー。代わりに冒険者の才能ゼロだけど。
「や、やはり分かってしまいましたか……」
「まあね。でもジーさんの技術をホイホイ渡していいわけじゃないから、俺は納得してるよ」
「そう言っていただけると助かります……」
その時、屋敷の方から魔力車が走ってくる音が聞こえた。
「お、エニア達、帰ってきたかな?」
「そうですね……きっとユニコーンライトも入手されていることでしょう。私も切り替えないといけません」
「そうしてやってくれ」
そして俺たちはエニアを迎えに屋敷に戻った。
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