第6話:Process2[試練なんて楽勝です!]Flow2
翌日、リガルを街に残し、エニア達を乗せた魔力車は西へひた走っていた。
街から草原を抜け、川にかかった大橋を越え、林を過ぎ、その先の岩山へ。
タバサから指定されたダンジョン、『西の廃坑道』はその麓にある。
エニアとクードは落ち着いていた。元A級冒険者であるクードは当然ながら、エニアは仲間を信頼していた。プリシラは、魔力車のスピードと流れる景色にはしゃいでいる。オルデンブルクに来るまでにも存分に体験したハズなのだが。
残るヒスイは、タバサの前ではタンカを切ったがやはり魔物が怖いのだろう、終始身体としっぽをそわそわさせていた。
そして一行は『西の廃坑道』に到着した。その入り口で、エニアは【観測機】を掛けて出発の宣言をする。
「それでは皆さん、行きましょう! 魔物が出たらお願いします!」
「うう……魔物、怖いけど、頑張る……!」
「まあまあヒスイちゃん、僕とプリシラちゃんもいるから大丈夫だよ」
「そーだよそーだよ! れっつごー!」
そして4人は廃坑道へ歩を進める。元鉱山だったそこは人の手が入っている。内部には魔力灯による光源もあり、4人で探索するにも問題ない広さの道が通っていた。
しかし、【観測機】の画面にはいくつもの光点が浮かんでいる。
「う~ん……やっぱり魔物、結構いますね……クードさん、指示をお願いできますか?」
やはり冒険者のクードの意見に従うのが適切だろうと判断したエニアはクードに指示を仰ぐ。
クードは快くそれに応じた。
「なら僕が先頭を歩くよ。プリシラちゃんは遠くの敵とか、空飛んでるヤツとかをお願い。ヒスイちゃんはエニアちゃんの護衛をしっかりね」
「おっけー!」
「わ、分かった……」
そして4人はクードを先頭に廃坑道を進む。壁に設置されっぱなしの魔力灯のおかげで見通しはいい。
そのまま3分ほど進んだところで、とうとう魔物と出くわした。
小型の人型の魔物、『ゴブリン』が5体。体長は100センチメートルほどしかないが、拾ったであろうナイフや木を削って作ったような棍棒を持っている。しかも、弓を持っているヤツもいる。
初心者ならば油断してはいけない相手だ。
しかし、エニアは【観測機】によって、事前に位置を把握している。4人は岩陰に隠れて攻撃のタイミングを謀っていた。指揮を執るのはクードだ。
「それじゃプリシラちゃん、弓を持ってるヤツはよろしく。ヒスイちゃんの後ろから攻撃してくれればいいよ。残りは僕が倒しちゃうから」
「りょーかーい」
「分かりました!」
「分かった……」
そして岩陰から飛び出す4人。一斉に向けられるゴブリンの目。
「ひいぃっ……」
ヒスイはそれに怯え、速攻で【拒絶の盾】を展開する。その後ろから魔術を展開するプリシラ。
「弓持ってるヤツ倒せばいいんだよねー?」
そうお気楽な感じで魔法を発動すれば、たちまち一番後ろで弓を引いていたゴブリンが風の刃で切り刻まれる。
「そうそう! もう一体も頼むよ!」
クードはそう言いながらも最前列にいたゴブリンに接近し、魔力刃で棍棒ごと両断してしまう。そして、横から飛びかかってきたナイフ持ちも、喉元を貫いて討伐してしまう。
そのままクードとプリシラは追加で1体ずつ討伐し、ゴブリンは全滅して消え去った。
エニアは二人の活躍を羨望の眼差しで見ていた。
「うう……二人ともかっこいいです。私にも、武術か魔術、どちらでもいいから才能があれば……」
世界最強の剣士、S.Ⅱ、【神剣】シリウス・カリバーのファンであったエニアは武術の才能を欲していたが、彼女自身にはそれは全く宿っていなかった。そればかりでなく魔術も全く使えず、火花のひとつも起こせない。
自分もクードやプリシラみたいに戦ってみたい。しかしそれはかなわぬ願いであった。
そして、ゴブリンがいなくなってほっと息をつくヒスイの後ろで、反対にため息をついていると、【観測機】が魔物の反応を捉えた。
すぐさま声を上げる。
「皆さん! 新しい魔物です! まっすぐこちらに来ています!」
その声に真っ先にクードが反応、坑道の先の通路を見る。しかし、
「……? 何もいない……?」
そう。周囲に魔物の影はない。だが【観測機】はその反応を捉えている。やはり真っ直ぐ近づいてきている。
ここで、やはり行動が早かったのはクードだ。プリシラに指示を飛ばした。
「プリシラちゃん、奥の通路の方向に電撃魔術を! なるべく広範囲に! 見えないヤツがいるかも!」
「なるほどー! 任せて!」
そしてプリシラは広範囲に雷の網を放つが、それに何かが引っかかった様子はない。
ここで、ヒスイの耳がぴくりと動いた。
「何か、音がしない……」
「音、ですか……?」
ヒスイのその声を聞いたとき、クードは叫んだ。
「地中だ! 地面の下から来るぞ!」
そしてその言葉通り、プリシラの足下の地面が盛り上がり、岩の鎧を着たヤツメウナギのような魔物が顔を出した。
「ぎゃああ!!」
プリシラは反射的にそれを蹴とばそうとしたが……、
「ダメだ! プリシラちゃん!!」
「へ?」
クードの静止の声。しかし、勢いのままにプリシラは魔物を足蹴にしてしまう。すると、
「い、痛ったあ~~~い!!」
突然プリシラは蹴った足を押さえてうずくまってしまった。しかし、致命的な隙をさらしたものの、素早く駆けつけたクードによって魔物は両断された。
「『カースロックワーム』だ……『スパイク』を持っているヤツだよ!」
「『スパイク』?」
耳慣れない単語に首をかしげるプリシラ。しかし、気を抜くのは早かった。
「皆さん、魔物、もう一体います!」
「え!? どこ!?」
エニアの言葉にビクッ! と身を縮こませるヒスイ。しかし、魔物はまさにそのヒスイの足下にいた。
地面が盛り上がり、勢いよく飛び出してヒスイに食らいつこうとするカースロックワーム。
「ぎにゃああああ!!」
だが、それは【拒絶の盾】によって阻まれる。そして、
「ひゃあああああ!!」
必死に繰り出したヒスイのスピアが、魔物の岩の鎧をいとも容易く貫通した。エニア製のスピアに交換していたのが幸いだった。並のスピアなら折れていただろう。
そのまま絶命し、消滅するカースロックワーム。
やっと【観測機】の反応が消えた。
「皆さん、今ので最後です。もうひとまずは安全です」
そして4人はやっと一息つけた。思わぬ奇襲はあったものの、プリシラが『スパイク』で受けたダメージ以外は怪我らしい怪我もない。
「ねー、さっきアタシが痛かったヤツってなんなのー?」
プリシラの問いかけにはアホ毛様が答えた。魔力ペンでするすると解説していく。
『攻撃してきた相手に、痛みや毒なんかを与えて反撃する異能のことだよ!』
「え? じゃあ、クーくんやヒーちゃんも痛かったの?」
『武器には必ず、スパイクを防止する魔道具が組み込まれてるんだよ! だからみんな殴ったり蹴ったりじゃなくて、武器で戦うんだ!』
「そっかー、よくわかんないやー」
……分からなかったらしい。
「ま、まあとにかく、大きな被害はなくて良かったです。プリシラさん、足は何ともないですか?」
「うん、だいじょぶー。もう痛くないしー」
「では、先に進みましょうか」
そして4人達は、同じようにクードを先頭に先に進む。カースロックワームの奇襲は、【観測機】によって事前に検知できるので、どこから襲ってくるかが分かれば問題なかった。
それから、廃坑道に棲む魔物達を蹴散らしながら進むこと30分あまり、4人はやっと目的の物を見つけた。
白く光り輝く、一見するとダイヤモンドの用にも見える、結晶のような石。タバサに指定された『ユニコーンライト鉱石』である。
「すごくキレーな石だねー。エニちゃん、これがそうなの?」
「はい。【観測機】で解析出来たので確実です。プリシラさん。地魔法で掘り起こせますか?」
「らくしょー。ほい!」
プリシラが杖を振ると、光り輝く鉱石の部分だけがポコっと綺麗に取り出せた。そのままエニアの腕に収まる鉱石。
クードはそれを感慨深げに見つめていた。その様子が気になったエニアは尋ねてみた。
「クードさん、この石がどうかしたんですか? たしかこれが欲しいとおっしゃってましたが」
「うん、実は……この石で魔法杖を作って、ファシエさんにあげたいと思ってるんだ」
それを聞いてエニアは首をかしげた。
「この石で、ですか? 確かにユニコーンライト鉱石はとても良質な魔法触媒になりますが……同じくらいの質のはウチのお店にもありますよ?」
「それだけじゃないんだ。こういう純度の高いユニコーンライトには宝石言葉もあってね……『再生』とか『新しい道』って言葉なんだ。だから、今自分の過去と向き合っているファシエさんに……って思ってね」
なるほど、そういうことか。
エニアは納得し、嬉しくなった。
「分かりました! そういうことでしたら、この鉱石は後でクードさんに差し上げます。喜んでくれるといいですね!」
「うん、そうだね!」
そして話が一段落ついたところで、「きゅるるる……」と弱々しい音がした。
見ると、ヒスイがへろへろ状態になっている。
「お腹空いちゃった……早く帰ろ……?」
「ふふ、じゃあ急いで帰りましょうか!」
そして4人が帰路につこうとしたときだ。【観測機】の隅に何かの反応があった。
「あれ? なにかあるみたいです……」
「魔物かい? エニアちゃん」
クードは素早く戦闘態勢に入ったが、【観測機】の反応は魔物のものではなかった。
その反応は通路の更に奥の片隅にあり……、
「あの壁、細工がされてますけど、扉になってますね……」
それを聞いて、意外そうな声を上げるヒスイとプリシラ。
「扉……?」
「えー? こんなとこだれか住んでるのー?」
しかし、クードはその危険性を指摘した。
「注意して。もしかしたら、山賊の隠れ家とかかもしれないよ」
「山賊!?」
その物騒な響きに、身体をびくりとさせるヒスイ。
「エニアちゃん、【観測機】で人がいるかどうか調べられないかな?」
「はい! 今モードを切り替えて……出ました! やっぱり3人、誰か奥にいます!」
「や、やっぱり山賊なの……?」
早くも【拒絶の盾】をうっすら発現するヒスイ。対してプリシラは勇みこんで言う。
「だいじょーぶだよヒーちゃん! アタシが全部ぶっ飛ばしちゃうから!」
偽装された壁に杖を向けるプリシラ。しかし、
「待ってください! 魔物から逃げて隠れている人の可能性も……」
「……へ?」
エニアの静止も空しく、プリシラの杖から火球がすっ飛んでいき、偽装された壁に命中。派手に爆発し、壁の辺りは煙まみれになる。
「え、攻撃しちゃダメだった!? 悪い人じゃないの!?」
エニアの方を振り向いて慌てるプリシラ。しかし、それはある意味で杞憂であった。
煙の中で人影が動いていた。しかも無言で、エニア達のいる方ではなく通路のさらに奥の方へ走り去っていく。
その動きはまるで逃げているようだ。やはり、うしろめたいところがある人物達だったのだろうか。
【観測機】に映る光点も、一目散にエニア達から遠ざかっていく。
「あ、あれ? 逃げちゃいましたね。本当に山賊とか盗賊とかだったんでしょうか……?」
「えー、じゃあぶっ飛ばしちゃってよかったじゃん」
口を尖らせるプリシラにクードが警告する。
「ダメだよ。本当に悪い人かどうか分からないし、下手に刺激すると襲い掛かってくるかもしれないんだから」
「むうー、分かったー……」
「でも、本当にこんなところで何をしていたんでしょうか? ちょっと確認してから引き上げませんか?」
エニアの提案にクードも賛同した。
「そうだね。もし悪党の住処だったら、ジョルジオ様や騎士団、冒険者ギルドに報告しておいた方がいいだろうからね」
「えー……もう帰ろうよ……」
ヒスイは帰りたさそうだったが、4人は謎の人物がいた場所を調べることにした。
「エニアちゃん、罠とかの反応はあるかい?」
「いえ、なさそうです」
「わかった。でも一応僕が調べるよ。みんなは入り口で待ってて」
クードは冒険者らしく、率先して危険な役目を買って出た。しかしプリシラも中を見たがる。
「えー、私も見たいー」
「ダメですよプリシラさん、危ないかも知れないんですから、クードさんに任せましょう」
プリシラをなだめたエニアに、今度はヒスイが疑問を投げかける。
「それって、くーどならどうなってもいいってこと……?」
「ちょっ!? エニアちゃん、それはヒドくないかい!?」
「ち、ちがいます! そんなこと言ってませんし、思ってもいませんから!!」
そんなすったもんだがありつつ、クードは部屋を見渡した。
「うーん……なんだか、最近ここを使いだした感じがするね……それに、山賊とかのねぐらにしては武器やその手入れの道具なんかが全然見当たらない。ちょっとここにいた人の目的が分からないな……」
「では、詳しいことはジョルジオ様たちに報告して調べて頂きましょう」
「そうだね」
そうしてクードが部屋を出たとき、再びヒスイのお腹がきゅるると鳴った。
「お腹空いた……」
「そうですね。急いで帰りましょう!」
そうして、4人のダンジョン攻略は終了した。
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