第4話:Process1[最強への第一歩です!]Flow4
翌日。
エニアにせき立てられて、旅の準備を速攻で終えた俺たちは、ジーさんが迎えに出してくれたちょっと大型の魔力車にゆられていた。
その中で、おやつポリポリたべながらヒスイがエニアに質問する。
「この車、どうやって動いてるの……?」
「これは、魔石に蓄えられた魔力を雷に変換する素子を使って、その力で車軸を回しているんですよ」
「ふーん……それって……ぎにゃあ!!」
「ヒ、ヒスイさん!? 大丈夫ですか!?」
ヒスイのヤツ、食べながら話していて、車がはねた拍子に舌を噛んだっぽいな。アホめ。
その一方、プリシラはひたすらはしゃいでいた。
「すごーい! はやーい! でもちょっと揺れるー!」
するとアホ毛様がするすると伸びて、ペンに巻き付き、『空中に』文字を書いていく。
『車には衝撃を吸収する装置がついているけど、道がガタガタだからしょうがないね』
「そっかー! しょうがないのかー! じゃあ、しょうがないよねー!」
今、アホ毛様が使った【魔力ペン】はエニアの作った品だ。紙がなくても、魔石の発する魔力の密度を高めつつ、空中に滞留させることによって、紙がなくても文字が書けるようになる。
いつでも話せるようになって、アホ毛様も喜んでいた。
そしてクードは、じっと車窓から外の風景を見つめている。
すでにシデロの街からは離れている。辺りは草原。青々と茂った草が、初夏の太陽を受けて煌めいている。特に目立ったところはないが、それでもこれから湧き上がる活力のようなものを感じさせる景色だった。
クードはぽつりと呟く。
「……ファシエさんにも、この景色を見せてあげたかったな……」
「……ああ、そうだな」
およそ一月前、シデロの街周辺で起こった魔物暴走事件。その首謀者ウィリオンに、俺の元パーティメンバーであるファシエは、騙されていたとは言え協力していた。釈放はされたが、依然有罪になる可能性は残っており、今は自宅で大人しくしているはずだ。
俺たちの所にも一度謝罪に来た。事件に巻き込んで危険な目に遭わせたことや、俺を傷つけてしまったことをファシエは謝罪していた。
中でも、ファシエは2年前の事件で自分を守ってくれなかった俺を、心のどこかで恨んでいたのだろうということを涙ながらに告白した。その姿が忘れられない。そんなこと、本当は謝ることなんてないのに。
俺もそうだったが、クードもファシエの様子をみて拳を握りしめていた。やるせなさやウィリオンに対する怒りがあったのだろう。
ファシエには俺も謝った。2年前の俺は何も考えず、パーティメンバーの忠告にも耳を貸さなかった慢心が原因で起こった、ということもあるからだ。
俺たちは互いの謝罪を受け取り、ファシエはしばらく自分を見つめ直し、俺が変わったように、今度は自分が変わる番だと言って店を去って行った。
クードは頻繁にファシエの様子を見に行っているのだが、俺はまだ行けていない。ファシエを追い込んでしまう気がするからだ。
俺はファシエにも、この草原のような活力を取り戻してもらうことを祈りつつ、オルデンブルクへの車にゆられた。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
そうして俺たちは草原の真ん中、北部の山脈から流れる川にほど近いオルデンブルクに到着した。
さすがジョルジオのジーさんのお膝元と言うだけあり、その街はよく整備されている。
鉄とレンガや石を組み合わせた丈夫そうな建築物。キレイに並べられた石畳の大通りを魔力車が走っているのも見える。魔力灯の数も多く、俺たちの住む交易都市シデロと遜色ない。きっと夜遅くまで賑わっていることだろう。
そして目抜き通りを奥まで進むと、ジーさんの屋敷が見えてくる。屋敷と言っても、王都の貴族が好むようなゴテゴテした飾りは全くない。白く塗装された壁で作られた、剛健かつ清潔感がある屋敷だ。
まあ、ジーさんにとっては屋敷からすこし距離をとって取り囲む工房や試験場の方が重要だろうしな。
そして俺たちは屋敷の正面玄関の前で運転手に礼を言って魔力車を降りる。
しかし、その玄関前には誰もいない。
あれ? 普通こういうときって、誰かが出迎えてくれるもんじゃないのか?
エニア達も戸惑っている。
「だ、だれもいませんね……ど、どうしましょうか?」
「えー、誰か来るまで、ここで待ってるのー?」
その中で、ヒスイの耳がぴこぴこ動いている。
「ん……中で誰かしゃべってる……」
「あ、本当だね。男の人の声もするけど、リガル、ジョルジオ様のものかな?」
クードに聞かれて耳をすませてみるが、若い女性二人、オッサン一人ってとこか?
でも、ジーさんの声じゃないな。
「いや、違う。まあ、でもいいだろ。ジーさんなら堅苦しいこと言わないだろうしなー」
そう言って俺は玄関を開けて中に入っていく。
「そ、そんな親戚の家とかじゃないんですから……」
とか言いながら、エニア達も恐る恐る入ってくる。するとそこには――
「だから! チミではなくジョルジオ卿に会わせてくれんかね!」
「そうですわ。わたくし達の提案はジョルジオ様にも益のあることですのよ」
「失礼ながら、会長は本日、来客のために忙しくしております。改めてお越し下さい」
執事服を着た若い女と、その向かい側にデブで脂ぎったオッサンと、赤を基調としたドレスアーマーの貴族っぽい少女がいた。
執事服の女はジーさんの家の人間だろう。向かいの二人組、とりわけオッサンの方は彼女に向かってまくし立てている。
「豪商たるこのワタシと貴族であるラヴィナ嬢が来ているのに出迎えもしないとは、貴族として失礼ではないかねチミ!」
しかし執事服の女は冷静に言い返す。
「会長は貴族である前に我が工房のトップであります。アポイントメントなしでは対応いたしかねます。恐れながら礼を失しているのは、何度も押しかけて同じ要求を繰り返すそちら様と存じます」
ぴしゃりと言う執事服の女に、オッサンはギリギリと歯がみしている。ドレスアーマーの女も、なんとかジーさんに会おうと考えを巡らせているみたいだ。
そして、執事服の女が俺たちに気づき、こちらに走り寄ってくる。
「あ、リガル様達でいらっしゃいますね! お出迎えも出来ず、申し訳ありません。私はジョルジオ会長の執事を務めております、タバサ・マツザキと申します」
その執事、タバサはキリッと切れ長の青い目に細い銀縁のメガネを掛け、水色の艶やかな髪を俺みたいに後ろでまとめている。どことなく出来るオンナって感じがする。
しかも『タバサ・マツザキ』という名にも聞き覚えがある。ジーさんとともに活動するA級10位の冒険者、【戦執事】。得物は腰に下げているレイピアだろう。
とりあえず、俺の名前が出てきたので俺が挨拶する。
「こんちわ。リガル・フェイルです。こっちは錬金術師のエニアで……」
と、武器屋メンバーを順番に紹介していこうとおもったところで横やりが入る。
「待ちたまえ! ワタシが話していたのに無視して、そんな薄汚いネズミどもを迎え入れるなんて、ナニを考えているのかねチミ!?」
わめいたのは脂ぎったオッサンだ。っていうか話を聞いている限り、お前の方が何を言っているのかねチミ。
それに困り果てた様子で対応するタバサ。
「デボン様、ラヴィナ様、何度も申し上げておりますが……」
と言いかけたところで、事態はあらゆる意味で解決した。
「なんじゃ、また来とったんか、おぬしら!」
屋敷の主、ジョルジオのジーさんが出てきたからだ。多分、本来は俺たちを迎えに来たのだろう。
デボンとかいうオッサンはここぞとばかりにまくし立てる。
「ジョルジオ卿、今日こそ教えていただきたい! クラウ・ソラスは一体どこにあるのですかな?」
しかし、ジーさんにあしらわれる。
「そんなもんはないと言っておろうが」
「そんなハズはない! そうでしょう、ラヴィナ嬢!?」
そこで今度はラヴィナと呼ばれた貴族っぽいのがジーさんの前に立つ。
「ええ、そうですわ。我がシャトレ家の古文書には、確かにこのオルデンブルクにクラウ・ソラスを封じたとの記述がありましたの」
「それならワシが調査して、ないことがはっきりしとるわい!」
「では、わたくし達も独自に調査いたします。許可をいただけませんこと?」
「やらん。うろちょろされると目障りじゃ。帰れおぬしら! ワシはこれから仕事の話があるんじゃ!」
ジーさんの返答には取り付く島もない。デボンとラヴィナの二人も、今日は無理だと分かったのだろう。玄関の方へ引き返していく。
「まあいいでしょう。いつかクラウ・ソラスはワタシがいただきますからね!」
「ごきげんよう、ジョルジオ様。また参りますわ」
「もう来んでええわい!」
そしてやっと俺たちの所に来るジーさん。
「おお、待っておったぞ、小童に小娘共。よく来たの。端っから見苦しいもんを見せてスマンのう」
俺たちに挨拶し、変な二人組について謝るジーさん。そのジーさんに今度はタバサが謝る。
「申し訳ありません会長。あの者たちには、クラウ・ソラスなどないと言っているのですが……」
「謝らんでええわい。おぬしは充分よくやってくれとる」
「あ、ありがとうございます……」
頭を下げるタバサを労うジーさん。タバサの表情が少し和らいだ。しかし直後にタバサはコホン、と何かをごまかすように咳払いをして俺たちに向き直る。
「で、ではリガル様達、食事を用意しておりますので……」
その言葉に食いつくヒスイとプリシラ。
「ごはん……!」
「わーい! お腹空いてたからやったー!」
「うむ。おぬしらも着いたばかりで疲れておるじゃろ。詳しい話はメシの後での」
そうして俺たちは、ジーさんの家で昼メシをごちそうになることになった。
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