第34話:Critical Process[【狂乱宿し】VS【神剣】]Flow2
斬られた右肩を押さえ、ギリ、と歯噛みするウィリオン。状況はようやく逆転する。
俺はこれでようやくウィリオンを止められると思ったが、そうはいかなかった。
「く……認めん……私の才能が、こんなヘタレた男に劣るなど……断じて認めん!!」
ウィリオンは懐から大量のカードを取り出すと、周囲にばら撒く。すると、そのひとつひとつから魔物が飛び出してきた。
その中には、俺たちが戦ってきたアイアンリザード、ブレイドビートル、ヴェノムパンサーやソーンドラゴンもいる。ここまで来ると、以前に【魔物氾濫】を起こしたのもウィリオンの工作なんじゃないかと思えてくる。
「いよいよ、形振り構わなくなってきたな……」
ぱっと見の枚数からすると、その数は20や30じゃきかない。俺たちを物量で押しつぶそうとしているのか。
「私は優れているのだ! 私は失敗などしない! 私が全力を出せば、成せないことなどない!」
その言葉は、俺たちへの威圧と言うより、自分へ言い聞かせているように聞こえた。
「ウィリオン、あんたは何をそんなに……」
俺はウィリオンが何を考えているのか気になったが、そんな場合ではない。
「きゃあああああ!! こっちこないでーーー!!」
「リガル、皆が危ない!」
「分かってる!」
【拒絶の盾】でエニア達を守るヒスイに魔物が群がり、俺とクードはそれらを狩っていく。プリシラも攻撃に参加して応戦すること、暫し。
しかし魔物の数は一向に減らない。相手の総数は未知。このまま消耗戦になれば、こちらが不利だ。俺と同じことを考えていたのだろう、クードが提案してくる。
「リガル、ここは僕たちに任せて、ウィリオンを止めてくれ!」
「だが……」
「大丈夫だよ、リーくん! アタシも本気出すし!」
「わ、私も頑張ります!」
エニアまで攻撃用手投げ爆弾を取り出し、戦う構えを見せた。
ここは危険でもウィリオンを止めに行くべきか、俺は迷った。
しかし、その時異変が起きた。周囲の魔物の動きが一斉にがくり、と鈍くなったのだ。
それは、ファシエの弱体化魔術。
見れば、ファシエは依然蒼白な顔で魔術を使っていた。
「ファシエ、お前……」
「皆さん……申し訳ありません。私は……信じるべきでないものを信じていたようですね……」
悲壮な表情で魔物の群れの奥、ウィリオンを見つめるファシエ。
「………………」
ウィリオンは自分勝手な憎悪をファシエに向けている。ファシエはそれに耐えきれなかったのだろう、ウィリオンから目をそらした。
「それでも、私が信じようとした『ウィリオン様』はこんなようにして人を傷つける人ではありませんでした……だから、リガル。魔物の動きは押さえますから、彼を止めてください……」
「分かった……頼んだぞ」
俺たちは魔物の群れに向けて構えなおす。対するウィリオンはそれを嘲笑する。
「いくらキサマの弱体化といえど、対象の数には限度があるだろう!? 魔物の密度を上げれば問題ない話だ!」
ウィリオンはまた新しいカードを取り出して空中にばら撒く。すると現れる、翼をもった魔物共。なるほど、上空からも包囲する気か。
しかし、これはウィリオンにとって悪手であった。
「プリシラさん! ウィリオンさんの方向へ重力魔術を!」
「よっしゃーーー!!」
【観測機】で魔物共の弱点を解析したエニアの指示でプリシラが魔術を発動。空中から地面に叩きつけられた魔物が地上の魔物まで押しつぶし、ウィリオンまでの道が開く。
「ナイスだ、エニア、プリシラ!」
「リガルさん、お願いします!」
「任せろ!」
俺は一直線にウィリオンの元へ斬りこむ。
すれ違いざまに一閃、返してまた一閃。
その攻撃を【狂乱】の膂力で何とか受けるウィリオンに、俺は尋ねた。
「おいウィリオン、お前なんでこんなことしでかした?」
「うるさい! 元はと言えば、私の才能を否定するお前たちが悪い! 父も、母も、世間も、皆、私の能力を認めようとしない! 私には特別な力があるというのに!」
「それで2年前、周りを認めさせるために【狂乱】に手を出し、失敗してランクを下げることになったわけか?」
「違う! あれは私の失敗ではないし、不当な評価だ! あれは、あれは、パーティの連中も非協力的だったし、道具にも欠陥があったのだ!」
自分に言い聞かせるように叫ぶウィリオン。
それを聞いて、やっとウィリオンの心の内がわかってきた気がした。
こいつは、ただ自分を守ろうとしているだけだ。
「お前がそう言いたい気持ちは分からないでもない。俺も、自分の失敗を他のもののせいにしてきた。ひとつ間違えば俺もお前のようになっていたかも知れない」
「黙れ! 前に進むことを諦めたお前などに何が分かる!?」
話しながら、俺はウィリオンを魔物の群れから引きはがし、追い詰める。
「そうだな。失敗しても前に進もうとしたこと自体は大したものだと思う。だがな、お前は、自分の周りの物事をよく考えてみたか?」
ウィリオンは、一瞬たじろいだ。
「お前は、自分の力を見誤ってはいなかったか?」
ウィリオンの口が『うるさい』と動く。
「お前は、自分が思うほど優れてはいないんじゃないか?」
「違う! 私は、失敗などしていない! 私は、見誤ってなどいない! 私は、劣ってなどいないのだ!!」
右肩の傷から血が吹き出るのにも構わず、ウィリオンはがむしゃらに【病樹剣】を振るう。俺はそれを避け、いなし、受け流す。さっきまで感じていた重さは、もうなかった。
お前は、かつて自分を不遇から救い上げてくれた、自身の才能に固執していたんだな……。本当に、分からない話じゃないよ。でも――
「ウィリオン、それは……不合格だよ」
ウィリオンがでたらめに【病樹剣】を振り下ろす。俺は【仮面剣】に呼びかけていた。
いよいよこの『評価』も大詰めだ。よろしく頼む、新しい相棒。
俺の心に呼応するように、より光を放つ【仮面剣】。
俺はそれをウィリオンの【病樹剣】と正面から打ち合わせる。
そのまま力を乗せる。真っ直ぐ、真っ直ぐ。
そして【仮面剣】はするり、と滑るように【病樹剣】を両断し、そのままウィリオンを斬り伏せた。
「カッ……ハ……」
血を吐き、体勢を崩すウィリオン。
大丈夫だ。急所は外している。
カラン、とウィリオンの手から折れた【病樹剣】が落ちる。纏っていた禍々しいオーラが消えていく。
「私、は……」
崩れゆき、倒れゆきながら、それでも何かに縋りつくように虚空に手を伸ばすウィリオン。
しかし、当然その手は何もつかむことなく、ウィリオンは倒れ、気を失った。
そして、使役していた魔物たちが消滅していくなか、俺は倒れたウィリオンに問いかけた。
「【神剣】の斬れ味、知り得たか?」
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