第33話:Critical Process[【狂乱宿し】VS【神剣】]Flow1
【拒絶の盾】でウィリオンの攻撃を弾き飛ばしたヒスイ。続いて、
「はああああああッ!!」
その隙にクードが斬りかかる。勝利を確信していたであろうウィリオンは狼狽を隠せない様子だ。
「お前達、どうやって…………まさか!?」
そうして後ろを振り返るウィリオン。そこには、震えながら立つファシエと、壊れた壁の装置。
「ファシエさんも、ようやく分かったようですね。ウィリオンさんに利用されていただけだったことが」
「でも、気づくの遅すぎだよ! リーくん、危なかったじゃんか!」
俺の側へエニアとプリシラが駆けつけてきてくれる。
「ファシエ! キサマ、私に刃向かうつもりか!!」
状況を覆され、ウィリオンは顔を歪めて叫んだ。
「あ、あの……私……私は……」
蒼白な顔で後ずさるファシエ。その目からは涙が溢れていた。そしてクードが二人の間に割りこみ、ウィリオンに剣を突きつける。
「ウィリオン……純情可憐なファシエさんを言いように利用するなんて、万死に値する!」
「調子に乗るな! 【神剣】のオマケ程度の分際で!!」
クードが猛スピードで魔双剣を振るい、ウィリオンがそれを振り払おうと迎え撃つ。
ヒスイはバタバタとファシエを俺たちの方へ連れてきて、防御態勢に入るやいなや、振り向いて喚き立てる。
「みんな、ひどい! そりゃ、りがる、ピンチだったけど……わたしを魔術でぶつけることないでしょ!?」
「しょーがないじゃんかー! 魔術だけじゃ効かないかもしれないって、アホ毛様が言ったんだもん!」
「そんなことよりも! リガルさん、大丈夫ですか!?」
ヒスイに守られながら、エニアとプリシラが俺の元へ駆けつけてくれる。
「な、何とか生きてる……」
「プリシラさん、回復魔術を! 麻痺毒は私が!」
「まかせろい!」
無様に叩っ斬られてしまった俺の体。それもプリシラの魔術とエニアの薬によって、瞬く間に治療されていく。しかし……、
「わ、悪い……今の俺じゃ、ウィリオンは倒せそうにない……」
ウィリオンと戦ってみて分かった。
クードに時間を稼いでもらって傷を回復しても、今の俺ではウィリオンの事象干渉力を打ち破るだけの力は出せない。結局、事態は決定的には好転していないのだ。
するとエニアは、
「リガルさん、お渡ししたいものがあります」
そう言って、収納錬成具から一振りの剣を取り出す。
それは淡い緑色の刀身を持つショートソード。
柄は両手持ちに対応した長さになっており、護拳が付いている。
「これは……俺専用に作るって言ってたやつか……」
「はい。リガルさんの要望を取り入れ、武器評価で得たデータを反映し、さらに私の持つ最強の力を組み込んであります」
「さ、最強の力って、お前……」
この状況で、エニアの好きそうな言葉が出てきた。
「そうです。この剣は人の心に共鳴し、使い手の『人格の仮面』を力に変えることができます。まあ、【仮面剣ユング】とでも呼んでください。名付けたのは師匠ですけど」
「【仮面剣】……? 『人格の仮面』……?」
「はい。人が、周りの物事に対して『こうあろう』と思う心。それを反映する力を持った剣です。【神剣】としての人格を持つリガルさんが使えば、斬れない物はありません」
どういう技術なのかは分からないが、確かにそれは凄そうだ。だが、
「エニア……すまん。俺は、この剣を使えそうにない……」
「そんな!? まだ私の武器が信じられませんか!?」
そうじゃない。
武器に対する信頼を取り戻してなお、俺に【棄却】が発現した理由。
【狂乱】を再び前にして、やっと分かった自分の心。
「そうじゃないんだ……俺が本当に信じられなくなっていたのは、『自分自身』の方だった……」
そう。
自分は完全だと思っていた、愚か者。
不測の事態を予測していなかった、愚か者。
その結果仲間に重傷を負わせた、愚か者。
それが、俺が俺自身に下した『評価』だ。
だから俺の魂は、俺の戦いを【棄却】する。
俺が、自分に掛けた弱体魔術を解除できなくなっていたのも、その影響なのだろう。
「俺は、【神剣】の名にはふさわしくない奴だったんだろう……」
しかし、
「なーんーでーでーすーかあぁあああああ!?」
エニアに目一杯否定されてしまった。
傷に響いた。痛い。
「それは違います! リガルさんは今まで、過去の自分と向き合い、武器との関わり方を見つめ直し、そして周りの人たちを助けるために、勝てるかどうか分からない敵にも立ち向かってくれていたじゃないですか! リガルさんは【神剣】としての自分を信じるだけの経験と根拠をすでに持っているはずです! 少なくとも、私はリガルさんを信じています!」
「……そうなのか? 俺は……」
そうなのだろうか。
俺は思い返した。武器との関わり方を見つめ直したこと。武器を再び信じられるようになったこと。その武器と共に困難に立ち向かったこと。そして、実際に街や人々を守れたこと。
……エニアの言う通りかも知れない。
俺のやってきたことは、再び俺自身を信じるために必要なことだったのかも知れない。
だとしたら……。
「……試して、みるか」
「え?」
「エニア、ありがとう。【仮面剣ユング】、使わせてもらうわ」
俺は、俺自身を試してみる。再び【神剣】を名乗れるかどうか。
今までの日々が、この一戦が、俺の、【神剣】の再評価手順。
エニアから【仮面剣】を受け取る。初めて持ったはずなのに、不思議と手になじんだ。
「リーくん、治療終わったよ! 具合はどう?」
ちょうど、身体も動くようになった。
「りがる、大丈夫なの!?」
「ああ、大丈夫だヒスイ。エニアもプリシラもサンキュな。ちょっとウィリオンの奴シバいてくるぜ」
「おー! やっちゃえリーくん!」
「思いっきりどうぞ、リガルさん!」
目の前では、クードとウィリオンの戦いが繰り広げられている。
技術と手数で勝るクードの魔双剣がウィリオンに叩き込まれるが、ウィリオンの防御力を破ることはできない。ウィリオンの方も、クードの動きを捕らえきることができずに、事態は膠着していた。
そこに割り込もうとして、気づいた。【棄却】と弱体魔術の効果が感じられない。
魔術の制御を取り戻した感じではない。だが、体の隅々まで感覚が行き届いている。
ふとみると、【仮面剣】がほのかに光を放っている。
そうか。これがこの剣の力か。『人格の仮面』の力ってやつか。
もういちど自分を試そうと思ったことで、自身に下した『愚か者』の象徴である【棄却】と弱体魔術を打ち消してくれているのか。
よくできているな、全く。
早速武器にフォローされてしまったことに苦笑しながら、俺はクードに振るわれたウィリオンの攻撃を弾き、乱入する。
「リガル! もう動けるのか!?」
「ああ、手間掛けさせたなクード。選手交代だ」
そうして俺はウィリオンに再び向き直る。
依然、心は震えっぱなしだったが、今日までの経験が、それに堪えさせてくれる。
「悪いなウィリオン。もう少し付き合ってくれ」
「チッ……さっきまで何もできなかったことを忘れたのか? 一体何が変わったというのだ」
「あ~、なんだ、その、腹くくっただけだ。もう一度、試してみようってな」
「ならばもう一度挫折するといい!」
もう普段の余裕ある態度は欠片もなく、憎々しげに【病樹剣】を振り回すウィリオン。
俺のふがいなさを浮き彫りにさせた【狂乱】のオーラ。俺を深く斬り裂いたばかりのその剣。そのどちらも、変わらず恐怖だ。
しかし、今度ばかりは正面から受け止めることができた。
そのまま鍔迫り合いになる俺とウィリオン。
そこでウィリオンは、俺の剣が変わっていたことに気づいたらしい。
「……何だ、その剣は……ふざけているのか?」
「かもな」
ウィリオンがそういうのも当然だ。
俺の要望を取り入れて作られた【仮面剣】。その剣身には、俺に向いている方にしか刃がない。相手の方にはない。先端も鋭くない。
普段は極力血を流さず、しかし斬るべきものは斬れるようにしたこの剣。
俺の注文を聞いたエニアは混乱しただろう。相手にしてみれば細長い長方形の金属板と変わりないのだから。
だが、この剣をみたウィリオンの反応は少し奇妙だった。
驚いているわけではない。
呆れているわけでもない。
むしろ……憎んでいる?
「余裕なつもりなのか……? そんなもので私を止められるつもりなのか……?」
「……ウィリオン?」
俺と押し合いながらも呟くウィリオンに、なにか虚ろな感情を見た気がした。
しかし、直後にウィリオンが弾けたように攻勢に出る。
「私を、侮っているのか!!!!」
まるで、感情をぶつけるためだけに振るわれるような、でたらめなウィリオンの太刀筋。
しかし、何がウィリオンの怒りに触れたのかは分からないが、【神剣】の人格を取り戻しつつある俺に、そんな考えなしの剣が通じるはずもない。
さすがエニア製のオーダーメイドだけあって、【仮面剣】は俺の体の延長のようだ。赤黒い暴風雨のようなウィリオンの攻撃もことごとく捌き、防ぐことができる。
そして、もうひとつ。先ほど鍔迫り合いをしているときに気づいた。この剣の纏う光は、俺の弱体を打ち消してくれるだけではなかった。本来刃のない部分に、揺らめく光が収束していく。それは【仮面剣】に追加された光の刃。
まったく、お膳立てをしてくれているのか、はたまた叱咤激励しているのか。どちらにせよ、やはりよくできている。
やれやれ、じゃあ少しは【神剣】らしいこともしてみるか。
ウィリオンが【病樹剣】を構え、俺の心臓目がけて突きを放ってくる。普通ならそのまま胴体を貫かれ、風穴でも空いてしまいそうな威力の剣。
俺はそれに、そっと突きの切っ先を合わせる。そしてそのまま、【病樹剣】に重ねるように【仮面剣】を沿わせて滑らせ、途中から刀身にひねりを加える。
すると、その僅かな力で【病樹剣】の突きの軌道は逸れ、俺には当たらない。反対に、緩やかな曲線の軌道に変化した【仮面剣】をウィリオンは避けられない。
そしてその刃は、ついに今まで猛威を振るってきたウィリオンの事象干渉力を斬り裂いた。
「がッ……!?」
「やっと、通じたか」




