第32話:Process6[再評価]Flow3
かつての悪夢と同じ、いや、それ以上の禍々しさ発するウィリオンの姿を見た時、俺の心はまた大きく震えだした。
いや、心だけではない。体が言うことを聞かない。目眩がする。気が遠のく。
これは、【棄却】……!?
何故だ。俺は武器を信じる心を取り戻し、あの悪夢を克服したのではなかったか。
ウィリオンは【病樹剣】を手に襲い来る。
相手の動きは見えている。見えているのに、頭に靄がかかったようにその情報を処理できない。
防ごうとしても、腕が動かない。
避けようとしても、足が動かない。
俺の魂が、俺の戦闘行動を【棄却】している……!!
「どうしたリガル君? 動きが鈍いぞ!」
【狂乱】の肉体による、【病樹剣】の濁流の如き乱舞。体に力が入らない俺は避ようとするも、体勢を崩した俺をウィリオンの横薙ぎの一撃が捕らえる。
「くッ……!?」
何とか剣で受けたが、重い! 俺は力任せに弾き飛ばされ、壁に叩き付けられる。その勢いは今の俺の事象干渉力を貫いた。
背中に激痛が走る。骨が軋む。思わず呻いてしまった。
「嘘……!? リガルさん!!」
「りがる……!」
「待っててリーくん! 絶対この壁何とかするから!」
「ファシエさん、このままではリガルが殺される! 早く障壁を……!」
障壁の内側で足掻くエニア達。一方、クードに語りかけられるファシエは、
「違う……! ウィリオン様はリガルを捕まえようとしているだけです……リガルが罪を認めないのがいけないんです……!」
何かに怯えたような顔で、盲目的にそう呟くだけ。
「ウィリオン……あんた、ファシエに何を吹き込んだ……!」
俺は痛みをこらえて立ち上がりながら問う。ウィリオンは、赤黒く揺らめくオーラの内側で余裕の笑みを浮かべていた。
「吹き込んだなど、とんでもない。私は【病樹剣】の盗難と復元、そして魔物暴走事件の犯人を捕まえるために協力して欲しいと頼んだまでだ。そして、【神剣】を無力化するためにはそれなりの手順が必要だ、ということだ」
そしてウィリオンは、再び俺に襲いかかる。
「例えば、動けなくなるまで弱らせる……とか」
その言葉とは異なり、完全な殺意をはらんだ【病樹剣】が俺を掠める。
甚大な魔力を宿した斬撃が皮膚を裂き、血が吹き出る。
それでも俺は必死に、自分の物ではないような体に運動を命じた。
ウィリオンの攻撃は恐ろしく速く重いが、幸い技術的には俺に分がある。相手が振り下ろす予備動作を先読みし、その軌道から紙一重で逃れ、ウィリオンの攻撃が地面にめり込んだ隙を狙って足を狙う!
が、しかし、ガキン! という音と共に俺の剣は弾かれてしまう。
「ハハハ! いかに【神剣】といえど、【狂乱】に【病樹剣】が加わった事象干渉力の前には無力のようだな!」
「ちいッ……!」
自分に攻撃が通用しないと分かり、いよいよウィリオンは勢いを増す。
やはり、動けなくなるまで痛めつけるだけというのは嘘だ。
全ての攻撃が一撃で俺を葬るだけの威力を持ち、俺は致命傷を避けるのが精一杯だった。
完全に防ぐことはできず、瞬く間に傷が増えていく。
「リガルさん……!!」
エニア達は障壁を破ろうと必死だ。
そしてファシエはウィリオンの後ろで、俺が傷つく姿を見て泣きそうな顔をしている。
「リガル、これ以上抵抗しないでください! 罪を認めて、投降してください!」
そして愉快そうにウィリオンは、
「そうだぞ、リガル君。投降したまえ! さもないと――」
と言って【病樹剣】を振り上げる。
しかし、その先は俺ではない。ウィリオンのすぐ後ろにいる、ファシエに向かって――
「こうなるぞ!!」
「!!!?」
あろうことか、ファシエに振り下ろされる凶刃。
ファシエは呆然としたままだ。
何が起こっているのか分からない。
しかし、このままでは間違いなく過去の悪夢が繰り返される。
俺は全身の力を振り絞り、ウィリオンとファシエの間に割り込んだ。
足下の地面が砕けるほどの衝撃を受けながら、それを何とか受ける。
骨も筋肉も、とうに悲鳴を上げている。
しかしついに、俺はウィリオンの一撃を正面から受けきった。
「ウィリオン!! お前、何考えて……」
だが、そう言いかけたとしたとき、背中に軽い衝撃を感じた。同時に、体中に痺れが広がっていく。
背後では、ファシエが膝から崩れ落ちていた。
その手に、針が握られているのが見えた。
「リ、リガルがいけないのです……リガルが、罪を認めないから……」
「……今、何を……?」
「ああ、それはファシエ君に持たせておいた魔物の麻痺針だよ。私のとっておきさ」
楽しそうなウィリオンの言葉を聞き、俺は罠にかかったことを悟る。
体が動かなくなっていく。
そして迫る【病樹剣】。
「もらったぞ、リガル君」
……今度は、受け止められなかった。
エニア達の悲鳴が聞こえた。
即死だけは避けたものの、もう満足に動けない。
「よくやった! よくやったぞファシエ君!!」
ウィリオンの満足そうな声。
「ウィリオン様、これでリガルは動けないはずです! ですから、もう止めてください!」
ファシエは、さすがにウィリオンが止まってくれると思っていただろう。だから、
「それはできないなあ!! リガル君達には全員死んでもらわなければ、罪をかぶせる事ができないじゃあないか!!」
と、満面の笑みでウィリオンが言ったことの意味が理解できなかっただろうと思う。
ウィリオンは恐らく、俺たち全員を殺害した上で自分の罪をなすりつけようとしているのだろう。
さっきエニアが言っていた、『使役した魔物で罪を犯した場合、霊性ランクには反映されない』というのが事実であれば、そして魔物と【融合】した状態のウィリオンであれば霊性ランクの穴をつくことが出来るのかもしれない。
もっと言えば、自分が事件を解決したように見せかけることもできるかもしれない。
そして、そのための一番の障害は当然俺だ。そのためにファシエを利用し、俺を罠にはめたのだ。ウィリオンの目論見は、ここまで成功していた。
そして最後の一手、俺にとどめを刺すべく、【病樹剣】を振り上げるウィリオン。
「いや、流石は【神剣】。思ったより手こずらせてくれたものだ」
そして、
「だが、思ったよりお人好しだったな、君は」
俺の首めがけて振り下ろされる【病樹剣】。
――が。
「ふぁいあああぁああああ!!!!」
「ぎにゃあああぁああああ!!!!」
【拒絶の盾】と、ついでに炎を纏ってすっ飛んできたヒスイが、ウィリオンの攻撃を弾き飛ばした!




