第31話:Process6[再評価]Flow2
混乱のまっただ中、エニアは慌てたように魔道具らしきものを取り出した。うるさいのはソレのようだ。そして魔道具に話しかける。
「……! ヒスイさん! 何か分かりましたか!」
その向こうからはヒスイの声が漏れ聞こえてくる。
そうだ、ここにはヒスイがいない。エニア達とは別に、何かしてるのか?
「ん……奥の部屋に研究資料がある……犯人はウィリオン。【狂乱】がいる……復活する……」
その言葉を聞いた瞬間、クードは攻撃を止め、プリシラは魔術を解いた。
え、犯人がウィリオン? 【狂乱】が復活? 何の話だ? とりあえず二人の攻撃が止まったのはいいが、依然なんの話をしているのか全く分からない。
「分かりました! 早く逃げてください!」
エニアがそう言うと、通信が切れる。俺はすかさず訊いた。
「エ、エニア、今の話はなんだ? どういうことか説明してくれ!」
「はい。まず、色々とひどいことを言ってすみませんでした、リガルさん。この部屋に入ってきてからの私たちの言動は全て演技です」
「演技!?」
「はい。ウィリオンさんが魔物暴走事件の黒幕である証拠を探す時間を稼ぐために、あえてウィリオンさんとファシエさんに騙されたふりをしていました」
「ウィ、ウィリオンが黒幕!? 騙されたってのは?」
とりあえずエニア達が味方に戻った事は分かったが、それ以外はまだ全然分からない。
「リガルさんがウィリオンさんとの捜査でいなかったとき、ファシエさんが工房に来て言ったんです。リガルさんが【病樹剣】の復活のために魔物の魔力を利用して、結果各地で魔物を暴走させているって」
「え!? ファシエがそんなこと言ったのか!?」
俺は思わずファシエの方を見た。彼女は蒼白な顔をしていながら、なおも主張する。
「そうです! リガルは絶対に折れない強力な武器を、【病樹剣】を復活させようとしています! そうだって、ウィリオン様が言ってたんです!」
「ファシエ……嘘だろ……?」
ウィリオンに何を言われたのかは知らないが、なんでファシエがそんな事を言うんだ。2年前の事件で実は恨まれていたとしても、してもいない犯罪の犯人だと言われるなんて。
衝撃を受ける俺に、エニアは説明を続けた。
「ファシエさんはあのように言っていますが、私たちは今までのリガルさんを知っています。武器が折れた過去から逃げて、より強い武器を求めようと何の罪もない人に悲劇をもたらすような事はしないと信じました。なので、これはファシエさんの嘘だと判断し、なぜそんな嘘をついたのか、こっそり調べていました」
そうか、店に戻ったときプリシラしかいなかったのはそういうことか。
「そうして調べるうちに、ファシエさんがウィリオンさんの指示で動いていたことが分かり、さらにウィリオンさんの過去が分かりました」
「ウィリオンの過去?」
「はい。ウィリオンさんは2年前、一体の強力な魔物を使役しようとして失敗。脳を損傷した魔物は暴走してウィリオンさんを襲い、それからウィリオンさんをかばった仲間がひとり亡くなっています」
俺は黙ってエニアの説明を聞く。
「しかも魔物は辺り一帯で暴れ回り、最終的に一組のパーティを襲い、重傷者を出します。そのパーティがリガルさん達、重傷を負ったのがファシエさん、ウィリオンさんが使役に失敗して暴走したのが【狂乱のベイサード】です」
「あの事件、ウィリオンが原因だったのか!?」
まさか、俺の"悪夢"にウィリオンが絡んでいたとは。
「そうです。しかし、ウィリオンさんの元仲間の方によると、その一件で霊性ランクも職業ランクも降格したウィリオンさんは、その評価を頑なに認めていなかったそうです。そして、いつか自分の才能を証明してみせると言っていたと」
「……才能の証明? どういうことだ?」
「それは、先ほどのヒスイさんの通信で分かりました。ウィリオンさんは秘密裏に【狂乱】を手に入れて復活させ、再度使役を試み、成功させることで自身の能力を証明しようとしているのでしょう。いわば、『使役の再現評価』です。膨大な魔力を貯蔵する【病樹剣】を復元させたのは、【狂乱】の使役にその魔力を利用するためだと思います」
「そんなことが……」
エニアの話のおかげで俺が現状をやっと理解したとき、バン! と奥の扉が開いてヒスイが走り込んできた。
「ごめん! 見つかった!」
そして直後、扉があった壁に無数の斬撃が走り、崩壊。その向こうにいるのは……、
「ずいぶんと色々な話をしていたな、諸君」
【病樹剣】を持ち、いつも通りに余裕のある笑みを浮かべているウィリオンと、その背後に佇む、狼の頭に熊の身体を持ったような大型の魔物、【狂乱のベイサード】。
ファシエによって復元した【病樹剣】の魔力を使って、本当に【狂乱】の使役に成功したのか。
「しかし、今していた話は誤りだ。私は【狂乱】の暴走事件には関わっていない。何を調べたのかはわからないが、その証言が正しいという証拠でもあるのかな?」
状況は完全にクロであるにもかかわらず、なお自分は無関係だというウィリオン。エニアは言い返す。
「確かに、私たちが聞いた話が間違っていた可能性はあります。しかし、この施設であなたが【狂乱】の復活をもくろんでいた証拠は見つけました。第一、今ウィリオンさんの後ろに最大の物証があるじゃないですか!」
【狂乱】を指さし、糾弾するエニア。
「この魔物は元々私が使役していただけだ。コレが【狂乱のベイサード】だったとは知らなかったが。君達の言う証拠とやらも、私に罪をかぶせるためにリガル君が準備した偽装工作ではないかな?」
「よく平然とそんな主張ができますね……」
怒りと呆れの混ざった表情のエニアに替わり、今度はクードが話し出す。
「その剣も、全てリガルが用意したっていうのか!?」
「そのとおり、この【病樹剣】も、いましがたリガル君に脅されていたファシエ君が復元したところを回収しただけだ」
ウィリオンは手の中の剣を品定めするように眺め、白々しい言葉を吐く。
「いやしかし、よくここまでの魔力をため込んだものだ……。危険な剣だ、リガル君に先んじて回収することができて本当によかった」
ウィリオンは依然座り込んでいたファシエに近づき、微笑みながらその手をとる。
「ファシエ君、よくやってくれたね。リガル君を止めるためとは言え、危険な役目を押しつけてしまって済まなかった。あと少しだけ、頑張ってほしい」
「はい……ウィリオン様……」
ウィリオンに手を引かれたファシエが力なくよろよろと立ち上がる。
俺はファシエに向けて叫んだ。
「ファシエ、よく考えてくれ! ウィリオンの言うことが本当だと思うのか!?」
しかしファシエは首を振って、俺の言葉を聞き入れない。
「……ウィリオン様は、いつも私を、みんなを助けてくれます……私は、ウィリオン様を信じます。リガルが、何か企んでいたのに決まっています!」
真っ白な顔の彼女にウィリオンは嘯く。
「そう、だからリガル君は無力化して騎士団に引き渡さなければいけない。協力してくれたまえ、ファシエ君」
「はい……」
ファシエが虚ろな声でそう言い、近くにあった壁の装置に触れると、いきなり俺とエニア達との間に魔力の壁が発生、俺を隔離してしまう。
「リガルさん!! ……うっ……あれ? 力が……」
「うう……立ってられない……」
障壁の内側でふらつくエニアとヒスイ。
「ああ、そこにはファシエ君の弱体魔術がかかっている。君達はおとなしく見ていてくれたまえ」
「ファシエさん、騙されてはいけない! 障壁を解除してください!」
クードが叫ぶが、その声はファシエには届かない。
「何だこんな壁! ぶっ壊す!!」
プリシラが魔術を使おうとしたのか杖を構えるが……、
「ええ!? 魔力がまとまらない! なんで!?」
「魔力操作を妨害するようにもなっているのだ。せっかくの魔力量も、術を組めなければ意味がないだろう?」
そしてウィリオンが背後の【狂乱】に触れると、奴の体は赤い光となり……ウィリオンに吸い込まれていく。
そして、【狂乱】の額の紋様がウィリオン自身に現れ、体全体から赤いオーラが迸る。
「ウィリオン、お前……何してるんだ……?」
「これは私の異能を応用し、【使役】した魔物を自身に【収納】して取り込んでいるのだ。まあ【融合】とでも呼んでくれたまえ」
そして俺の前に立ち塞がる、【狂乱】を宿し嗤うウィリオン。それは姿形こそ違うが、紛れもなく――
「さて、リガル君。覚悟してもらおうか」
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