第24話:Process4[それはこの手が覚えている]Flow4
【神剣】シリウスの正体が俺だ、という説明を聞いたはずのエニア。
俺の言葉を解読するかのように首をひねり、考え込む。そして、徐々にその表情に理解の色が混ざっていき……、
「え、ええええええ!! リガルさんが、【神剣】さん!? そんな、嘘です!!」
全く予想だにしていなかったらしく、エニアはやたら驚愕した。
なんか、若干失礼だな。
「いや、本当だ。今まで話してなくて悪かった」
「そんなこと言われても、信じられません! リガルさんと言えば、プリン大好き引きこもりヘタレお兄さんじゃないですか!」
「え、俺の評価低くない?」
「日頃の行いが悪いです」
そうしてジト目で俺を見てくるエニア。憮然とそれを見返す俺。
しかし、どちらからということもなく、
「「ぷっ!」」
と吹き出してしまった。なぜかはよく分からない。なんとなくおかしかった。
ひとしきり笑ってから、エニアはしみじみと語る。
「いや~しかし、【神剣】さんが、こんなプリン大好き引きこもり甲斐性なしヘタレせくはらお兄さんになっているだなんて、想像もしていませんでした」
おい、さらっと俺の扱いがひどくなってるぞ。
「うるせえ。俺にも事情があったんだよーだ」
俺が軽い口調でそう言うと、途端にエニアはしまった、という顔をした。
「あ、ご、ごめんなさい……そうですよね、リガルさんにも何か辛いことがあったんですよね……」
「まあ、少しな……そうだな、ちょうどいい。聞いておいてくれないか? 2年前の事。なに、実はそこまで深刻な事が起こっていた訳じゃないから」
「そうなんですか……じゃあ、聞かせてください」
そう言って居住まいを正したエニアに向かって、俺は語る。冒険者にありがちな話を。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
俺はサルティヴ王国の王都アクティスの孤児院の出身だ。ある日孤児院の前に捨てられていたらしい。おかげで両親の顔も名前も知らない。もらったのは、紙に書かれていた自分の名前のみ。
それでも有名な冒険者でもある院長の元、そこまで不自由せずに育った。しかし、幼い頃から俺の世界は狭かった。いつか自分も冒険者になって、この広い世界を見て回りたいと思っていた。
そして俺は院長に師事し、武術【随変一心流】を学んだ。
幸い俺には素質があり、瞬く間に世界にはびこる魔物と戦う力を手にした。
そうして冒険者となり、大剣を手に各地を旅してクエストをこなし、名を上げていった。
クードやファシエと出会ったのもこの頃だ。大体5年前くらいか。
当時の俺の活躍は控えめに言って圧倒的だった。
冒険者ギルドA級年間上位10位に軽々と入り、【神剣】の二つ名を授与された後も、魔物の討伐や犯罪者の捕縛などに華々しい戦歴をたたき出し続けた。そして4年前、16歳の頃に霊性ランクがS級になり、伴って冒険者ランクもS級になった。
冒険者ランクS級は他の職業ランクと少し異なり、冒険者ランクA級を獲得した上で霊性ランクS級になった人物の内から選ばれる。人からの評価だけでなく神からの評価も必要になるわけだ。
まあ、信用できない奴を祭り上げるわけにもいかないからな。
同時にS級冒険者の部隊【SABER】に当時最年少で入隊して多大な権力を持ち、このときに調子に乗って『シリウス・カリバー』などという名前で再登録してしまう。
それからが【神剣】の黄金期だった。
向かうところ敵なし。どんなに困難なクエストもこなす、民衆の英雄。
俺は自信に溺れていたのだろう。自分が振るう武器に与える負担も顧みずに。
そして2年前、クエストからの帰り、俺が離れたわずかな間にパーティが魔物に襲われた。
ちょうど索敵役が前のクエストで負傷していて気づくのが遅れ、奇襲を受けたのだ。
俺が駆けつけたとき、魔物の攻撃で吹き飛ばされた仲間が木の幹に叩き付けられていた。
魔物は、熊の体に狼の頭を持ったような巨大な奴だった。
額に奇妙な紋様を浮かべていたそいつは、さらに倒れた仲間に向かって腕を振り上げていた。
しかし、その時の俺はそこまで焦っていなかった。俺は既にその腕を捉えていたから。
そして、当然のように魔物の動きを止められると思っていた俺は剣を振り下ろし――
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「その時、俺の剣は折れた。俺は想定外の事態に対応できず、仲間は重傷を負ってしまった。その魔物は【狂乱のベイサード】と名付けられ、今も【指定脅威種】として特別討伐対象になっている。そして、重傷を負ってしまった仲間というのが……アークハウスで会ったファシエだ」
俺の過去を聞き、エニアは声を詰まらせていた。
「そうだったんですか……リガルさんとファシエさんにそんな事が……」
「幸い、魔物がすぐに逃げたおかげで魔術による処置が間に合い一命は取り留めたが、ファシエは戦える体ではなくなってしまった……」
俺の話が少し途切れたところで、今度はエニアがためらいがちに口を開いた。
「その時……クードさんはどうしていたんですか?」
「クードは別行動を取っていて、一緒にはいなかった……だから、俺はクードに恨まれていると思っていた。ファシエを守れなかったわけだからな……クードは、もう恨んでいないと言ってくれたが……」
俺は目を伏せる。
ファシエはクードの想い人だ。だから、俺はクードに恨まれて当然だと思っていた。
「じゃあ、リガルさんはその事件が原因で武器が信じられなくなり、戦えなくなってしまっていたんですね?」
「そゆこと。それで2年間でE級まで下がったわけ。【SABER】の方も、脱退とは行かないまでも援助金の支給は止められちまった。でも、それも大分良くなったと思っている。あの時剣が折れたのは、俺が武器との付き合い方を間違えていたからだって言うことは分かったつもりだ」
だが、今は違う。俺はエニアの目を見て言った。
「今の俺は武器と向き合い、経験を重ね、その上で武器を信じられるようになったと思っている。それも、お前が武器との使い方を教えてくれたおかげだ。だから、ありがとうな、エニア」
俺の礼を聞き、エニアはうれしそうにはにかんでいた。
「えへへ、どういたしましてです! それにしても……」
「それにしても?」
「『シリウス・カリバー』はリガルさんが考えた名前だったんですね! センスあるじゃないですか! 見直しました!」
「そこは掘り返さないでもらえませんか」
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
エニアに俺が【神剣】であることを打ち明けたあと、ヒスイやプリシラにも同様の説明をした。プリシラは、
「ジンケンってなに? 食べられるの?」
くらいの反応だった。ヒスイの方も、
「え……りがるはプリン大好き引きこもり甲斐性なしヘタレせくはらお兄さんだと思ってた……」
おい、お前らのその共通認識は一体何だ。
まあいい、これで何のわだかまりもなく武器屋の活動を進めることができる。
これからはいろいろな面で順調にいくだろう……。
と、思っていたのが1週間前の俺。
現在、店内に客はなし。客足がぱったり途絶えてしまった。
なんでですか。
さて、リガルの過去もあきらかになりました。
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