第23話:Process4[それはこの手が覚えている]Flow3
ソーンドラゴンの圧倒的な防御力を斬り裂いた俺の一閃。
それを確認したエニアが叫ぶ。
「敵、魔力障壁消失しました!」
うまいこと障壁の魔術そのものを破壊することに成功したらしい。肩から脇腹にかけて、バッサリと斬り裂かれた痛みに暴れるソーンドラゴンはでたらめに棘を乱射する。
だが、それも俺やクードには当たらないし、ヒスイの異能を破れない。そして、
「さっきのリベンジだーーー!!」
と、ヒスイの陰から飛び出したプリシラが魔術を放つ。
今度は火属性と地属性の複合魔術。炎を纏った石の杭が超高速で射出される。それが俺の付けた傷を直撃し、爆裂する。
バカッ! と鱗が大きく砕け散り、赤黒い内部が露出した。剣が通るようになるなら、クードの番だ。
「これなら、さすがに効くよね!」
バチバチと雷を鳴らせながらクードが飛びかかり、魔双剣を深く突き刺す。そしてそのまま放電し、体内を焼く!
ひときわ大きな叫びを上げ、体中から黒煙をまき散らしながら、ようやくソーンドラゴンは倒れ消滅した。
「みなさん! やりましたね!」
「みんな、すごい……」
魔物の消滅を確認し、近づいてきたエニアとヒスイが俺たちを賞賛する。
「ああ、だが、まだ1体だ。他のところの加勢に向かおう」
俺たちは他2体のソーンドラゴンに苦戦している騎士団と冒険者のところへ急ぐ。
近づいてしまえば、後は1体目と同じだ。エニアが負傷者に回復薬を配布、ヒスイはそれを防衛する。俺は相手の魔力障壁を破壊、防御にヒビをいれる。そしてプリシラの魔術でその傷を広げ、クードの魔法剣でとどめを刺す。
このコンビネーションで2体とも順調に討伐し、この魔物襲撃事件は収束した。
動ける者達やヒーラーは、依然として負傷者の救護に駆け回っているが、幸い死者はおらず、皆安堵の表情を浮かべていた。エニア達もほっとしているみたいだ。
しかし、俺は魔物の様子が気になっていた。後の2体のソーンドラゴンについても、額に謎の紋様が浮かんでいた。今回のことは"あの事件"に関連している気がしてならない。
そんなことを考えているときだ。戦っていた冒険者のひとりがこちらに近づいてくる……と思ったら、その姿には見覚えがある。
「リガル君! 見ていたよ、すごい活躍じゃないか!」
「ウィリオン、あんたも来てたのか」
俺を讃えながら歩いてきたのはウィリオンだった。彼は俺の問いに、当然という顔で答える。
「ああ、勿論。冒険者としても、アークハウスの相談役としても、魔物が人々に危害を加えるのを見過ごしてはおけないからね。と言いつつ、情けない話、私もあの魔物の防御の前には何もできなかった」
「まあ、あの魔物、なにか普通じゃなかったからな」
「うむ、そうだな。あのような個体は、私もアークハウスの皆も見たことがなく、対処出来なかった。だから礼を言おう。ありがとう、リガル君」
ウィリオンは溌剌とした顔で手を差し出す。
なんだか大げさな気がしたが、俺はその手を握り返し、感謝の言葉を受け取った。
「まあ、俺は大したことはしていない。全部この剣のおかげさ」
と言って、俺は手の中のロングソードを示す。ウィリオンはそれを興味深そうに眺めていた。
「その剣は一体……? 特別な品には見えないが……」
「ああ、これはな、前にアークハウスの拠点に殴りこんでいったエニアっていただろ? あいつが作った武器なんだよ。ヒューレ錬金術工房で売ってる。俺も今そいつのところで働いてんだ」
いかにも弱っちそうなエニアが作った武器というのが以外だったのだろう、ウィリオンは、ほう、と歓心の息を漏らした。
「それはすごい。騎士団や名だたる冒険者の攻撃を通さなかった防御を打ち破る武器を、あの少女が作っていたとは……っといけない。私も負傷者の救護に向かおう。ではまたな、リガル君」
そしてウィリオンは冒険者達の集団の方へ去って行った。
すると、エニアが入れ替わるようにしてやってくる。
「リガルさん、何かあったんですか?」
「いやなに、今ウィリオンが来ててな、少し話してたんだ」
「あ、やっぱりウィリオンさんも来てたんですか」
「そうみたいだな。ああ、お前の武器をほめてたぞ。『騎士団や冒険者の攻撃を通さなかった防御を打ち破るのはすごい』ってな」
俺がそう答えると、途端にエニアの表情が、何かに気づいた様にしゃきん! と引きしまる。
「どうした? エニア」
「……リガルさん、これはチャンスです。ウィリオンさんが言っていたことは、大きな売りになります。そこをアピールすれば、こんどこそ大人気間違いなしです!」
エニアはにやり、と笑うと大喜びで騎士団や冒険者達のところへ駆けだしていった。そして大声で宣伝しだす。
「みなさ~ん! なんと、今見事に魔物を倒した武器は、【ヒューレ錬金術工房】で販売中です~! 冒険者ギルドのお墨付き、威力抜群、頑丈無比な逸品ですよ~!」
え、そういう事、自分から言い出すの? 恥ずかしくない?
しかし、世に出回っている武器がことごとく通じなかった中で唯一通じた武器、というのは興味を引くのだろう。特に冒険者達の反応はいいみたいだ。
「ヒューレ錬金術工房って、あの有名な? 武器売ってたんだな」
「俺、今度行ってみるぜ! お前はどうする?」
とかいう言葉がところどころから聞こえてくる。それに気をよくしたエニアがプリシラを巻き込み、さらに大勢に宣伝して回る。
「強力な武器をお求めの際は、【ヒューレ錬金術工房】、【ヒューレ錬金術工房】をよろしくお願いします~!」
「アタシ達の武器はちょー強いよー! マジヤバいよー!」
……その日、エニアとプリシラは、「不謹慎だ」と騎士団に怒られた。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
魔物襲撃事件の場で、エニアとプリシラは工房の名を出して大々的に宣伝してくれやがった。
しかも、騎士団に怒られたことにも懲りず、『魔物襲撃事件で大活躍!! 錬金武器コーナー!!』の看板を店頭に設置してくれちゃいやがった。
結果、武器の売り上げは爆発的に伸びた。手強い魔物を討伐することで大きな利益を上げられる冒険者には、やはり威力と耐久力に優れた武器が欲しいのだろう。
加えて、先日の魔物襲撃事件の実績による信頼が加わった。
今では、噂を聞きつけた騎士団のちょっとした偉い人まで武器を見に来るようになった。
しかも、ここへ来てリピーターも続出するようになった。
用心のためのサブ武器にもう一本買ってくれたり、違う武器種を買って行ってくれる人もいる。エニアの武器は重量も軽いので、複数持つことのデメリットが少ないのも大きいのだろう。
ちなみに、本来重さで敵を叩き潰す斧や槌には、慣性維持や衝撃力増加というエグい機能を組み込むことで軽重量を実現している。錬金術すげえ。
一応、今回の売り上げアップの立役者は、ソーンドラゴンの魔力障壁を破った俺ということになっている。先日の魔物を討伐したことで昇華点も得られたとは言え、俺にしてみれば、武器を信じられるようになっただけで、大したことはしていないつもりなのだが。
しかし、エニアに取っては違うかもしれない。なにせ、店の商業ランクとエニアの職業ランクがひとつずつ上昇したのだ。
ある日、一緒に休憩を取っていたとき、エニアは改めて俺に礼を言ってきた。
「リガルさん、ありがとうございます。リガルさんが勇気を持って戦ってくれたおかげで、街は守られて、お店もBランク、私もDランクに戻ってこられました。リガルさん様々です!」
「それをいうなら、お前のおかげだろ。正直この剣でなければ、どうなっていたか分からないぞ?」
「それでも、です! リガルさんはきっと、リガルさんなりの事情を乗り越えて戦ってくれたんですから、やっぱりすごいです! それに比べて……」
エニアはうれしそうな顔から一転、なにかに失望したような顔になった。
「先日の事件、街が魔物に襲われて大きな被害が出そうだったのに、【神剣】さんは来てくれませんでした……最近は活動をされていないってことは分かっていましたけど、一体何をやっているんでしょうか……」
その答えを、俺は知っている。知っているから、俺は【神剣】が嫌いだった。
それは、今までエニア達に隠していたことに関係している。面と向かって聞かれなかったから、俺も答えずにいたこと。クードが今まで話題に出さなかったのは、きっと俺に気を遣っていてくれたのだろう。
それでも、いつかは向き合わなければいけない。武器に対する信頼を取り戻した今が、その時なのかも知れない。
俺は、ささやかな決意をした。
「エニア、お前の言う【神剣】だが、あの場に来ていたんだぞ?」
「え? そうだったんですか……じゃあ、あの魔物は【神剣】さんの攻撃をも防いでいたのですね……」
やっぱりそうなるよな。
「いや、手にしていた武器のおかげもあって、【神剣】の攻撃は確かに魔物に通っていた」
「おお、さすが【神剣】さんです。やっぱり相当な業物を持っていたんでしょうね」
「ああ、お前の自信作らしいからな」
「……はい?」
小首をかしげるエニア。
まだ分からないか。俺は少し苦笑しながら告げた。
「俺だよ。【神剣】シリウス・カリバーの本名はリガル・フェイル……つまり俺だ」
「……ほへ?」
エニアは何とも間の抜けた声を上げた。
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