第21話:Process4[それはこの手が覚えている]Flow1
【魔物氾濫】から数日経ち、俺たちはレイピアとメイスも品揃えに加えて営業していた。
クードにも毒の影響はなく、今日も元気に綺麗なお姉さん冒険者相手にデレデレしている。
用意した武器は少しずつ売れていっている。ただエニアが言うには、客は物珍しさで買っているだけのような気がするらしい。性能を期待されていないのだろうと言っていた。
店の商業ランクや、俺とエニアの職業ランクもまだ上がっていない。
もちろん、対策は皆で考えたのだが、具体的な案はでないまま売り上げはいまひとつ伸び悩んでいた。
そんなある日、俺は依然憂鬱な気分を抱えながら、買い出しからの帰り道を歩いていた。
そのとき、噴水広場で孤児院のチビ達に会った。今日はロイ達3人だけではない。職員のおっちゃん・ジョセフさん含めたフルメンバーだ……いや、一人、知らない子がいる。
他の子供達との遊びに混ざらず、一人でベンチに座ってうつむいている7歳くらいの少年。
俺はその子の様子がどうにも気になった。覇気がなく、塞ぎ込んでいる様子が以前の俺自身と重なったからだ。
しかし、いきなり話しかけてしまうと怖がらせてしまうかも知れないので、まずはジョセフさんに話を聞こうと――
「リガル! あなたの方から会いに来てくれるなんて、嬉しいわ!」
――する前に、クララに捕まってしまった。
クララはそのまま肩のところまで、器用に俺の身体をよじ登ってくる。
まあいいか。一旦クララに聞いてみよう。
「なあクララ。ちょっと聞きたいんだけど……」
「わたしのあなたへの気持ちなら、未来永劫変わらないわ!」
クララは身体からハートマークをまき散らしそうな雰囲気で言う。
そんな物は今この瞬間に変更手続きを申請したいところだ。
「いや、そうじゃなくて……」
「そうじゃないって事は……うそ、プロポーズなの!? そんな、みんなの見ている前でなんて、恥ずかしい……でも、そういう積極さはとてもステキだと思うわ!」
「その評価はいらない。あの子の事を聞きたいんだよ」
そして俺は落ち込んでいる少年のことをクララから聞いた。
それによると、その少年は最近入ってきた子であり、何でも両親が魔物に襲われて重傷を負い、意識が戻らず、一時的に預かっているとの事だった。
冒険者ギルドが各地へ進出し、一般人でも信頼の置ける護衛をつけることが容易になった現在、人や物の流通は活発化した。
それに伴い、特にここサルティヴ王国では、騎士団と冒険者ギルドが共同で街道の安全確保に力を入れ、旅路の安全性というのは飛躍的に高まった。
それでも魔物がいる以上、今聞いたみたいな話は完全にはなくならないのだろうが、その被害者を見るのは久しぶりだった。
「そうか、それは……辛いな……」
「リガル、優しいのね……でも、あなたが気に病む事じゃないわ……」
そう言って俺の頭を撫でてくるクララ。……5歳児に慰められてしまった。情けなし。
そんなやり取りをしていると、ジョセフさんが俺たちに気づいて挨拶に来てくれた。
「ああリガルさん、こんにちは。いつもお世話になっています」
「いやいや、俺は俺にできることをしてるだけなんで。で、ひとつ聞きたいんだけど、あのベンチに座ってる子、親御さんが魔物に襲われたって本当なんすか?」
すると、ジョセフさんは言いにくいことがあるかのように目を伏せた。
「はい。何でもその子のご両親は商人をされており、隣町でお仕事の契約をした帰りに魔物に襲われてしまったのです。生き残った方の話によると、冒険者を雇い、護衛はしっかりつけていたということでした。しかし……」
ここで、ジョセフさんは少し考え込んだ。
「本来なら生息していないはずの強力な魔物が、しかも狂ったように凶暴化したような状態で襲ってきたらしいのです。それで護衛はご両親を守ることができなかったと……」
「凶暴化……?」
俺は、今ジョセフさんが言った「本来なら生息していない強力な魔物」とか「凶暴化していた」というのが引っかかった。
そう言った魔物は俺自身も最近遭遇している。
始めてエニアと出会った時に襲ってきた、本来なら棲んでいないハズのアイアンリザード。
凶暴化して冒険者を襲っていたブレイドビートル。
そして、先日のヴェノムパンサー。
もしかして、冒険者ギルドに行くことすらサボり気味だった俺が知らなかっただけで、この街付近で何か起こっているのか?
考え込んでしまった俺とは対照的に、良くも悪くも周りの子供達は純粋だ。子供達のひとりが少年に話しかけている。ロイだ。
「なあなあ、やることないんなら、あっちで遊ぼうぜ!」
「……遊ぶ……?」
少年はロイから遊びの誘いを受けていた。
しかし、その目は虚ろであり、いささかの活力も宿っていない。そんな少年の様子を察しろ、とロイに言うのも無茶な話だとは思うが、
「そう! オレは冒険者だから、おまえは魔物ね!」
と、ロイは言ってしまった。途端に少年の顔には怒りが浮かび上がる。
「僕が魔物の役なんてやるわけないだろ!」
少年の立場なら当然の感情だ。親を傷つけた相手を演じろ、だなんて言われて冷静でいられるはずもない。しかし、ロイは少年の事情をよく理解していなかったようだった。
「え~、じゃあおまえも冒険者? まあいいけど……言っとくけど【神剣】はオレだからな! おまえはダメだぞ!」
ロイがそう言うと、少年は強い拒絶を示した。
「僕は冒険者の役もやらない! お母さんとお父さんを守ってくれなかった奴らなんて、みんな嫌いだ!」
その言葉を聞いたとき、俺は少年の悲しみの中に、冒険者が背負ってきたものの大きさを垣間見た。
俺がショックを受けている間にも、ロイと少年の言い合いは続く。
「なんだよおまえ、冒険者嫌いなの? おかしいんじゃねえの? 【神剣】とか超強いし、みんなを守ってくれるんだぞ?」
「何が【神剣】だ、ほんとはそんな奴いないんだ! おかしいのは、そんな奴を信じているお前のほうだ!」
「なんだとー!」
そうして、いよいよロイと少年はケンカを始めてしまった。それを慌てて止めに入るジョセフさん。
そうだ。今は少年の言うとおり、冒険者の代表ともいえる【神剣】シリウスは目立った活動を行っていない。
その間にも、こうして罪のない人々が悲劇にさらされている。
その中には確かに、【神剣】が活動していれば起きるはずのなかったものがあるのだ。
俺が、【神剣】不在の影響を思い知った、その時――
街に巨大な破壊音が響き渡った。
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