第19話:Process3[結成]Flow4
さて、そんなワケで草原にやってきた俺たち。
討伐対象は、頭部が大きく硬く、盾の様になっているデカい蟻みたいな魔物、シールドアント。
しかしコイツは他の蟻型の魔物、頭部が槍みたいになっているスピアアントや酸を飛ばしてくるアシッドアント共と群れを形成している。
対して俺の方は、例えばレイピアの貫通力の評価中だとすると、途中でスピアアントの相手をしてはいけないとかいうシビアなプロトコルになっている。
そこでクードやプリシラの出番だ。要するにシールドアント以外を二人に担当してもらい、俺はレイピアとメイスの評価に集中出来るようにするわけだ。
プリシラは本来ヒーラーとして雇う、という形だったが、今日の相手はそこまで危険なヤツではないため、アタッカーをしてもらうことになった。
まあ、俺とクードが低レベルの魔物相手に傷を負うことはないだろうし、オールラウンダーとして活躍してもらうのが合ってるのかもな。
そして、【観測機】でアント共の巣を見ていたエニアから指示が出る。
「皆さん、標的が出てきました! 各自、行動に移ってください!」
そして、まず前衛の俺とクード前に8匹のアント共が現れる。
3匹のシールドアントだけなら好都合だったが、そうも行かなかった。スピア3匹とアシッド2匹もいる。
「じゃ、クード。スピアの方頼む」
「うん、任せてよ」
スピアアント共に向かってクードが突っ込む。
クードの得物は両手に持った双振りの長剣。魔力触媒が埋め込まれており、クードの魔力を炎や雷に変換して纏わせたり、短距離なら斬撃と共に放つことができる。
クードはそれを舞うように振るい、派手な立ち回りでスピアアントの攻撃を引き付け、躱しながら圧倒していく。雷刃でひるませ、氷刃で凍らせ、炎刃で焼き切り、魔力刃で貫く。その動きは、かつてのA級8位・【彩嵐】の名に恥じぬ物だ。
俺も、クードがいる安心感のおかげか【棄却】は発動せず、レイピアの貫通力を順調に評価出来ている。
「エニアー。データ取れてるかー?」
「ばっちりですー!」
残るアシッドアントの方は、派手に暴れるクードに酸を吹きかけようと、顎を突き出して狙っていたが、
「燃えちゃえアリどもー!!」
プリシラの杖から放たれる火球が直撃し、1体こんがり焼かれてしまう。
うん。魔術の威力は充分なのだが……、
「まだまだいくぞー!!」
調子よく火球を連発するプリシラ。残る1体もすっかり灰になる。
しかし、ここは草原のど真ん中なのだ。当然周りの草木にも盛大に引火している。
慌てたエニアの声が飛ぶ。
「プ、プリシラさん、燃やしすぎです! この辺全部、焼け野原になっちゃいますよ!」
「え!? あ、そっか! ごめんね、どうしよう!?」
「とりあえず、水かけたら……?」
「わ、分かったー!」
のんびりとエニアを守っているヒスイの言葉を受け、プリシラは杖を振るう。
すると上空に現れる、水の塊。それは俺たちが戦っている所を余裕で覆うほど大きい。
確かに、火を消すには充分なのだが……、
「じゃ、消しちゃうよー!」
「オイ待て! 俺らが戦ってんだろうが!」
「へ?」
俺の警告も空しく、投下される水の塊。
それはちょうど、最前線でスピアアントを始末し終えたクードの真上にあり――
「あ」
「おわぁッ!?」
……鎮火した草原と、ずぶ濡れのクードができあがった。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「クーくん、ごめんねー」
「はは……まあ、次気を付けてくれればいいから……」
評価が一息ついて、水魔術をぶちまけた被害について誤るプリシラと、とりあえずエニアの収納錬成具に入っていたマントを羽織っているクード。
クードの服は、プリシラが火と風の複合魔術で乾かし中。
「じゃあさー、草原だと何魔術使えばいいの?」
すると、例によってアホ毛様がペンに巻き付き、プリシラの持つ紙にサラサラ文字を書いていく。
『地魔術で通せんぼして氷魔術で固めると、味方に当たりにくいよ!』
「そっかー、そうだねー。さすがアホ毛様ー!」
プリシラの奴、アホ毛様にアドバイスされてやがる。まあいいか。もう慣れたし。
それ以外の俺たちはお茶飲んで休憩中。
俺は朝、ジュースを売ってる屋台で買ったバナナオレを飲んでいた。
「リガルさん、お茶はどうです……あ、ご自分の飲み物買ってたんですか」
「ん、バナナオレ。お前も飲む?」
そう言って俺はバナナオレの瓶を差し出す。しかしエニアは、
「リガルさんのバナナオレ……リガルさん、バナナ、ミルク、飲む……せくはらです!」
真っ赤な顔で意味の分からないことを言ってきた。
「なぜそうなる」
「なぜって……そ、それを私に説明させるつもりですか!? さらにせくはらです!! いったいどれだけ高度なせくはらメソッドを駆使するつもりですか!?」
「さっきからお前は何言ってるんだ!?」
ぎゃあぎゃあ言い合う俺とエニアを、ヒスイはバカを見る目で見つめながら、お菓子をぽりぽりつまんでいた。
そして、俺とエニアのやり取りが落ち着いたタイミングで、こう切り出した。
「あのね、えにあ。わたしから、超・画期的な提案があるの……」
「ぜえ、はあ……な、なんですか……」
まだ息が上がっているエニアにヒスイは話を続ける。
「くーどが魔物を引きつけて、ぷりしらがやっつければ、えにあが魔物に襲われることはないと思うの……」
「そううまくはいかないと思いますけど……もし、そうするならヒスイさんはどうするんですか?」
「わたしは、お店でお昼寝……じゃない、武器を売っているのがいいと思うの……」
アホかお前、戦いたくないだけだろ。そんな要望が通るか。通せるなら俺がとっくに通してるわ。
しかしエニアは、
「なるほど、分かりました」
と頷いた。そしてにっこりと微笑みながら、
「今日の晩ご飯、ヒスイさんだけビーフシチュー無しです」
言葉で殺した。とたんに真っ青になるヒスイ。
「う、嘘! 冗談、冗談だから、えにあ、それだけは……」
そして縋りつくヒスイに、エニアはチームで仕事をするときの心得を説いていく。
やれやれ、うるさいなーもう。
でも、お家に引きこもっている間はこんな時間は無かった。
ずっと一人で、過去の傷がうずかないように、静かにしているだけだった。
俺が今までの生活を思い出していると――
「……君達! ……ガル君達! 助けてくれないか!?」
そんな声が遠くの方から聞こえる。同時に、エニアの【観測機】が魔物の反応を捉える。
「あ、あれ? 西の方から、小さい魔物がこっちに向かってきますね」
「確かに、なんか聞こえるな」
そして西の空を見てみると、赤い小さな鳥形の魔物がこちらにパタパタ飛んでくるのが見えた。ただ、その首元には、何か札のような物が貼り付けられている。しかも、
「リガル君達! 助けてくれないか!? 緊急事態だ!!」
「ウィリオン?」
そう。その魔物の札からはウィリオンの声がする。
「そうだ。その魔物は私が異能で【使役】しているものだ!」
「緊急事態って、何かあったのか?」
俺がそう尋ねると、ウィリオンは余裕のなさそうな早口で答える。
「【魔物氾濫】だ! 北のダンジョンで【魔物氾濫】が発生した!」
【魔物氾濫】。それは、普段はダンジョンを縄張りにしている魔物達が、何らかの原因で暴走し、ダンジョン外にあふれ出す現象の事だ。
「でもさウィリオン。街から北のダンジョンまでは遠いだろ? 騎士団や冒険者ギルドが連携して準備できる時間はあるんじゃないか?」
しかし、ウィリオンが焦っている理由は別の所にあった。
「街ではない! ファシエ君達がいる研究所が襲われている!!」
「何っ!?」
「ファシエさんが!?」
のんびりしていた俺たちの雰囲気は一気に消え失せた。
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