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神剣のプロトコル  作者: 深井立花 数白
第1章:ヘタレ剣士とアラモード
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[Process1/5:天地滅殺]Flow2/5

 俺たち人類は生まれた瞬間から、常にその"霊性"を神に『評価』されている。ご丁寧にランク付けまでして、念じさえすればいつでもどこでも表示して確認する能力まで授けてくれやがった。

 

 この『霊性ランク』は俺たちの行いに応じて神から与えられる『昇華点ポイント』を蓄積することで上昇する。なにをしたら昇華点ポイントをもらえるのかってのは『統聖教』の教義でいろいろ語られているが……まあ研究者達の話では、この世界を良い方向に導いた人に送られる賞賛のようなものらしい。


 ランクは、上からS、A、B、C、D、E、Fの7段階。F級なんて殺人をやらかさない限りなったりしない。もしなったらひどい扱いを受ける。へたすりゃ死刑。

 

 だが霊性ランクだけでは、その人が何をしてきたのか、何ができる人なのかと言うことがわかりにくい。そこで人類が考えたのが、職業ごとにギルドを作り、そこに登録した個人ないし団体をランク付けする『職業ランク』だ。こっちも、S~Fの7段階。ただしF級になったら。その職業に就くべき人間でないとしてギルドを追い出されることになってしまう。要するにクビになるのだ。

 

 すべての人は、基本的にこれら、神の評価による『霊性ランク』と人の評価による『職業ランク』を持っている。

 俺は冒険者であるからして、当然これから向かう冒険者ギルドに所属しているわけだ。ランクはE級。文字通りのいー男ってわけだ。え、サムい? まだ春先だから仕方ないさ。


 いやまあ、正直、若干ヤバくはある。これ以上ランクが下がってF級になったら冒険者をクビになるわけだからな。しかし、それでも俺は戦わない事へのこだわりを捨てないストイックでハードボイルドな引きこもりなのだ。惚れるなよ。


 で、俺の住むこの街、交易都市シデロはサルティヴ王国の物流の中心、かなり大きい街だ。物が集まると人も集まる。冒険者に仕事を持ってくる人も大勢いる。そんなわけでこの街の冒険者ギルドの支部はデカい。正面玄関の扉も無駄に重厚だ。俺に「通るな」と言っているようだ。帰りたい。


 ギルドの中も無駄に人が多い。シデロ周辺の冒険者は女性比率がまあまあ高いので、そこまでむさ苦しくないのが救いだ。でもうるさい。帰りたい。


 俺は早くもうんざりしながら受付へ向かう。座っているのは、少し派手な化粧をした見たことのない女性。多分新人だ。同僚とくっちゃべっている。意味の分からない話題で盛り上がっていて非常に話しかけづらい。しかし、いつまでも突っ立っているわけにもいかない。俺は意を決して話しかけた。


「あ~、お話中に悪い。なんか呼ばれたから来たんだけど、どうすればいいんだ? ほら手紙」


 俺はその職員にギルドが送ってよこした手紙を見せた。すると彼女は何とも華やかな笑顔で、スムーズに応対してくれる。


「はい。リガル・フェイルさんですね? ご対応ありがとうございます。担当者に確認して参りますので少々お待ちくださいね」


 おや? 新人かと思ったが、なかなかどうして好感の持てる受付ではないか。しかし、彼女が奥の部屋に入る直前、


「……チッ。E級かよ」


 というぼやきが聞こえた。帰りたい。


   ◇◆◇◆◇


 俺はさほど待たされず説明を受けた。どうやら中期間以上の仕事になるらしく、依頼人が直接会いたがって奥の部屋で待っているとのこと。

 面倒な話だ。やはり断ろう。断り文句を考えてきたのは僥倖ぎょうこうであった。


 よし、初っ端からガツンと言ってやろう。

 ……なんて言うんだったっけ。ああ、思い出した。

 俺は依頼人が待っているという部屋の扉を開けながら言った。


「どれほどの案件かは知らんが、この私の貴重な時間を浪費させるつもりか?(イケボ)」

「すー……。すぴー……」


 ……部屋の中では、依頼人らしい少女がソファで寝ていた。割と幸せそうな顔をしている。

 俺のイケボを返せ。

 っていうか、こいつ先日の職人少女じゃないか。確かエニアとか言ったっけか。コレが依頼人なのか?

 とりあえず起こすか。


「おーい、起きろ」

「むにゃむにゃ……」


 起きない。肩をゆすってみる。

「起きろってば」

「えへへ……もうこれ以上売れませんよお……」


 妙な寝言だ。俺はエニアの頬をつんつん突いてみた。

「起ーきーろー」

「……ふぇ?」


 エニアはやっと起きた。ぼんやりした視線が俺を捉える。だがそのうち、ぎょっとしたような顔をしやがった。


「な、だ、誰ですか⁉ 何をしているんですか⁉」

「は? 何ってお前が呼んだっていうから……」

「い、嫌あーーー! 誰かー! 助けてくださいー! せーくーはーらーでーすー‼」

「ちょ、お前、何叫んでんだ⁉」


   ◇◆◇◆◇


 ……エニアの誤解は解けた。俺を待っている間に寝てしまったことを思いだしたのだ。


「す、すみませんでした、リガルさん。少しびっくりしてしまって……」


 エニアは俺の向かいに座り、しゅんとしている。


「冤罪は勘弁して。大体、人を呼び出しておきながらヨダレ垂らして寝ているとは……」

「垂らしてなんていません! しかも、元はと言えばリガルさんが遅刻したのが原因じゃないですか!」


 寝たり叫んだり謝ったり怒ったり忙しいやつだ。やはり思春期というのは情緒が不安定なのか。


「まあ、それは置いといて。なんか知らんが仕事の依頼だって? 内容によらず断ろうと思っているが」


 俺が断る前提で話を進めようとすると、なぜだかエニアは、にや~り、としたり顔をしてきた。


「ふっふっふ。そう言っていられるのも今の内です」

「……ほお。ならば話を聞こうではないか」


 逆に面白い。この俺の勤労意欲を掻き立てられるものなら掻き立ててみよ。


「では説明を始めます。リガルさんにやっていただくのは、ずばり『武器の臨床評価』です! ……武器屋の経営も手伝って欲しいですけど」

「武器の臨床評価? なんじゃそら」


 聞いたことない。


「つまりですね……」

 と補足された説明を聞く限り、要するにエニアは武器屋で売り出す武器を実際にギルドの冒険者に使ってもらい、お墨付きを得て宣伝したいらしい。


「なるほど。お前の言いたいことはよく分かった」

「ありがとうございます! では早速……」

「だが断る!」

「だと思いました! ていうか、なんでですか⁉」


 そして俺は説明した。人類にとってお家とはどれだけ重要な存在であるか。そして俺の引きこもりにかける情熱を。


「なるほど。リガルさんの言いたいことはよく分かりました」

「ありがとう。ではこれにて……」


 俺の言いたいことが分かったのなら、わざわざ俺に仕事を依頼することもない、と思ったのだが――


「ふっふっふ……ふっふっふですよ、リガルさん」


 エニアはさっきと同じしたり顔になった。なんだよ気持ち悪い。


「この依頼を断ったら、リガルさんは共同住宅から出て行ってもらいます!」

「……は?」


 何言ってんのこいつ。なぜお前にそんな権限がある?


「リガルさんが住んでいる共同住宅の大家、私の伯母なんですよ。そこで伯母さんに相談したら、立ち退きを盾に仕事を依頼すればいいってことになりまして」

「……え?」

「リガルさん、家賃を結構滞納してますよね? 伯母さん怒ってますよ。何度督促(とくそく)しても払ってくれないって。だからこのままだと本当に立ち退かされることになりますよ? うち追い出されて、行くあてあるんですか?」


 若干、にやにやと意地悪い感じで問い詰めてくるエニア。

 ヤバい。『家賃? フッ、そんなものを払っていた時期が俺にもあったな……』くらいの感じで考えてた。

 そしてエニアの言うとおり、俺はあのアパートを追い出されたら行く場所がない。


「お、おい待て。引きこもりからお家を奪って外に放り出すとか、お前には人の心がないのか!」

「何とでも言ってくださ~い。法律は私の味方です~。リガルさんにはこの仕事を受けてもらいま~す」

「ええ……なんでそんなまでして俺に依頼しようとすんの?」


 俺がうんざりしながらそう言うと、それまでとは打って変わり、エニアは少し泣きそうな顔になった。


「う……実は、私……師匠のお店のスペースを貸してもらって武器屋を始めたんですが、全然売れなくて……そのせいで、お店の『商業ランク』を下げてしまったんです……」

「どのくらい?」

「S級からC級になっちゃいました……」

「すげえ量の泥を塗ったな」

「はい……だから、早く武器屋を成功させて評価を取り戻したいんです……師匠は気にするなって言ってくれたんですが、そんなわけにもいきません……」


 エニアはすっかりしょんぼりしてしまった。


「う~ん……ちなみに、お前の職業ランクは?」

「そっちもD級からE級に下がってます……」

「じゃあ割と崖っぷちじゃねえか」

「そうなんです……」


 ますます気落ちした様子のエニア。


「それで宣伝のために冒険者に評価してもらいたいわけか」

「はい……なのに誰も引き受けてくれなくて……私みたいな子供がまともな武器作れるわけがないとか、遊びに付き合うほど暇じゃないとか言われて……でも誰でもいいわけでもなくて、腕の立つ人でないと評価になりませんし……」

「……で? なんで俺?」


 そこが分からん。尋ねる俺に、エニアは不意に真剣な表情を向けてきた。


「リガルさん、先日馬車を魔物から助けてくれましたよね? その時にリガルさんの太刀筋をみて思ったんです。真っ直ぐな太刀筋だ、って。私の思い描く理想でした。この人に私の武器を使ってもらいたいと思いました」


 おお、思ってたより真面目な感じの理由だった。俺も武術をたしなんだ身、正直太刀筋を褒められるのは悪い気はしないんだが……。


「というわけでリガルさん、依頼受けてください! お願いします! さもないと……」

「あー! 分かった、分かったよ! やればいいんだろ!」


 結局、お家を手放したくない俺に選択肢はなかった。


「わー! やったー! ありがとうございます~!」


 喜色満面、俺の手を取ってぶんぶん振り回すエニア。


「じゃあ明日の朝、工房に来てください! 早速お仕事です!」

「はい……」


 正直に言おう。めっちゃヤダ。どこかに俺を拾ってくれる善良なる神はおらんのか。


「あ、やっぱり迎えに行きます。サボられると困るので」

「はーい……」


 神は死んだ。

神は死んだ、というのは

こういう意味ではないんですけどね。

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