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神剣のプロトコル  作者: 深井立花 数白
第1章:ヘタレ剣士とアラモード
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[Process2/5:ごはんと魔物とディフェンダー]Flow5/5

 駆けつけてくれた騎士団に事情を説明した後も、エニアの怒りは収まらない。俺は店番をヒスイに任せ、控え室でエニアを宥めていた。


「うう……あの人達、難癖つけてお店を壊そうとしました……それに、私の武器をオモチャだって……許せないです……憤懣ふんまんやるかたないとはこのことです……」

「まあ、落ち着け。店を壊そうとしたことは騎士団が厳重に注意とかしてくれるさ。武器にしたって、見る目のない人の言うことを気にしていても仕方ないだろ?」

「それはそうなんですが……」


 いったんは俺の言うことを聞き入れてくれたエニアだったが、その表情はどうにも不満げだ。


「むむむ……何とかギャフンと言わせてやりたいです……」

「止めとけ止めとけ。あんな小さな拠点の割には結構人数いるみたいだからな。極力相手にしない方がいいぞ」

「でも……ってリガルさん。今『あんな小さな拠点』って言いましたけど、アークハウスの人たちの居場所、知ってるんですか?」


 あ、口が滑った。俺の言葉尻を捉え、エニアの目がギラリと光った。


「あ、ああ……知り合いがアークハウスの穏健派に所属しているから、その関係で……」

「行きましょう! 苦情のひとつでも言ってやるのです!」


 エニアは怒りのオーラをたぎらせ、勢いよく立ち上がる。

 俺はひとつ学んだ。どうやらエニアは割と好戦的な性格らしい。


   ◇◆◇◆◇


 そうして俺はエニアに急かされ、アークハウスの拠点まで案内させられた。


 仕方ない、俺がいないところで行動されるよりマシだし、苦情は俺の知り合いを通すことであまり波風を立てない方向に持って行けるだろう……。


 その拠点は住宅街の端の方、貧民街が近くなってきたところにある。魔物を保護するという活動方針を掲げる団体だ。街の中心部に拠点を構えられるほど、世間に受け入れられていないのだろう。


 小さな共同住宅を改修したであろう質素な拠点を前にして、エニアは気合い十分だ。


「さあ、リガルさん、行きますよ! そんな気の抜けた顔しないでください! なめられたら終わりです!」

「へ~い……」


 本当は『彼女』にはあまり会いたくなかったんだけどなあ……。


 そんな俺の心中も知らず、エニアはバン! と扉を開け放ち、ずんずんと奥の受付風の机に進んでいく。


 そこには、親しげに話す一組の若い男女。男の方は鮮やかな赤い短髪に黒いコート。女の方は薄い水色のナチュラルなショートヘアに白と青を基調としたローブ……というか、こっちは件の知り合いだ。早速会うことになるとは。


 俺とエニアが近づくと、当然彼女はこちらに気づいた。赤髪の男に一言断り、うれしそうにこちらに近づいてくる。赤髪の男はそれに気安い感じで応じると、気を利かせたのか少し離れた席に座った。


「リガル! 久しぶりですね……元気にしていましたか?」

「ああ、まあ、そこそこな……ファシエはどうだ? その、体の方は」

「ふふ、大丈夫ですよ。もうなんともありません」


 俺と彼女――ファシエが親しげに話す様を見て、エニアは不思議そうな顔をしていた。


「あれ……リガルさん、この方とお知り合いなんですか?」

「だから知り合いがいるって言ったろ。お前、人の話聞いていなかったな」

「ご、ごめんなさい……」


 俺とエニアのやりとりを聞いて、ファシエは穏やかに微笑む。


「可愛いお嬢さんですね。紹介してくれますか? リガル」

「ああ、こいつはエニア。俺は今こいつの武器屋で働いている」

「そうなんですか。初めましてエニアさん、私はファシエ・リスティータといいます。よろしくお願いしますね」

「あ、は、はい、よろしくお願いします……」


 ここへ乗り込んできたときの勢いはどこへやら、エニアはファシエの柔らかな雰囲気に毒気を抜かれてしまったようだ。


「あの、ファシエさんは、リガルさんとは……?」

「私は元々ヒーラーとして冒険者をしていて、リガルとは同じパーティで活動していました。ただ、魔物に大けがを負わされてしまって戦えなくなり、今はこうしてアークハウスの一員として、人と魔物との共存のために活動をしています」


 その経緯を聞いたエニアは、怪訝な表情を浮かべた。


「え? えと……失礼だったらすみません。魔物に大けがを負わされたのに、魔物との共存を目指しているのですか?」


 エニアの疑問はもっともだ。ファシエがこの選択をしたことには俺も納得がいっていない。しかし、


「はい、そうです。魔物が人を襲わないようにできれば、もう私のような目に会う人が生まれませんから」


 ファシエはこう言うのだ。確固たる考えがあってそうするのなら、とりわけ俺には止める権利などない。本当は、もう魔物に関わって欲しくないんだが。


「ところでリガル、エニアさん、私たちにご用があって来られたのですか?」

「そ、そうです! 実は私達の店に……」


 と、エニアはアークハウス過激派の仕打ちをファシエに訴えた。するとファシエは申し訳なさそうな顔をして、


「エニアさん。このたびは彼らがご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……今後、二度とこのようなことを起こさないよう、彼らに申し伝えておきます」


 深く頭を下げ、エニアに謝罪した。ファシエがあまりにも親身に答えてくれるもので、返ってエニアも萎縮してしまったようだ。


「あ、あの、分かっていただければそれでいいので、頭を上げてください」

「ありがとうございます……申し訳ありませんでした……」


 その謝罪が一段落したときだ。最初にファシエと話していた赤髪の男がこちらに近づき、話しかけてきた。


「横からすまない、エニア君と言ったね?」

「え? は、はい。そうです」

「お初にお目にかかる。私はウィリオン・サーヴという。冒険者だが、過激派のメンバーにも顔が利くつもりだ。今回の件、私からもお詫びしよう。今後、彼らの行動には私も目を光らせておく。安心してくれたまえ」


 その名前には聞き覚えがある。A級冒険者ウィリオン。詳細は知らないが、魔物を使役して戦うらしい。それもひとつの『共生』ってやつなのかねえ。

 しかし、いきなり出てきて「安心しろ」って言われてもなあ。

 判断しかねたのはエニアも同じだったらしい。


「あ、はい、ありがとうございます……?」


 微妙な返事をするエニアに向かって、ファシエがウィリオンのフォローをする。


「エニアさん、この方は私たちの相談役を務めてくださっている、ウィリオン様です。魔物についてとても詳しく、アークハウスの研究にも協力してくれており、非常に頼りになる方です。ウィリオン様が安心だというのであれば、もう大丈夫だと思いますよ」


 ファシエはにこやかにエニアに答える。二人がどういうつながりだか知らないが、ファシエはウィリオンを信用しているようだ。


「そう、ですか……う~ん……分かりました、それではお願いします」

「うむ、私とファシエ君に任せておいてくれたまえ。君たちに危害を及ぼさないことは保証しよう。いいね、ファシエ君?」

「はい、もちろんです。ウィリオン様」

「お二人とも、ありがとうございます」


 エニアはファシエとウィリオンに頭を下げた。ひとまずは気持ちが収まったようだ。こうして、アークハウスとの一件は無事終息した。


   ◇◆◇◆◇


 俺たちが(っていうかエニアが)アークハウスの拠点に突入してから数日、過激派の連中が再び乗り込んでくるようなことはなかった。ウィリオンがうまく警告でもしてくれたのだろうか。  

 ロングソードとスピアが思ったほど売れてはいなかったのだが、おおよそ平穏な日々が続いていた。


 そんなある日のことだ。俺とエニアが買い出しから帰ってくると、店の近くに人だかりができている。


「んん? なんか騒がしいな」

「何かあったのかも知れません……すこし様子を見てみましょう」


 野次馬根性といえばそれまでだが、緊急事態かもしれない。俺とエニアは群がっている人たちの間を縫って中心を覗いてみる。そこには、桃色のポニーテールに白いローブの魔術師風の女が倒れており、それを介抱しているらしい灰色の髪の男がいる。

 その内、男の方は俺のよく知る人物だった。


 俺が気づくと同時に、向こうも俺の気配に気づいたのだろう。こちらを振り返って安堵の表情を浮かべた。


「ああ、リガル、ちょうどいいところで会えた! 手を貸してくれないか!? この女性が急に倒れてしまったんだ!」


 それは以前の俺のパーティメンバー、魔法剣士のクレイドだった。

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