第10話:Process2[ごはんと魔物とディフェンダー]Flow2
ヒスイがディフェンダーとして加入した翌日、俺の足は重かった。
せっかく気分が晴れてきていたのに、元に戻りかけている。
工房に入ると、その原因はタマゴサンドを食べていた。
「もっきゅもっきゅ……えにあ、料理上手……」
「えへへ……お粗末様です」
ヒスイのやつ、エニアに朝食までごちそうになってやがる。図々しいな、おい。
「おはよーさん」
「あ、おはようございます。リガルさん」
「もっきゅもっきゅ……ぷいっ」
そっぽ向くヒスイ。
「挨拶されたら返せキサマ」
「りがるは、いじめっ子だから嫌い……」
「原因はお前にある」
「ぷいっ」
ヒスイは俺の言葉には耳も貸さず、続きをほおばる。
理不尽な。なぜ昨日も今日も、まっとうな意見を言っただけの俺が若干非難される感じになっているのか。
「まあまあ、リガルさんもサンドイッチ食べますか?」
「ん、ひとつもらう」
しかたない。エニアに免じて許してやろう。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
さて、サンドイッチを食べ終えて、俺は紅茶をすすっていた。
ヒスイも何個食べたのかは知らんが、満足そうな顔をして背もたれに身を預け、ぐでーっとしていた。
そこへ食器を片付けたエニアが書類を持って戻ってくる。
「それでは、今日のお仕事の説明を始めます。いいですか?」
「ああ、いいぞ。不安はあるけどな」
「問題ない……わたしがいれば、万事おっけー」
偉そうに胸を張るヒスイ。こいつなんで態度でかいんだ。
「いや、俺の不安要素はお前だ、ヒスイ」
「大丈夫……りがるは本気を出したわたしの恐ろしさを知らない」
「それが真であるならば、今お前はここにはいないはずだ」
俺達のやりとりに、エニアはすこし困ったような笑みを浮かべた。
「まあまあ、慎重にやればうまくいきますよ」
「だといいけどな。俺は戦うにしても、前回と同じく安全第一でしか動かないからな?」
「はい、もちろんです」
これからの仕事に際して、方針を擦り合わせる俺とエニア。
だが、その話を聞いていたヒスイはなぜだか、きょとんとした顔をした。
「……戦う、ってどういうこと……?」
「ん? お前仕事の内容分かってて来たんじゃないのか? 貼り紙読んだんだろ?」
「……お腹空いてて、よく覚えてない……」
お前、内容知らずに大口叩いてたのかよ。呆れた。
「ヒスイさん、私たちのお仕事はですね……」
そして始まるエニアの説明。武器の信頼性を確保するために、実際に魔物を討伐して評価を行うのだ、という話。
それを聞いていたヒスイは、だんだんと冷や汗を垂らしていきやがった。
「……魔物……戦うの……?」
「は、はい。といっても、討伐は基本リガルさんに担当してもらうので、ヒスイさんには私の護衛を……」
「……い……」
「い?」
「嫌あーーーーーー!! 怖いーーーーーー!!」
ヒスイのやつは部屋の隅に逃げ、大盾を被りガクブル震えだした。
あー、これが原因で追放されたのか、こいつ。
「ヒ、ヒスイさん、あの……」
「嫌あーーーーーー!! 魔物、怖いのーーーーーー!!」
「だ、大丈夫ですよ~、怖くありませんよ~。怖い魔物は、全部リガルさんがやっつけてくれますからね~」
面くらいながらも、いやいや言うヒスイを宥めるエニア。
ディフェンダーが護衛対象に安全を保障されている。なんだこの構図。
今の俺が人のこと言えた立場じゃないが、コレでディフェンダーって無理がないか?
「おいヒスイ。お前よくそんなんで冒険者やってこられたな……」
「だ、だって……今までは、採集がメインだったから、あんまり魔物とは戦わなかったの……なのに、リーダーが、儲かるから魔物の討伐もしようって言いだして……わたし、嫌だって言ったら、お前なんかいらないって……」
あっさり見捨てるリーダーもリーダーだが、確かに戦闘に消極的なディフェンダーも困る。途中で逃げ出されたりされたら、パーティ全滅もありうるからな。
「で、どうすんの? この仕事辞める?」
「うう……それは、とっても困る……ごはん、食べられなくなる……」
「そうですよリガルさん。せっかく来てくれたんですから、ここは何とかヒスイさんにディフェンダーをしてもらう方向で……」
まあ、エニアは評価に必要なディフェンダーは手放したくないわな。
「ヒスイさん、うちでお仕事すれば、毎日好きなメニューをつくってあげますよ~。だから、少し頑張ってみませんか?」
「ごはん、食べたい……でも、魔物、怖い……」
懸命にヒスイを説得するエニアと、食欲と恐怖の合間で葛藤するヒスイ。
しかし、あれだな。
自分よりダメな奴が出てくると、なんか自分はしっかりしないといけない、みたいな気がしてくるな。
今日の戦闘が少し不安だったが、怖がりまくってるヒスイを見ていると、逆に冷静になってきた。
さて、どうするか。
「なあエニア。でっかい袋とかないか?」
「え、大きい袋ですか? それなら、材料保管用の余りが倉庫にあるはずですが……」
「ひとつ借りるわ」
俺は隣の倉庫に向かい、エニアの言う袋を見繕った。なるべく大きくて丈夫なものがいい。
……人を入れるからな。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽
そして控室へ戻ってくる。
「エニア、袋の端持って広げててくれ」
「は、はい」
俺の言うとおりに、エニアは袋を広げる。そこに向かって……、
「ぽいっと」
俺はヒスイを持ち上げて放り込んだ。すかさず袋の口を縛る。
「きゃあーーーー!! 何ーー!?」
「リ、リガルさん!? 何をしているんですか!?」
「荒療治。このまま仕事に連れていく」
そう。俺が馬車を襲った魔物を倒した時のように、戦わざるを得ない状況にもっていけばヒスイも動いてくれるだろう。
しかし、当然ヒスイは暴れる。
「やーめーてーー!!」
「リガルさん! 流石にこれはひどいですよ!」
「む、そうか」
仕方ない、俺は袋の口を少し緩めた。
すると、そこからすぽん! と顔を出すヒスイ。
「鬼ーー! 悪魔ーー! F級ーー!」
と、毛を逆立ててギャーギャーわめく。
「何とでも言え。どのみちお前も食い扶持が欲しいんだろ? 腹くくれ。それに、いざとなったら意外と何とかなるかもしれないぞ?」
「それでも、こんな急には無理ーー! えにあ、助けて……」
エニアを見つめるヒスイ。その様子は道ばたに捨てられた子猫そのものである。
ヒスイはエニアなら自分の味方をしてくれると思ったみたいだが・・・・・・、
「……ごめんなさい、ヒスイさん。お店のラインナップのため、魔物と戦うことに慣れてください……」
残念、エニアは申し訳なさそうに顔を伏せ、ヒスイから目を逸らした。
「えにあ、裏切り者ーーー‼」
こうして、俺たちはわあわあ騒ぐヒスイを台車に放り込み、評価場所である街近くの森へ向かった。
……途中で騎士団に事情聴取されたけどな。
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