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3 フィールド戦闘



 村を出てしばらく歩くと、道沿いの草むらが揺れた。


《スプリガン・パピー LV.2》


 飛び出してきたのは、細身の狼型モンスターだった。


 探偵は腰の木剣に手をかけ、その動きを見つめる。


 狼が地面を蹴った。


 振り下ろされた爪を一歩踏み込んでかわし、そのまま木剣を横薙ぎに振るう。


《回避成功》

《命中 HP-12》


 今度は、敵の体力が確かに減った。


(武器を持っていれば、攻撃として認識される)


 怯んだ狼が距離を取る。


 探偵は素早く装備を切り替え、短剣を抜いた。再び飛びかかってきたところへ身体を沈め、すれ違いざまに喉元を突く。


《クリティカルヒット HP-28》

《スプリガン・パピーを撃破しました》


 狼の身体が光の粒となって消え、地面に小さな牙と数枚のコインが残った。


《獣の牙×1》

《5G》


「何とかなるものだな」


 探偵が短剣を収めると、隣でエコーが呆れたように口を開いた。


「初心者の戦い方じゃないだろ、それ」


「倒せた」


「倒せたけどさ。普通はまず攻撃を受けない練習とか、武器の振り方を覚えるところなんだよ」


 そのとき、探偵の前に新しい画面が開いた。


《レベルアップ 1→2》

《初回戦闘達成ボーナス:スキルポイント3》

《スキルツリーが開放されました》


 枝分かれしたスキル一覧が浮かび上がる。


 攻撃力を上げるもの、防御を固めるもの、魔法を覚えるもの。その中から探偵が選んだのは、三つだった。


《クイックステップ》

 短距離の回避動作を強化する。


《フェイント》

 敵の攻撃を誘発しやすくする。


《ピンポイント・スラッシュ》

 弱点への攻撃成功率を上げる。


 選択されたスキルを見て、エコーが目を細めた。


「ずいぶん偏ったな」


「そうか?」


「攻撃を避けて、隙ができたところだけ狙う気だろ。普通はもう少し安定した構成にする」


「当たらなければ問題ない」


「それ、失敗したら一発で死ぬやつだからな」


 探偵はスキル画面を閉じた。


「戦えればいい」


「ゲームを楽しむ気はあるのか?」


「楽しんでるよ」


 妙に整った笑顔だった。


 エコーはしばらくそれを見つめたあと、何も言わずについてきた。


   *


 道を進むにつれ、周囲の木々が少なくなっていった。


 やがて現れたのは、崩れかけた石柱が並ぶ小さな遺跡だった。地面には古い紋様が刻まれ、その中央で淡い光が揺れている。


《フィールドイベントが発生しました》


 光が膨らみ、巨大な影が姿を現した。


《エリアボス:ファング・ウルフ LV.6》

《推奨パーティーレベル:5》


 赤黒い毛に覆われた狼が、低い唸り声を上げた。


「これはまずい」


 エコーの声から、先ほどまでの軽さが消える。


「本来はクエストを進めたプレイヤーが、何人かで戦う相手だ。今のお前はレベル二。装備も初心者用しかない」


 探偵は短剣を抜いた。


「倒せばいいんだろ」


「だから、その結論になるのが早いんだよ」


 ファング・ウルフが地面を蹴った。


 巨体からは想像できない速さで間合いを詰め、前脚を振り下ろす。


 探偵の身体が横へ滑った。


《クイックステップ》


 爪が地面をえぐり、土煙が上がる。


 探偵はその内側へ踏み込み、無防備になった喉元へ短剣を走らせた。


《ピンポイント・スラッシュ》

《クリティカルヒット HP-30》


 狼が吠え、乱暴に首を振る。


 追撃の短剣が毛皮をかすめた。


《通常攻撃 HP-5》


 ほとんど減っていない。


「やっぱり攻撃力が足りてない。急所に当てないと通らないぞ」


「なら、当てればいい」


 狼が向きを変え、再び飛びかかってきた。


 爪をかわした直後、太い尾が横から迫る。避けきれず、探偵の身体が弾き飛ばされた。


《ダメージ HP-42》


 地面を転がり、片膝をつく。


「次にまともに食らったら終わりだ!」


「分かってる」


 狼がゆっくりと距離を詰めてくる。


 探偵は短剣を下げ、わずかに体勢を崩してみせた。


《フェイント》


 隙を見つけた狼が、一気に飛び込んでくる。


 その瞬間、探偵は横へ踏み出した。


 牙が空をかむ。


 すれ違いざま、短剣を脇腹へ突き立てた。


《ピンポイント・スラッシュ》

《クリティカルヒット HP-32》


 狼の体力が大きく減る。


 怒りに任せて振るわれた爪をかわし、距離を取る。攻撃を誘い、避け、その直後だけを狙う。


 同じ動きを繰り返すうち、狼の足取りが鈍くなった。


「無茶苦茶だな……」


 エコーが小さくつぶやく。


「レベル差を全部、自分の反応で埋めてる」


 ファング・ウルフが最後の力を振り絞り、正面から突進してきた。


 探偵は動かなかった。


 牙が届く直前、半歩だけ身体をずらす。


 短剣の切っ先が、狼の喉へ吸い込まれた。


《クリティカルヒット》

《ファング・ウルフを討伐しました》


 巨体が倒れ、光の粒となって崩れていく。


 遺跡に静けさが戻った。


《レベルアップ 2→3》

《スキルポイントを獲得しました》


《新規スキルが開放されました》


《エアリアル・ステップ》

 空中での回避動作を強化する。


《シャドウムーブ》

 戦闘中の足音を抑え、敵の注意をそらしやすくする。


《獲得アイテム》


《ファング・ウルフの牙》

《狼王の皮》

《100G》


 探偵が落ちた素材を拾っているあいだ、エコーは口を開けたまま動かなかった。


「……本当に初心者か?」


 探偵は牙をインベントリへ収め、振り返った。


「楽しんでるよ」


 先ほどと同じ、どこか嘘くさい笑みだった。

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