2 チュートリアル?
初めての戦闘であっさり死んだ探偵は、再び村の広場に立っていた。
初期装備なし。回復アイテムもなし。モンスターを素手で倒そうとして、群れに囲まれて死亡。
目の前では、エコーが腕を組んで宙に浮いている。
「なあ。自分が何をしたか分かってるか?」
「何がだ」
「チュートリアルを無視して外へ出て、そのまま死んだんだよ。初心者の見本みたいなやられ方だったぞ」
探偵は肩をすくめた。
「それで、どうすれば攻撃できる?」
エコーはしばらく探偵を見つめ、それから大きくうなずいた。
「ようやく聞く気になったか。いいか、このゲームでは武器を装備しないと、まともなダメージは与えられない。インベントリを開いて、装備欄から選ぶ」
「ハンドガンかライフルは?」
エコーの動きが止まった。
何秒かそのまま浮かんだあと、身体が小刻みに震え始める。
「……お前、この世界を見て何とも思わなかったのか?」
木造の家。石畳。遠くで回る風車。
「剣と魔法のファンタジーだぞ。拳銃もライフルもない」
「そうか」
「分かってて聞いただろ」
探偵の口元がわずかに緩む。
「お前な……」
エコーは深いため息をついた。
「初心者向けなら、木の剣か短剣か杖だ。村の店で買えるから、今度こそ何か持て」
「検討しよう」
「検討じゃなくて装備しろ」
*
結局、探偵はエコーに促されるまま、村の武器屋へ向かった。
店先に並んでいたのは、木の剣と短剣。どちらも、いかにも初心者用といった簡素な作りだった。
《木の剣 ATK+2》
《初心者用の短剣 ATK+1/DEX+1》
探偵はしばらく見比べ、両方を購入した。
「二本もいるのか?」
「使ってみないと分からないだろう」
「まあ、それはそうだけど……」
装備画面を開くと、半透明の一覧が目の前に浮かんだ。
《武器:木の剣/短剣》
《頭:なし》
《胴:なし》
《腕:なし》
《足:なし》
《盾:なし》
《指輪:なし》
《腕輪:なし》
ほとんど空欄だった。
「ずいぶん空いてるな」
「当たり前だ。始めたばかりなんだから」
「指輪まで必要なのか?」
「必要になるのはもっと先だよ。今は武器だけ考えろ」
探偵は木の剣を選び、装備欄へ移した。
《木の剣を装備しました》
腰に現れた剣へ手を伸ばし、軽く抜いてみる。
重さはほとんどない。それでも、先ほどの蹴りよりは役に立つらしい。
「これで満足か?」
「どうして俺が無理を言ったみたいになってるんだよ」
探偵は木剣を鞘に戻した。
「まあ、いい」
「よくはないけど、さっきよりはましだ」
エコーは気を取り直すように、広場の中央を指した。
何人かの村人の頭上に、黄色い感嘆符が浮かんでいる。
「次はあのNPCからクエストを受ける。初心者向けだから、簡単な戦闘や金の稼ぎ方を覚えられるし、ポーションも手に入る」
「必要ない」
「何が?」
「次の街へ行く」
エコーはまた固まった。
「今、説明したよな?」
「ああ」
「聞いたうえで、全部飛ばすのか?」
「そうなるな」
探偵は村の出口へ歩き始めた。
「待て。レベル一で、装備は木の剣だけだぞ」
「今度は武器がある」
「そういう問題じゃない!」
エコーが慌てて追いかける。
「せめて一つくらいクエストを受けろ。ポーションだけでももらっていけ!」
「置いていくぞ、エコー」
「だから進むのが早いんだよ!」
探偵は振り返らない。
エコーはしばらくその背中へ文句を言っていたが、やがて諦めたようにため息をつき、隣へ並んだ。
「本当に面倒なプレイヤーだな」
「来ないのかと思った」
「放っておいたら、また五分で死ぬだろ」
そう言いながら、エコーは探偵の歩調に合わせてついてきた。




