4 水の街カルディア
カルディア
探偵とエコーは、次の街へたどり着いた。
街の中央には川が流れ、その両岸に商店や工房が並んでいる。入口近くでは、ひときわ大きな煙突が空へ煙を吐き出していた。
「ここからは、素材の加工と武器の強化ができるようになる」
エコーが煙突のある建物を指す。
「モンスターから手に入れた素材を鍛冶屋へ持ち込めば、武器に新しい効果を付けたり、性能を上げたりできるぞ。まあ、お前は興味なさそうだけど――」
話を聞き終える前に、探偵は鍛冶屋へ向かっていた。
「……聞いてたのか?」
「聞いていた」
店に入ると、探偵はカウンターの上に短剣とファング・ウルフの牙を置いた。
「これを使って強化できるか?」
鍛冶職人は牙を持ち上げ、短剣の刃と見比べた。
「できる。獣相手なら、今より切れ味も増すだろう」
「それで頼む」
職人が短剣を持って、工房の奥へ引っ込んでいく。
やがて、金属を打つ音が店内に響き始めた。
「説明してるときは、ずいぶん退屈そうだったよな」
エコーが探偵の顔をのぞき込む。
「今の武器では、急所に当てなければほとんどダメージが通らない」
「それは武器が悪いというより、お前のレベルが足りなかったんだよ」
「だから補う」
「そういうところだけ妙に現実的だな……」
しばらくして、鍛冶職人が戻ってきた。
差し出された短剣の刃には、牙を思わせる白い筋が走っていた。
《武器加工が完了しました》
《ウルフファング・ナイフ》
《レア度:★★★》
《ATK+6》
《クリティカル率+15%》
《獣種へのダメージ+10%》
探偵はナイフを手に取り、何度か角度を変えて眺めた。軽く振ると、以前よりも手になじむ。
「悪くない」
「興味なさそうにしてたわりには、しっかり選んでるじゃないか」
「必要なものは使う」
「クエストも同じくらい必要だったんだけどな」
探偵はナイフを腰へ戻し、店内の装備を見回した。
*
防具売り場をひと通り眺めたあと、探偵が手に取ったのは一足のブーツだけだった。
《ハイスピード・ブーツ》
《レア度:★★》
《移動速度+10%》
《ダッシュ時のスタミナ消費を軽減》
「それだけか?」
エコーが、探偵の装備画面を見た。
頭、胴、腕。防具欄の大半は、まだ空いたままだ。
「防具は買わないのか?」
「これでいい」
探偵は新しいブーツを履き、つま先で地面を軽く叩いた。
「速いほうが避けやすい」
「お前、ただでさえ回避と急所狙いに偏ってるだろ。少しくらい、防御も考えたらどうだ?」
「当たらなければ問題ない」
「一度当たって、体力を半分近く持っていかれただろ」
「次は避ける」
エコーは何か言い返しかけ、そのまま口を閉じた。
探偵は店の外へ出ると、ブーツの具合を確かめるように数歩走った。急に方向を変えても、足元はほとんどぶれない。
「そういえば」
後ろからついてきたエコーが、探偵の動きを眺めながら言った。
「何か武術でもやってたのか?」
「どうしてそう思う」
「初めてのVRで、あれだけ動けるやつは普通いない。反応が速いだけじゃなくて、身体の使い方を知ってる」
探偵は足を止めた。
「バリツは探偵の基本だ」
「バリツ?」
エコーの動きが止まる。
「シャーロック・ホームズが使ってた、あの?」
「そうだが」
「あれは架空の武術だろ」
探偵は答えず、再び歩き出した。
「おい、今のは冗談なのか? 本気なのか?」
エコーの声を背中で聞きながら、探偵は人通りの多い通りへ進んでいった。




