2 チュートリアル?
【ゲーム内——エコーによるチュートリアル(?)】
——《ネオイロス・オンライン》、初デス後。
探偵は、村の広場に再び立っていた。
ついさっき、初期装備なし・回復アイテムなし・敵に囲まれて即死という華々しい(?)初戦闘を終えたばかり。
目の前では、エコーが空中で腕を組みながら、呆れたように揺れている。
「まったく……なぁ、わかるか?」
「何がだ?」
「お前は今、チュートリアルを無視して初見で死んだ初心者の鏡なんだよ。」
探偵はエコーの話を聞き流しながら、軽く肩をすくめる。
---
【武器を装備しろと言われる】
「それで、どうすればモンスターに攻撃できるようになるんだ?」
エコーは探偵の言葉に「ようやく聞く気になったか」と言わんばかりに大きく頷く。
「はいはい、お待ちかね! じゃあ基本の基本、《武器の装備》について説明するぜ!」
「RPGなんだから、当然、武器を持たないと攻撃できない!」
「装備はインベントリから選んで、装着するだけ! ほら、メニューを開いて、装備欄を——」
探偵は、エコーの説明を遮るように、ひと言。
「ハンドガンかライフルはないのか?」
——エコー、動きが止まる。
一瞬、完全にフリーズしたかのように浮遊し、その後、ジワジワと震え始める。
「……お前なぁ……」
ゆっくりと、両手(?)を広げ、悲しげな目で探偵を見上げる。
「おい、わかってんだろ? このゲーム、剣と魔法のファンタジー世界なんだぜ?」
「ハンドガン? ライフル?? そんなもんねぇよ!!!」
エコーはブワッと怒りのエフェクトをまといながら、探偵の頭上をぐるぐると飛び回る。
「お前、わざと言ってるだろ!? 絶対、わざとだろ!? こっちのツッコミ待ちだろ!!」
探偵は微かに口元を緩めたまま、黙ってエコーを見ている。
「ハンドガンとかライフルとか言い出すヤツ、稀にいるけどな!? みんなゲームを始める前にファンタジー世界って理解してるんだよ!」
「お前、わかっててボケてるんだろ!? おい!? なんとか言えよ!!!」
「そうか、ないのか。」
探偵がわざとらしく頷くと、エコーは深いため息をつく。
「……はぁ、ホントにめんどくせぇ初心者プレイヤーだよ。」
それでも、説明を続ける。
「いいか、初心者用の装備は村のショップで買える。木の剣、初心者用の短剣、杖。とりあえず何か持て。」
「もう一度言うけどな……! 絶対に、ハンドガンとかライフルは出てこないからな!!!」
エコーの全力のツッコミが響く中、探偵は「さて、どうしようか」と思案するのだった。
---
【現在:ゲーム内——探偵、武器を装備】
探偵は、エコーの指摘どおりに、村のショップへ向かった。
店の前で数枚のコインを渡し、初心者用の武器を購入する。
---
《装備品購入》
木の剣(ATK+2)
初心者用の短剣(ATK+1, DEX+1)
---
《装備画面を開きますか?》
探偵は、インターフェースの指示に従い、装備画面を開いた。
---
《ステータス》
武器: 木の剣(装備可) / 短剣(装備可)
頭装備: なし
胴装備: なし
腕装備: なし
足装備: なし
盾: なし
指輪: なし
腕輪: なし
---
……ほぼ全部空欄だった。
「装備欄スカスカだな。」
エコー:「……は?」
探偵はインベントリを確認しながら、つぶやくように言った。
「指輪? とか、装備しなきゃならないのか?」
エコーは頭を抱えた。
「おいおいおい! 指輪は後半にならないと、まともな効果のものは手に入らねぇぞ?」
「お前、今の状態で装備欄がスカスカなのは当たり前だろ!? まだチュートリアル段階なんだからよ!!!」
だが、探偵は軽く肩をすくめる。
「まあ、いいか。」
「よくねぇよ!!!!」
エコーは大きく宙で跳ねながら、全身を使って抗議するが、探偵は完全にスルーする。
---
【村のNPCとの会話を促すエコー】
「よし、次は村のNPCと会話して、クエストを受けようぜ!」
エコーは仕切り直すように、村の中心広場を指す。
そこには「!」アイコンの浮かぶNPCが数人いる。
「初心者向けクエストは、基本の金策と経験値稼ぎのためにも大事だからな! ほら、ポーションをもらえたり、簡単な戦闘チュートリアルも受けられるし……」
だが、探偵は、あっさりと答えた。
「そういうのは、いいから。次の街に行く。」
「……は?」
エコーが、再び硬直する。
「ちょ、ちょっと待て待て待て!? お前、今何て言った!?」
「次の街に行く。」
「ちょ、あのな!? 初心者が最初の村のクエストを全部スルーして次の街に行くとか、普通ありえねぇんだよ!!!」
「置いてくぞ、エコー。」
「だから早いっての!!!」
エコーが必死に抗議する中、探偵は淡々と村の外へと向かう。
彼の中で、「このゲームの遊び方」はすでに決まっているらしい。
「おい! クエストスルーして、次の街に行くとか無謀だって!!! せめてレベル1から2にしてから行け!!」
だが、探偵は振り返らない。
エコーは大きくため息をついた。
「はぁ……ホントにめんどくせぇプレイヤーだな……。」
そうぼやきながらも、彼は探偵のすぐ横にぴたりとついていく。
結局、なんだかんだで、エコーは彼を見捨てることはないのだった。