ep4. 両親の愛
「魔法?ねえ、父さんと母さんは、魔法を使えるの?」
絶好のチャンスとみたエリクは、弱弱しく、けれど計算され尽くしたか細い声を絞り出す。
「まあ、エリク。無理して喋らなくていいのよ。……でも、そうね。母さんは水属性と風属性が使えるわ」
「父さんは、適正はあるんだが、如何せん剣術一辺倒で生きてきたからな。初級魔術程度しか使えん」
「属性があるの?」
「基本は水、風、火、土の四象。派生として、氷や雷もあるわね。エリクは魔法に興味があるのかしら?」
イングリッドが愛情深く教えてくれる。
「うん。だって、魔法おもしろそう!」
無邪気な子供を演じる。
「そう。もしかしたら、将来は大魔術師として歴史に名を刻むかもしれないわね」
彼女は、うふふ、と笑う。
「けれど魔術にはね、才能と勉強が必要なのよ。四歳の春に、適正検査があるわ」
「てきせーけんさ?」
「ええ。この国に生まれた子供はみんな、四歳になると魔法適正があるかの検査を受けるの。母さんもね、その時に水属性と風属性の適正があることがわかったのよ」
「へー」
表面上は普通を装っているが、内心はかなり興奮していた。
(マジマジマジ!?僕、絶対すごい結果が出そうじゃん!何せ、あの神様(?)も次はイージーモードって言っていたし!キャー、一躍時の人になったらどうしよう!インタビューとか来ちゃったらどうしよう!)
「そ、そうなんだ。僕にも、あるかな?」
「どうかしらね?魔法適正がない人も、たくさんいるのよ。あったらいい、というものでもないわ。気負わず、その時を楽しみにしておきましょう」
母なりに、気を遣ってくれたのだと思う。
いざ無能の烙印を押されても、落胆しないように。
杞憂だ、と思った。
何故なら、エリクには自信があったからだ。
「そうだぞ、エリク!何も魔法が人生のすべてじゃないからな!剣術だって魔法に劣らず強いしカッコいいんだぞ!」
父親がここぞとばかりに筋肉をアピールしてくる。
まったく、いい両親に恵まれたものだ。
そうか、これだけでもう、イージーモードじゃないか。
両親の優しさを痛感し、胸の中が安堵でいっぱいになる。
「そうだね。剣、かっこいいよ」
「お!そうだろう?よし、今度の休日に、剣を握らせてやろう!」
(えぇ!?この流れは予想外だぞ!でも、父親のこの満面の笑みを見て、ノーを突きつけるほど無情にはなれないよなあ)
つまらぬお世辞を言ってしまったがゆえに、興味のない剣術を教わる羽目になってしまったエリクであった。
────
数ヶ月に及ぶ魔法検証をして、わかったこと。
その壱。
どうやら「MP最大値」という概念が存在し、魔力値が底を尽きる度にその最大値が伸びているということ。
毎日欠かさず魔枯れを起こす──もちろん、就寝前に調整していたのだが──ことで判明した。
ほんの少しずつだが、時間停止できる秒数が増えていたのだ。
ちなみに、最初は三秒くらいだった。
今は、九秒くらい止められるようになっている。
わかったことその弐。
MP値は、寝れば回復するということ。
午前中に、最大値の半分ほどを使い、就寝前にもう一度使ってみたところ、残りの半分の秒数しか使えなかったことから判明した。
わかったことその参。
これに関しては、わからなかったこと、というべきかもしれない。
母に教えてもらった属性魔法は、独学では一切発動できなかった。
「ファイヤー」や「ウォーターショット」といった、いかにもありそうな技名を叫びながら魔法をイメージしてみても、まったく反応がない。
才能の他にも、勉強が必要だという母の言葉は、どうやら真実だったらしい。
もちろん。
魔法の検証と並行して、週一回の剣術指南も受けている。
講師は父のオラフだ。
最初は嫌々だったものの、やってみれば案外、それは苦行ではなく遊戯に近かった。
オラフのほうも、英才教育を施すというよりは、子供のちゃんばらごっこに付き合うように振る舞ってくれたのが、功を奏したと言える。
休日に父親と遊ぶのなんて、一体、何年ぶりだろうか。
そんな、吐き気を催すほどに甘酸っぱい感傷に浸りながら、幸せを享受する。
そう。
「幸せ」なんて代物は、享受できるうちにしておいたほうがいいのだから。
何故なら、幸せは貯金できないからだ。
手にしている瞬間にだけ価値が生まれる、極めて鮮度の短い生鮮食品のようなもの。
そして何より。
その賞味期限がいつ切れるのか、明日なのかあるいは一秒後なのか、それを知る由は僕らにはないのだから。




