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彩りの天弓魔女  作者: 板雪みゆ
目覚め編

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第6話『ベルと母親』

 私は自分の母親と思われる人物と共に、一階の部屋に降(お)り、どこか懐(なつ)かしいような暖(あたた)かいこの家の温(ぬく)もりを感じていた。


 鼻先には、お日様をたくさん浴(あ)びた植物のような香りもした。

 けれど、明確に私が来た世界とは違う事を見つける。


 テレビやエアコンといった、家電機器がないのだ。

 目先に、大きな箒(ほうき)と、おそらく魔法用(?)の杖(つえ)が 部屋の壁の中央に何本か立て掛(か)けられているのが見えた。

 

 そして、壁に嵌(は)められている、美しい宝石が散りばめられた装飾(そうしょく)の鏡(かがみ)に映(うつ)った自分の姿を見た私は、自分の容姿に驚いた。


 私の髪は全体的に、淡(あわ)い桃色(ももいろ)で瞳の色はまるで夏のラムネのような涼(すず)しげな水色だった。


これが…私…?


 自分で言うのもなんだけど、この容姿はとても目を引く程、美しく感じた。


 この状況すら忘れそうになるほど驚いていたその時、ふと、部屋の壁にいくつか飾(かざ)られている一つの写真が目に入った。


 その内の一つの写真の真ん中には、にこにこと笑っている幼い女の子と、綺麗な女性が一人、写っていた。



(この写真に写っているのってもしかして…ベル…?それと…。)



 写真に写るその人物と私の目の前に居る美しい女性はよく似ていた。

 その女性の横には「thread(スレッド)」と書かれていた。

 それはあまり綺麗とはいえない、字を覚えたての子供が書いたような文字だった。

 

 私が写真を凝視(ぎょうし)していた時、私をモーニングマジックなるもので起こした彼女は、朝食を用意してくれていた。


 少し年季の入った3人掛けのダイニングテーブルの椅子(いす)に座っていた私は、落ち着かない状況の中、まずは目の前の彼女のことを知りたくて、少し緊張をしながら問いかける。



「えっと…その…お、お母さん…?」



「!!」



 私に呼ばれた彼女は、かき混ぜていたスープを作る手を、一度だけ止めた。

 そして振り向き、こう言った。



「なぁに〜?ベルちゃん?いつもはママって呼んでるのに…!急にどうしたのっ?」



 彼女は微笑(ほほえ)んでから、再び、スープを作る手に戻った。

 そして焼き立てのレーズン入りのパンとトマトスープを朝食に出してくれた。 



「ベルちゃんっ、温かい内に頂きましょう!さぁ、召し上がれ~。」



「い、いただきます…。」



 こんな時なのに、いつもよりお腹が空いていた私は、少し遠慮がちにではあるが、ありがたく朝食を頂(いただ)くことにした。

 初めて食べた味のはずなのに、一口食べてすぐに、大好きな味だと感じた。


 美味しさを噛みしめると同時に、私はこれからどうやって生きていけばいいのかを考えていた。

 右も左も上すら下すら、何も分からないこの世界で…。

 難しい表情をしている私のことを気にかけてくれたのか、彼女は私に尋(たず)ねてきた。



「ベルちゃん、何か悩んでるの?眉(まゆ)が上がったり下がったり、なんだか落ち着かなくみえるわ。」



 彼女は、私を元気づけようとしてくれているようで自身の眉に手を当てて、少しお茶目(ちゃめ)に動かして見せた。



(…いっそのこと、今の私(・)の事を打ち明けてしまった方が良いのでは?)

 


 私の中に、そんな一つの考えが浮かぶ。



 このまま、偽っていてよいのだろうか。

彼女はきっと私を本当の娘だと信じているだろう。

 優しく接してくれる彼女を騙(だま)しているような気がして、なんだか心地悪くて。



 悩み、考えたのは一瞬だった。

 私は決意して口を開く。



「あ、あの、お、お母さん!」




 なにやらいつもとは違う私の雰囲気を読み取ったのか、彼女は私の顔から目を逸らすことなく、その優しい顔で、話を聞く姿勢を取ってくれた。



「わ、私ね…その…うまく伝わるか分からないけど、ついさっき、この世界に来たばかりで…。見た目は同じかもしれないけれど、あなたの…娘じゃないん…です…!」



 彼女にとっては【娘(むすめ)】の、思いもよらない告白だっただろうに、彼女は少しだけ目を見開いたが、落ち着いて私に声を掛けてくれた。


「ふむふむ……。言われてみれば、ベルちゃん、いつもより緊張しているように見えたのはそういうことだったのね…。打ち明けてくれてありがとう。でも…。」



 彼女は、私に優しく言葉を続けてくれた。



「でも、あなたは私の、たった一人の愛娘(まなむすめ)よ。それは何があっても変わらないし、分かるわ。」



 そう告げてくれた彼女の言葉に、私の心は、一つの火が灯(とも)されるように、暖かくなるのだった。


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