第27話『フレアの秘密』
-王立クレアスカイ魔法学園2階〈寮エリア〉peace,ベルの自室にて-
空の色は、すっかりと茜色に染まっていた。
「…俺、こんなに疲れたのは初めてだぜ…これが学生というやつなのか…。」
目の前でかなりリラックスした様子の相手は、私を主と呼ぶ青年…フレアだ。
今日から魔法学授業が本格的に始まった。
担任のサリエ先生を含め、クラスの皆は、とても優しくて温かい人達で私は内心、かなりほっとしていた。
「…主…は…なんにも疲れてなさそうだな…。」
「えっ…!」
「いや、めっちゃ顔がにまーっとゆるんでたぞ。こんな感じで。」
すると彼は、私の真似だといって、大袈裟に顔をゆるませた。
「ぷはっ…!わ、私そんな顔してたの…!?」
「あぁ、こんな感じだ。ほら。」
「あははっ!!ちょ、ちょっとさっきと表情違うんだけど…!さっきよりゆるんでるよ!?」
ーーーーーーーー
フレアと他愛もない会話をしながら、彼は「本題なんだが…。」と切り出した。
部屋の空気が少しだけひんやりとした気がした。
「まずは…ありがとう。朝、俺を助けてくれたの主だろ。」
「…いえいえ!…えっとね…たしかあの時、フレアの様子がおかしくなった気がしたけど…正直その時の事あまり覚えてなくて…。本当に私が助けたのかな…。」
「…あぁ。俺を助けてくれたのは間違いなく主だ。この魔力は主しかいない。…確認したい事があるんだが、主…少し近付いてもいいか?」
「え…!はっ、はい!」
なぜか敬語になってしまった私に近付き、彼は私を優しく抱きしめた。
「フ…フレア!?」
「……やっぱりか。」
仮にも彼は男の子だ。私は緊張してしまう。しかし、フレアの様子は至って冷静で、私は彼との温度差を感じた。
(もしかして、教室でいきなり抱きしめてきた時も彼は私から何か確認しようとしていたのかな…?)
彼は何かを確信したようで、私から手を離すと口を開いた。
「俺が口走ったばかりに…悪い…どうやら記憶の封印をされた。しかし…一体誰だ。この力は…分からねえな…くそっ。」
「記憶の封印…?」
「ああ…本来主にあるはずの記憶が強制的に思い出せないようにかけられた強力な封印だ。すまねぇな…俺はアトリアに会えたのがどうやら思った以上に嬉しかったらしい。余計な事を言っちまった。」
「…あの!フレア…その…お願いがあるのだけど…。」
「ぁあ、何だ?」
「少し空のお散歩しない?」
「??」
本当は、フレアに私自身の事をたくさん聞きたい。アトリアの事も…。彼は昔から何か知っている様子だ。
けれど、彼は口止めの契約に縛られている。おそらくそれは難しいだろう。
ならば少しずつでいいから、自分と周りの人の事を思い出せる手がかりを、何気ない会話や行動から、掴めないだろうか?
私はもっと、知りたい。
まずは、目の前のあなたの事から。
ーーーーーーーーーー
「フレア!私、箒で空を飛ぶね!…よいしょっと…!」
「おい主…いきなりどうしたんだ?」
学園内の一階に位置するこの大きな庭に、私とフレアはやって来た。
茜色だった空は、静かな藍色の顔を見せ始めていた。
空間魔法で自分の箒を取り出した私は、箒に乗り、フレアに声をかける。
「フレアも自由に飛ぼう~わぁあ~高いと~気持ちいいね~!!」
「主ーー!そんな高い所までっ!!」
完全に私の直感だった。
けれど、どうやら当たっていたらしい。
「…やっぱ主には適わないな。気付いてたのか、俺の正体に。」
「まさか!フレアの口から言えないなら、あくまで言ったようにならずに、秘密を暴いていこうと思っただけだよ!」
「ふっ、主、意外と怖ぇな…と言いたいところだが、そんな可愛い顔して言われてもなんも怖くねぇな。」
「嬉しい…!!と素直に言います!ありがとう!!怖くない方が嬉しいので!」
「ふははっ!主、素直すぎだろ。」
雲まで届きそうな高い空の上で私の横で飛ぶあなたの姿は、漆黒の大きな翼を持つ美しい赤い瞳のドラゴンだった。
そして、このドラゴンと出会うのは初めましてではなかった。
「フレア…あの日空から落ちた私を助けてくれて本当にありがとう。まさかあの時のドラゴンがあなただったなんて…また会えて嬉しい。」
「…ふっ、なんの事だ…?俺は知らんぞ。有り得ない高さから落ちていく主人の姿なんて。」
「ははっ…フレアは素直じゃないなぁ。」
天空に飛ぶ私達の間にはたしかに固く結ばれた絆の糸があった。




