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尊法 十七

「ま、びっくりされるんでね、普段は隠してたんだけど」

「っていうか、隠せるんだ、それ」

「隠せるから、おふくろの種族は数多あまたの人間どもをたぶらかせたんだろ」

「違いない」

 けたけたと、龍玉はからりと笑い。琴羽も同じく笑った。あらぬ緊張はほどけた。しかし、それに水を差すように、

「おおおぉぉぉーー」

 と、またあの獣の遠吠えがした。

「腹から笑えるのは、まだおあずけみたいだよ」

 瞬時に気持ちを切り替えて、おのおの得物を構え直す。これはいったいなんの声なのだろう。

 と思えば、にわかに霧がたちこめてくる。そうかと思えば、空から何かが降ってきて、どしんどしんと地響きさせて着地する。

おに!」

 貴志は思わず叫んだ。人海の国での記憶が蘇る。この帷国の世界と人海の国の世界はつながっているのか。それも尋常ならざる方法で。

 なるほどそれらを呼ぶ妖気があって、それが龍玉の正体を露わにさせたのだろう。

 天から落ちたそれは人というにはあまりにも人離れした容貌であった。数は四。大人の男の倍の背丈、腰に虎皮を巻き素肌をさらけだして、筋骨隆々とした体躯に、肌の色は真っ赤で。頭からは角が生えている。その太い手には、大きな鋼の金砕棒。

「我ら第六天魔王により導かれし鬼の四天王なり! 第六天魔王の命により、うぬらを成敗してくれん!」

「第六天魔王!?」

 貴志たちは驚きの声を上げてしまった。

「鬼、だって? なんだいこのけったいなやつらは!」

「事情を細かく話している暇はありません、とにかく今は闘わねば!」

 琴羽の驚きの声に貴志はそう応える。その通り、細かい話をする暇はなく。

「上等だ、やってやるよ!」

「私たちもみすみすやられはしません!」

 龍玉と虎碧は得物を構えて鬼どもに向かい駆け、渡り合う。ぶうんと唸って迫る金砕棒を身軽にかわし、龍玉は青龍刀を、虎碧は剣を揮い、刃をひらめかせる。

「僕も!」

 貴志も駆け、六尺棒を振るい鬼と渡り合う。しかしそれでも三対四。数にやや不利。

 琴羽はいつもの闊達さは陰をひそめ、呆然と立ち尽くしてしまっている。他の義勇軍の兵も思わずそうなっていた。

 北岸の大火はいまだ衰えず、夜闇の中を業火で照らす。

 それから、はっとして気を持ち直せば。

「わああ——」

 と悲鳴が響く。

 なんと、義勇軍の兵は雪崩を打って砦の方面へと逃げ出したではないか。馬もである。勇敢さを以って鳴らし、戦に勝ったばかりだというのに、これはどうしたことか!

「おい、逃げるな! いくら化け物でも、一気に攻めかかれば……」

「がはは、無駄だ!」

 慌てて止めようとする琴羽を鬼はあざけった。貴志と龍玉、虎碧と渡り合いながら。

「第六天魔王降臨するならば、己心にも第六天魔王生じ、第六天魔王の命ずるがまま!」

「な、なにをわけのわかんねえことを!」

 琴羽は勇を鼓して槍を構えた。しかし、それが精一杯で、それ以上身体を動かせなかった。

 その間にも、四本の金砕棒が風を切り、それをかわしながら六尺棒、青龍刀、剣も振るわれる。

 戦いは互角というには、鬼寄りすぎた。貴志も龍玉も虎碧もよく闘うが、四本の金砕棒を交わすのことが多く、攻めに転じる機会をつかみそびれていた。

「ああ、くそ、どうしちゃったんだ!」

 北岸の大火、それを反射する河面、風に揺れ白波起つ河を背に、琴羽は動くに動けない状態だった。そうかと思えば、空で、鋭い猛禽類の鳴き声がし、ようやく上を向けば。

 あの穆蘭の大鵰が空を飛んでいる。もう用はなく、土塁で休んでいるはずだが。だが見れば、もうひとつ、なにかが大鵰とともに飛んでいる。それは、人に翼が生えたような何かだった。

 穆蘭は青い珠の七星剣を振るい、大鵰の背にて渡り合っていた。

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