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尊法 十四

「それだけ恐れられているということでしょうね。あの時、皆さん本当に奮闘されましたし」

「必死の思いで手柄を立てたら、次は怖がられるなんて、ねえ。やってられないわ」

 琴羽はもちろんこの事の成り行きに納得せず憮然とする。

 というときに、使者が来て。空堀、土塁越しに矢文を放ってきたと。その文つきの矢を兵が持ってきた。

 どれどれと読んでみれば……、攻め込んだことへの詫びの文であった。

 これは慶子義に命令されてのことで、自分としては気が進まなかった。たとえ勝っても、琴羽たちの命を取るつもりはなかった。しかしこの不義の行い、天の怒りを招き、大鵰に乗る天女に攪乱されて、己の愚かさを悟り。また、南景を治めるの任を負うに能わず。郷里に帰ることにした。

 といったことが書かれていた。さらに、もし琴羽たちが郷里に帰ることになれば、償いも含めて、厚く遇することを約束するとも認められていた。

「え、記堂栄殿、帰ったんだ」

 かえって呆気に取られる話だった。功を焦り先走った記堂栄は、突如現れた穆蘭と大鵰に非常に驚き、これを天の怒りととらえて、恐れおののいてしまったのだ。

「まったく、このたわけが!」

 詫びの文を読んで、琴羽は再び怒りを覚えた。無理もない話である。といっても、策かもしれず。斥候を放つことを決めた一方で。

 しぶしぶ返事を書いた。この文のこと忘れるべからず、もしまた不義あらば、天に代わって仕置きせん、と。これを兵に持たせて、まだ使者がいれば渡して。いなければ捨てろと、手渡した。

 はたして、使者は返事を待っていて、琴羽の文を渡せば。一礼して遠ざかってゆく。その姿が見えなくなってから、南景に物見のために赴いた。

「外の空気吸ってくる」

 と、琴羽は気晴らしに外に出て。他の面々は、それぞれあてがわれた部屋に戻った。穆蘭は貴志と同じ部屋がいいと思ったが。女たちと同じ部屋にいるようにと、貴志に言われた。

 土塁の上には、あの大鵰が静かにたたずんでいる。よく調教されているものだ。砦の兵は、この大鵰を、守護神であるかのように、ありがたがって飽きずに見上げていた。

 最初こそ驚いたが、この大鵰のおかげで助かったのだ。まさに天のつかわせし守護神である。

「ふう」

 しばらくは静かにくつろげるだろう。琴羽は深呼吸した。

「……あれ?」

 何か違和感を感じた。

「風が……」

 北から吹いていた風だったが、今は南から吹いてはいないか。南の山を見れば、雲が厚く山の上にかぶさっている。

「あああ……!」

 北からの風は、南の山を駆け上り。雲をつくり。その雲が風を、南の山から吹き下ろす風を吹かせていた。

「火だ!」

 琴羽は叫んだ。

「火だ、火だ! 東景の軍勢を火攻めにするんだ!」

 その叫びに、何事かと兵たちは驚き琴羽のもとに集った。

「そうだ、穆蘭ちゃんを呼べ!」

 兵に命じ穆蘭を呼びに行かせた。その間、琴羽は風の話をした。確かに風向きが変わったと兵たちも感じた。それと、備蓄している、大人の男の胸元まである大きさの、油の入った大甕おおがめのことも話した。一個だけではない、十個は揃えて、備蓄していた。

 呼ばれて穆蘭が来た。貴志たち一同も一緒だった。

 琴羽は自分の考えを述べれば。穆蘭と貴志も、賛同の意を示した。

「油の甕を構えました!」 

 命を受けて、油の入った大甕が運ばれてきた。穆蘭は頷き、土塁の上に飛びあがり、さらに大鵰の背に乗れば。

 大鵰は羽ばたき、宙に浮かび。両のあしゆびで油入り大甕を掴んで、羽ばたいて、空高く上昇した。

 同時に、まだ明るい時刻ながら松明も多数用意され、火がつけられた。火矢用の矢も多く用意された。

 荷車には多くの藁束を積んだ。

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