尊法 十三
琴羽はおかしみとふたりへの親しみを覚えながら笑顔で頷いた。
降下するにつれ、その背に乗る者も見えた。ふたり乗っている。穆蘭と貴志だ。
大鵰は砦の空堀のそばで着地し、同時にふたりはひらりと身軽に着地する。
「お兄さまをお連れしたわ!」
「おおー、ありがとう穆蘭ちゃーん!」
琴羽はもうすでにかなり仲良くなっていて、親しげな笑顔を向けた。
門が開かれて、ふたりは砦に入った。琴羽と龍玉、虎碧は土塁から降り、ふたりを出迎える。大鵰は、少し跳躍して、土塁の上に止まった。
砦の様子を見て、貴志は攻められたというのが本当だと実感した。幸い土塁や中の兵舎、馬屋は被害がないが、怪我人は散見される。
「まあ攻め込まれてすぐに、この鳥ちゃんが来てくれて、助かったけどさ。本当に驚いたよ。うちらが新しいやり方をよく思ってないのが知られて、とっちめてやろうってことだね」
琴羽は肩をすくめる仕草を見せる。最悪の事態にならなかったのが不幸中の幸いだったが。
話しながら兵舎の、大将部屋にゆく。そこには羅彩女、マリーとコヒョ、リオンもいた。貴志を見るや、マリーとコヒョ、リオンは目を潤ませて駆け寄ってきて。羅彩女は安堵の色を浮かべて、おかえりと言った。
羅彩女はマリーとコヒョ、リオンの護衛として付き添っていたのだ。
穆蘭はそれを少し離れて、静かな眼差しで見る。
「ただいま帰りました。無事でよかったです」
「怖かったけど、穆蘭さんのおかげで助かったよ」
「ほんと、ほんと、記堂栄のおじさん、いきなり攻め込んでくるんだもん。びっくりしたよねえ」
コヒョとリオンが貴志にそう告げる。
「本当に、無事でよかった……」
貴志はこの三人の無事を心から安堵した。
「それで、戦いのさなかに何か言ってませんでした?」
と琴羽に問えば。
「そうだね。恩を着せ、その内実怨となす不逞の輩を成敗せん、とか言っていたね」
と言う。
「まあ要するに、表面上味方をしても、ほんとは下心があるんじゃね? って疑って攻め込んできた、ってことだね」
「下心なんて」
「疑心暗鬼を生ずって言うじゃん。生じた暗鬼に、ありもしない下心の幻を見せられたんだろうね。ああ、やだやだ」
そう応えたのは羅彩女だった。
源龍が、どっちにしても死ねと言われる、と話していたのを思い出した。
政変によって人の世が変わると期待されたものの、表面上のお題目だけが変わり、実情は結局変わらない。
人の世の歴史で何度繰り返されてきたことであろうか。
さて、南景の軍勢はともかく、東景の軍勢は今、河の北岸にある。東景の軍勢が渡河すれば、南景の軍勢は再び打って出て合流して、攻め寄せてくるであろう。
そして、景都の香澄と源龍。今頃どうしているであろうか、これも気になることだった。が、あのふたりなら、いかなる危機も乗り越えるだろうと。とりあえず、今は砦の面々でいかに戦うかということに集中することになった。
とりあえず、穆蘭と大鵰で寄せ手を空から攪乱しつつ、砦の門を固く閉ざして、この大将の部屋にマリーとコヒョ、リオンを置き、羅彩女を護衛に着けて。
琴羽と貴志、龍玉に虎碧らが主に戦う、という手筈になったものの。籠城は救援が来るのを前提とした戦法である。砦の救援の当てはない。
(どうしよう。僕らだけでも逃げようと思えば逃げられるけれど……)
上空に船を浮かべて待機させてある。その船を降ろし、仲間たちと逃げる、という選択肢もあるにはあるが。琴羽たちを見捨てることになってしまう。それを貴志らはよしとしないだろう。
「しかしまあ、砦の兵五百ぽっち相手に、南景と東景のを合わせた軍勢で攻めるなんて。おとなげないもんだね」




