表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/99

尊法 十二

 ともあれ、何事であろうか。そして、どのようにしてこの世界に来たのであろうか。

「私、あれから(第一部の第四章の八参照)幻夢の狭間をさまよって、少し前にこの帷国にやっと出られたんですの」

「幻夢の狭間……。そ、それは大変だったね……」

「でも帷国では、お兄さまたちはとても有名になられてて。聞かなくてもどこにいるかわかるくらい。そこで、鬼門の砦が攻められているのを知って」

「なんだって!」

「でも大丈夫、この大鵰で少し脅かしたら、敵兵はみんな逃げ出しちゃって。琴羽さん、でしたっけ。とても感謝されて」

「そ、そんなことに……」

「聞けば、景都に赴いたと聞いて、私もと駆け付けた次第でございます」

「そうだったのか。でも、よく見つけられたね」

「それは、もう。無人の馬を二頭連れていれば、いやでも目立つものですから」

 幸い、今の時点で、周囲に人はいない。もしいたら、この大鵰で大騒ぎだ。いや、南景や他の七つの砦では、大鵰や穆蘭のことで大騒ぎになっているであろう。

「ともあれ、急がなければ。大鵰に僕も乗せてもらえるかい?」

「それは、もちろん!」

 穆蘭は喜色を浮かべて貴志の手を引いて、ひらりと大鵰の背にふたり乗った。彼女は、かつて貴志にただならぬ気持ちを抱いていたのだが。彼の真意を知り、義理の妹になった気持ちで、貴志を兄と慕うにとどめていた。

 そんな兄と慕う貴志に頼られるのは、嬉しかった。

 ともあれ、大鵰はふたりを乗せて羽ばたき、鬼門の砦目指して飛び立った。馬はかわいそうだが置き去りだ。良い人に拾われることを祈るばかりである。

 大鵰は風に乗る。

「景都に行くときは向かい風でしたけれど、今は追い風で、鵰ちゃんも飛びやすそうです」

「うん……」

 貴志は頷く。

「そうそうお兄さま、お迎えにゆく途中に見たのですけれど、河の北岸に兵が集まっていました」

「兵、軍勢が?」

「はい。河の北岸に集まり、渡河の支度をしていました」

 その通り、河が見え出すとともに、数千はあろうかという軍勢が河の北岸に集まり、渡河の支度をしていた。

「……!」

 貴志は言葉もなかった。昨日北岸に渡ったときにはなかった。入れ違いとなったのであろう。

「君が来ないまま河の北岸に着いてたら……」

 ただでは済まなかったろう。ご都合主義的でどんな成り行きであろうとも、幸運に感謝せざるを得なかった。

「東景ってところから派遣された軍勢のようです」

「東景から……」

「あの時、南景の兵を生け捕って話を聞いたんです。南景と東景の軍勢を以って鬼門の砦を攻め破ると」

記堂栄きどうえい殿は、功を焦って先走ったのかな」

「どうもそうみたいです」

「……」

 貴志は考えた。記堂栄も地元に帰らず、景都に赴いた慶子義に代わって南景を治めていたのだが。出頭せよとの命令が来て、景都に赴くのと入れ違いに攻め込まれたということは。源龍と貴志を砦から引き離す意図があったということだ。

 これには慶子義も関与している。彼の発案によるものとも考えられた。

 南景や八つの砦に、南の山々が見下ろせる。山の上に覆いかぶさる雲は、前よりも厚みを増しているように思えた。


・・・


 大鵰は下降をはじめる。視線の先には、鬼門の砦。

「穆蘭ちゃんのお帰りだよ!」

 土塁の上に立っていた琴羽きんぱが、降下する大鵰を見て、砦内に伝える。

 琴羽を挟んで、龍玉りゅうぎょく虎碧こへき

 この三名も、砦の兵たちも、服や鎧が汚れて。怪我をしている者もあったが、死人もあって、これは外に埋めてきた。悔しさと仇討ちの気持ちをを込めて。

「お兄さまっこのお帰りだ。お兄さまは見つかったのかねえ」

「龍お姉さん、そんな棘のある言い方しなくても」

 龍玉の軽口に虎碧は苦笑しつつたしなめる。このふたりはいつもこんな調子だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ