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尊法 十一

「もう仕事どころではない」

 香澄と源龍に着いてきていた門番の守備兵も、火の広がる様を見てどこぞへと逃げ出す。

「どうする、私たちも逃げる?」

 香澄は源龍に問うが。

「冗談だろ?」

 驚きを払い不敵に笑う源龍。

慶子義あいつの頭を叩き割るのにいい日よりじゃねえか!」

 源龍はだっと駆け出し、香澄もうんと頷いて続く。という時に、

 わっ、とにわかに鬨の声が鳴り響いた。

 何事と駆け足を止めれば、武装した兵が各所から飛び出し、守備兵を刃にかけてゆく。

「またなんだ、何が起こったんだ!?」

「もしかして、愛国派の挙兵!」

「そうか、愛国派か!」

 愛国派は完全に活動の息の根を止められたわけではない。龍が淵に潜むがごとく、残党は息をひそめ隠れて、機をうかがっていたのだ。

 まさに、起つは今であるとばかりに、鉄甲の鎧兜を身にまとい、剣や刀、槍や長刀などを携えて挙兵したのであった。

「あいつは慶子義側の、源龍というやつだ!」

 誰か、源龍の顔を知る者が叫んだ。源龍は黒い鎧姿に相棒であり得物の打龍鞭を携えていて、とても目立っていた。さらに、深更ながら黒い旋風のごとくの戦働き、忘れられない強烈な記憶を埋め込まれた者もあったろう。挙兵した者の中に、その時の兵がいたとしてもおかしくはない。

「何ッ!」

「あやつが源龍か!」

「一対一では敵わぬ相手、まとまった人数でかかれ!」

「けっ、しゃらくせえ!」

 愛国派の兵はまとまった人数で源龍に襲い掛かるが、ぶうんと唸る打龍鞭の前では、風の前の塵のごとくに吹き飛ばされるばかりであった。

 香澄にも兵は襲い掛かる。非武装の一般人民には基本襲い掛からないようにしているようではあるが、香澄は愛剣・七星剣を腰に履いている。源龍の仲間の女侠であるとみなされて襲われるのも道理ではあったが。

 これも、巧みな体捌きで攻め手の刃をかわし。鋭い掌打や手刀、蹴りを喰らわせ、ことごとく退けたものだった。

「馬鹿者! そいつらなど相手にするな、まず景都を混乱させることを優先せよ!」

 兵らが香澄と源龍に歯が立たぬのを見た誰かがそう言うと、近くの兵はだっと駆け出し遠ざかってしまった。

「ちったあ頭を使う奴もいるもんだな」

「それならそれで、行きましょう!」

 香澄と源龍は兵火の混乱の中、王宮目指して掛けた。


・・・


 貴志はというと、馬を飛ばし、まず渡河のための河港を目指した。

 はるか上空では、くまたからしき大型猛禽類が翼を広げ、風に乗り、弧を描いて空を泳いでいた。

 その猛禽類は、やたらと鋭い鳴き声を空から響かせていた。

 何か異変でも警告するかのように。

 嫌な予感がする、急ごうと、無茶をさせると哀れに思いつつ、馬を飛ばした。

 すると、上空にいた猛禽類が急降下してきた。 

 鋭い鳴き声を響かせる

(……まさかッ!)

 貴志は猛禽類の鳴き声を耳にして空を見上げれば……。

「あ、やっぱり!」

 思わず苦笑する。

 急降下する猛禽類、とても大きい、大人の男三人分はあろうかというほど。さらに、その背には誰かが乗っている。見れば、青い服を着た可憐な少女である。

穆蘭ぼくらん、いたのか!」

「はい、お兄さま!」

 馬を止め、大鵰おおくまたかを見上げる。他の二頭は、大鵰に驚いて、明後日の方向へ逃げ出してしまった。

 かわいそうな気もするが、いい馬である、運が良ければ放浪の馬として人に拾われ世話してもらえるだろう。と無理くり考えて言って聞かせる。

 大鵰は着地し、穆蘭はひらりと身軽な動作で飛び降りて。愛嬌のある笑顔を向ける。

 穆蘭は香澄と瓜二つなうえ、貴志が書いた武侠小説・鋼鉄姑娘こうてつこじょうの主人公の実体化であった。得物の愛剣は青い珠の七星剣。

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