尊法 九
「慶子義殿に異を唱え、悩める民草のために起つ! と不穏分子を巻き込んで、反乱を企てるかも」
「そうか、愛国派の残党か」
こういう物騒なことに関しては、源龍も察しがよかった。
「どのくらいの規模かはわからないけれど。何かは起こるだろうね」
「慶子義殿はその気配を感じ取れるかどうか。ともあれ、反乱の危険のある状況を生み出すまでに、理想を追うその心境はいかに」
「人の世を創造する神仙のごとく、といっても差し支えないね」
「人を脱し、神仙を目指すその心の中に、本当にあるのは……」
なにやら哲学や宗教の問答のようになってきたが。香澄と貴志の問答に、一同は注視する。
「ありていに言えば、独善だね。魔が差すというか、独善の心というのは、己心のあらぬ気持に付け込まれた感じというか」
自分で自分に付け込まれるなどと、ますます哲学的な話になってきたが。ことはもちろんそんな問答で解決するようなことではない。
まずは行動である。
香澄と源龍、貴志は早速、景都行きの支度をした。武具も携える。
「我々には一切の後ろめたさはない、という意思表示も大事だ。だから変に遠慮せず、武具を持って行ってもいいだろう」
「お、そうこなくっちゃな」
貴志の考えに源龍は珍しく好意的に頷く。
ややあって、三人は貸し与えられた馬に乗って。景都に赴いた。
翌日には城門に着き、守備兵に事の次第を伝えれば。
「しばし待たれよ」
と、詰所にて待機させられたが。しらばくして、
「李貴志殿の件も聞き及んでいるが、これに関して咎は犯人やよからぬ振る舞いをした役人にある。ゆえに貴志殿は出頭の必要なく。源龍殿のみ出頭せよとのことである」
それを聞いて、貴志はどうにか謁見の機会を与えられないか問うたが。
「いかに謁見を求められようとも、多忙のため叶わぬと仰られておったとのこと。ここは潔く諦めて、また後日になされよ」
「ううむ。わかりました。ただ、この女性が付き添うことはお許し願いたい。源龍が不逞を働くことを諫められる数少ない人なので」
「おいこら、どさくさ紛れに人を聞かん坊の餓鬼みたいに言うんじゃねえよ」
もちろん源龍、少し怒った。
「この女性は、姉か何かか」
「はい、姉のようなものです」
「ちょっと待て、いつからオレはお前らの弟になったんだよ」
「乱暴を働こうものなら、この香澄、必ずや叱りますから。どうか、付き添いをお許しください」
香澄はうやうやしく頭を下げた。その様子を見て、門番の守備兵も快く頷き。
「よかろう」
と、香澄が源龍に付き添うことを許した。
貴志とはここでお別れである。
「武具はここであずかろう」
と門番が言おうとすると、源龍はもちろん、香澄も鋭い眼差しを向ける。
(ぎく)
と門番の守備兵たちは、なにか怖気を禁じえず。石のように固まってしまった。
「それじゃあ、僕は帰るよ」
「ええ、気を付けてね」
「おう。こいつでやつの頭を……」
言葉の途中で、香澄の手が源龍の口を塞いだ。ついでにつま先で源龍の足首を軽く蹴った。源龍の顔が少し歪み、片眼を瞑る。
「まあ、怖い気持ちをそんな戯言でごまかそうだなんて。だからあなたはまだ子供なのよ」
ほほほと、笑ってごまかしながら源龍を諫める。
「うっせえな、そこまで餓鬼じゃねえ」
「それならおとなしく聞き分けなさいな」
と言いながら、香澄は源龍の服でその口を塞いだ掌をぬぐう。
「……。へい、へい」
源龍もさすがに言葉を慎むようになった。それを見て門番の守備兵たちは、なるほど香澄が付き添った方がよいと思った。
なにより、ふたりからただならぬ殺気を感じ。強く武具を預かると言い切れなかった。ただ、馬も連れて帰れとは、どうにか言った。武具に加え馬にも乗ることまで許すことは出来なかった。それがせめてもの門番の矜持だった。




