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尊法 八

 マリーとコヒョ、リオンは顔を青白くして、言葉もなく沈黙するのみ。

「貴志、疲れたのなら、休んでいいわよ」

 香澄が気遣い言う。源龍への出頭要請を貴志に相談しようと思ったのだが、それどころではない。少なくとも一晩はゆっくり休ませた方がいいと、香澄は思ったし。他の面々も同じだった。

「うん、ごめんよ」

 貴志は部屋を出て、自分にあてがわれた部屋に戻って。倒れ込むように寝台に横になる。

「来い、ってんなら、来てやろうじゃねえか。打龍鞭であいつの頭を叩き割ってやる」

 源龍は、どん、と円卓を拳で叩きながら言う。相変わらず威勢がいい。

 それを、まあまあと琴羽がなだめる。

「でもよ、断ったら、攻めてくるんじゃねえか? 結局あいつは面子を潰されたんだからな、やるしかねえってなるだろうよ」

「それは想像に難くないけど。戦になったら、絶対に負けるよ」

 慶子義は陰陽君の後見人となって、実質上帷国の政を司り、実権を掌握していた。動かせる軍勢も、この前と同じように十万はいくだろう。

「この前は、前王からして、あれだ、頭がよくなかったから、上手く策に乗せられたけど。慶子義は兵法も心得ている。生中なまなかなことでは太刀打ちできないだろう」

 琴羽は難しい顔して言う。その通り、さきの戦の勝因のひとつは、相手方がこちらをなめて、兵法もおろそかだったからだった。

「香澄はどう思うんだ? お前も考えるのは得意だろう」

 源龍は香澄に振るも。

「私は兵法は疎いから……」

 と言うのみである。源龍はつまらなさそうに、

「なんだよ」

 と吐き捨てる。

「うーん」

 琴羽は、何か考えて、その考えを、試しに述べてみた。

「とりあえず、謝ろう。謝罪をすれば許すって書いてるんだし」

「なんだよ、つまんねーな」

「ただ、ひとりで行かず、貴志殿と一緒に。どうせ貴志殿も呼びつけられるだろうし、なにより慶子義殿は貴志殿の知性に惚れているから、貴志殿と話をすれば……」

「なんだよ、なんかオレは頭が悪いからだめって感じじゃねーか。そりゃあオレは字の読み書き出来ねえけどよ」

「でも琴羽の言う通りじゃない? 源龍折衝とか苦手でしょ」

 と羅彩女は言う。

「それに、件の家族殺しも貴志さんに訴えてもらって。しかるべき裁きを執り行うよう求めることも出来ますね」

 続いて言うは虎碧だった。琴羽は笑顔で、そうそう、と頷いた。

「はん、そろいもそろって貴志貴志たあ。つまんねえこった」

 源龍は素直に不機嫌になる。なるほどこの様子では、貴志を伴って出頭した方がいいだろうと、みんな思った。

「でも問題は、貴志さんの様子ですねえ」

 マリーが口を開いたその時、

「心配無用ですよ。お気遣い、ありがとうございます」

 と部屋に貴志が戻ってきた。寝台に横になってしばらくして、やっぱりこんなことじゃだめだと自分に言い聞かせたのだ。

「貴志さん、いいんですか?」

「はい」

「よかったあ」

「貴志さんはみんなの知恵袋だからね」

 と、コヒョとリオンも気遣い励ます。ともあれ、貴志の立ち直りのおかげで、現時点で出た話を聞かせたら。

「それしかないでしょうね」

 と、貴志も源龍とともに出頭することを受け入れた。

 寝台に横になって目を閉じて、あの家族のことが浮かんで。心を突き動かされた。

 人のため。国も法も、人のため、と。

「私も行くわ」

 香澄だった。源龍と貴志をじっと見据える。

「慶子義殿は、理想の国造り、世づくりに邁進して。周りが見えなくなっているきらいがあるわ。ねえ貴志、結局世情は落ち着かないとなったら、例えば、あなたが愛国派だったら、どうする?」

「……それはいい質問だね!」

 貴志は香澄の聡明さに感心しながら応える。

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