尊法 六
変に察しの良い源龍に貴志は感心して頷く。
「大雑把ながら、そうともとらえられるね」
「け、とんだ食わせ物だったな、慶子義の野郎」
「慶子義殿にこのことが知られれば、ただでは済まないだろうね」
「だろうがな。だがな、結局、あいつも悪王と同じじゃねえか。しかしわからねえが、あんなクソ真面目で、ああなっちまうのか」
「何事も、過ぎたるは猶及ばざるが如し。真面目も行き過ぎれば、人を縛る」
「愛国心のねえやつは死ね、その次は、馬鹿は死ね。どっちにしても死ね死ね言われるわけか。はん、馬鹿々々しい」
だからこそ、貴志は慶子義を諫めたのだが……。
「あの役人ども、やたら気張っていたな」
「手柄を立てたいんだろうね。功名心に駆られて、その親父さんを難詰したんだろう」
その通り、功名心に駆られた役人の横暴も問題となっていた。それを、様子見に赴いた南景で見せられることになった。
南景に赴いた貴志はまず書店をまわった。どの書店にも役人がおり、書店の若い衆に、
「禁書はないだろうな」
と睥睨しながら言っていたものだった。
また客が書物や本を購入する時も、何を買おうとしているのかいちいち調べていた。
禁書は全て取り除かれているはずなので、書店に貼り付いても仕方がないように思えるのだが。
「購入動機は?」
と問い。
「はい、勉学のためです」
という応えはいいのだが、
「面白そうだから」
と、娯楽作を求める客には。
「今この時に、そんな目的で本を読むのか。時節を弁えよ!」
などと、いらぬ説教を垂れて、購入した本を没収した。今は禁書でないものでも、こうして禁書とされてゆくのであろう。
もちろん客も「そんなご無体な」と複雑な面持ちを見せるのだが、下手に言い返すと捕まりかねないので、ぐっとこらえて書店をあとにした。
貴志は眉をひそめ、悪い印象を覚えた。特に、
「時節を弁えよ!」
という物言いは引っ掛かるものを禁じえなかった。だが源龍が騒ぎを起こした後である。自重し、書店を後にした。
しかし、次に遭遇した事柄においては、思わず我を忘れてしまうほどの怒りを発散することとなった。
役人が三人、とある子連れの若い夫婦を難詰していた。その役人のひとりが大喝して言う。
「時節を弁えよ!」
――と。
「愛国派が帷国に残した傷はまだ深い。官民一丸となって復興に取り組み、苦心しているというのに。そんな時に、何を幸せそうに手をつないで買い物などを楽しんでいるのだ!」
気が付けば貴志は子連れの若い夫婦をかばい、もろ手を広げながら絶叫した。
「何を申されるのですか。我らが戦ったのは、まさにこの人たちのためではありませんか!」
「なにやつ、名を名乗れ!」
役人は突然飛び出てきた不審者に六尺棒を突き付ける。しかしそんなことで怯む貴志ではない。
「李貴志でござる」
と名乗れば、
「あの、李貴志殿か!」
と、役人たちがかえって怯んだ。
貴志の名も、功績大なりと帷国中に轟いていた。
「親子幸せなひと時を過ごす。我らが戦うは、このためでございます。幸せを感じる人があるなら、それは大義が成ったということでございます」
自分でも驚くほどまくしたてた。
「その方の仰られる通り、皆様のおかげで幸せなひと時を過ごせること、感謝しております」
母親が勇を鼓して言う。そうしている間にも、何事かと野次馬が集まってくる。それに続いて、他の役人もどうしたどうしたと駆け寄ってくる。
味方が増えて気が大きくなったか、役人のひとりは、母親に言い返す。
「なにが感謝だ! 人の気も知らず、全てが終わったかの如く呑気にしおって。自覚が足りぬことも弁えよ!」
「否!」
貴志は役人の言を咄嗟に否定した。




