尊法 二
「さきほども申したように、品がない、でたらめな内容だからです。そのようなものは、読む者の心を濁し、最後悪道に向かわせるのです」
「それは大げさではないか」
「ではお聞きします、行き過ぎた愛国心を強いる者の多くが、こうしたものを読んでいたのではないですか? 午金宣もまた同じように」
「……。午金宣ではないが、家中の者に面白いと勧められたのだ」
「その家中の者は、愛国政策を支持していましたか」
「それは、まあ」
「それごらんなさい、行き過ぎた愛国心を強いる政策を支持する者が好んで読んだということは、やはりこれらの書物は心を毒するということのなによりの証左。いますぐやめねばなりません」
と言い、さらに、
「これを勧めた者に即刻暇をお与えなさい」
などとも言う。陰陽君はたいそう驚いたが、慶子義の眼力に圧されて頷いてしまった。
「では問うが、予は何を読めばよいのだ?」
「そうですな……」
と、書庫の本を眺め、何かを手に取る。
「おお、横光の三国物語! これならお勧めでございます。これをお読みなさい」
「これも読んだけど」
「またお読みなさい。そして、武侠小説など下らぬものは二度と読んではいけませんぞ」
「……」
慶子義のただならぬ雰囲気に陰陽君は押されてしまい、頷くしかなかった。
そして幼王に仕える召使いらを呼び、武侠小説など、慶子義が不適切と判断した本を書庫から出して。焼却処分してしまった。
さらに、武侠小説を勧めた者は暇を与えられ、王宮から追い出されてしまった。
それからすぐに新たな法が発布される。
人民啓蒙の法といい。学問や人民の啓蒙によいとされる本を読むことを奨励しつつ、不適切なものは処分することを命令し。不適切とされた本の著者も、別の適切なものを書くよう転向するか、筆を折るかと迫る内容も含まれていた。
まずは王のお膝元、景都から。役人を町中に派し、書店をはじめ、食堂はもちろん、一個の人民の家屋までにも赴き、不適切な本があれば没収していった。
もちろん、
「いやだ!」
と抵抗する者もあったが。
「従わねば百叩きの刑だぞ!」
と六尺棒を突き付けて威嚇した。
さらに著述家にも法を言い渡し。武侠小説やその他の珍書奇書など不適切な作品を書くことをやめることを誓わせた。
もちろんこれも、
「いやだ」
と抵抗する者もあったが。
「ならば百叩きの刑であるぞ」
と六尺棒を突き付けて、誓いの念書に判を押させた。が、中には、
「いかなる脅しにも屈せぬ!」
と骨のある者もあった。
それらは引き立てられて、衆人環視の中で、百叩きの刑に遭った。特に腕をやられ、骨も砕かれて、筆を握ることが出来ないようになる者も出てしまった。
その有様を見て、自ら不適切とされる本を役場に持ってゆく者が続出した。
景都からさらに東西南北の副都、そこからさらに早馬の伝令によって、帷国中に法が広められて。各地でさきに記したようなことが起こった。
処罰を受けた文士、著述家の多くは、さきに王の行き過ぎた愛国仕草を諫める書を書いた者も多かった。
それを知った慶子義は、むしろ憤りを覚え、
「文士の矜持を捨て、目先の利益のため、ふたごころを持つなど。なんと度し難い!」
と、ある時など文士を百叩きにする場に来て、そう吐き捨てたこともあった。




