第二章 尊法 一
慶子義は幼い王の後見人として執政を補佐することとなり様々な改革の手を打った。
賄賂やでたらめな税の徴収などの不正も監視し、公正な執政が行き渡るよう、陰陽君に教え諭し、王命として発布させた。
「国を愛せども人を愛せずでは、意味がありません。まず人を愛することが、真の愛国となります」
「なるほど……。それで、人を愛する国にするために、どうすればよい?」
まだあどけない幼王にとってわからぬことが多く、頼れるのは慶子義しかない。その慶子義も、幼王のためと熱弁を揮った。
「法です。人のための法をつくります。また学問を奨励し、法を尊ぶよう教えることです。さすれば、人を愛し、法を尊び、幸せにあふれた、まことの国づくりを達成出来るでしょう」
「幸せか」
「はい、王の勤めとは、人民の幸のためです。人民幸なれば、王もまた幸なりです」
「うん、そうなるように心がけよう」
「それがしも、お支え致しまする。ただ……」
「ただ、なんだ?」
「人民の幸と申しても、今、すぐに、というわけにはまいりません。まだ愛国派の残党はおり、夢よ再びの機を虎視眈々とうかがっておることでしょう。もしかしたら、時間もかかるかもしれません。それゆえに、今は幸せよりも、適切な緊張感をお持ちあそばされることこそ肝要と存じます」
「……。ごめん、もう一度言ってくれぬか」
慶子義の話は幼い王にま難しすぎたので、簡潔に述べる。
「事を成すに、時節を弁え、幸福感より緊張感を以って取り組みましょう。我らもそうします」
「まだよくわからないけれど、言う通りに出来るよう頑張ろう」
「追々出来てゆければよいかと。そのためにこの慶子義、労を惜しみませぬ」
といったやり取りののち、慶子義は陰陽君にいかなる書物に触れているかと訊ね、その書庫を見せてもらった。
書庫の中の書物を見て回り、気になるものを手に取った。射鳳英雄伝なる題名だった。ぱらぱらと頁をめくると、眉をしかめた。
「これは……」
「どうした?」
「武侠小説ではありませんか?」
「うん、面白いから好きなんだ」
「いけません!」
武侠小説を手に、慶子義は初めて陰陽君に否やを唱えた。
「武侠小説のような、品がない、でたらめが書かれたものを読んではいけません」
「え?」
陰陽君は初めて見る慶子義の厳しい顔に驚きを隠せず、絶句し、呆気に取られていた。そのおそばに仕える者たちも同じくだった。
「おお、これは……!」
さらに驚いてまたひとつ武侠小説を手に取った。銀玉夜叉なる題名だった。これも頁をめくり、眉をしかめた。
「いけません、いけません。武侠小説など読んではいけません!」
「え、どうして、そんなことを言うんだ?」
父も母も出家した陰陽君にとって、慶子義はこれから親も同然の、頼らねばならぬ存在である。それに、好きな武侠小説を否定されて、その衝撃たるや。




