愛国 三十
だがそれをこらえる。
「甲芭之殿のご一存で、なんで十万もの軍勢を動かせましょうや。問う。王をたぶらかす、君側の奸があったのではありませんか。お命じ下されば、その君側の奸を討ち、王や一国万民に安寧をもたらすこと、お約束いたします」
「君側の奸……!」
その言葉を聞き、にわかに陽山君の顔に安堵の色が浮かんだ。
「ご、午金宣じゃ。思えば、予は政において、午金宣によく相談し。午金宣もよく応えてくれたが。そうか、彼奴の言う通りにして、万民は苦しみ、無用の戦もすることになってしまったのか。悪いことをした。詫びるに詫びようもない」
と、陽山君は早口気味に述べた。
午金宣とは、陽山君に仕える側近の宦官であった。実際、よく相談をし、助言を入れていた関係性だった。
「ならば、午金宣をただちにお討ちあそばされませ」
「うむ。しかし、戦敗れるの報せ以来、どこぞへと行方をくらませたのじゃ。そのせいで、予もこうして引き籠る羽目になってしまった。えい、忌々しい奴」
「午金宣の件は、我らがお引き受けいたしまする。どうか王はお心を安んじられて王座に座したまいて、善き政を万民に施されますよう」
「もっともなことだ」
怯えた表情はなくなり、善政を約束した陽山君だった。
それから、大掛かりな捜索が行われたが。
副都西景にある何員延なる臣下が、乞われて哀れに思い我が邸にて身請けしたものの、やはり忠臣として、午金宣を差し出すと。
景都に連行し。
ただちに、斬首、さらし首となった。
斬首の直前、午金宣は叫んだ。絶叫した。唾や血を吐きながら、肝をまで噴き出さんがばかりに。
「我が首斬っても、また同じことが起こる。人の世は変わらず。死ぬぞ、死ぬぞ、またぎょうさん死ぬぞ! あはは、あははははは!」
……と。
さらされた首は、人々から蔑視をもって睨まれたが。それすら嘲笑うかのごとく、目を見開き、大口を開けた異相をたもっていたという。
それを知った陽山君は、さすがに己を恥じ入ることしきりなく。慶子義と相談のうえで、剃髪して出家し。
自分の身勝手な愛国もどき仕草のために死した者を、生涯供養してゆくと誓った。これに、その正妻である広華女王も続いて尼寺に入った。
そして、わずか十二歳の幼王、陰陽君が即位し。慶子義を後見人として、政を執り行うこととなった。
・・・
それから五日たった。
慶子義は南景から景都に移り住み、幼い陰陽君を後見人として支え、執政を補佐した。
と言ってもまだ五日である、成果のほどはわからない。
愛国心大事と民衆弾圧に加わった臣下や役人、またはそれに従う人民に、もうそういう振る舞いをせぬことを言い渡して、誓わせ。とりあえず今は落ち着いたところを見せている。
また弾圧を受け筆を折られた著述家の中で、捕らえられている者は解放し、行方をくらませている者には、もう隠れる必要はない旨も宣言した。
といった、まず行き過ぎた愛国心の強要はせぬことを宣言し、人民を安堵させることを優先的におこなった。




