愛国 二十八
「もらった!」
素早い動きで、大刀を右手に持ち替えて伸ばし、鋭い突きを繰り出す。
しかし源龍は慌てるどころか。にやりと不敵な笑みを浮かべていた。
刃が顔面まで来るその直前、咄嗟にかわし。ふところに入った。
「おおおー!」
喚声が上がる。
源龍は咄嗟に身をかがめ、そこから身をのばし、度宇の顎に痛恨の頭突きを喰らわせた。
「ぐお!」
頭突きは顎のみならず、口と歯にも直撃し。衝撃で歯が折れ、口内で転がり。喉の中に入って引っ掛かる。
喉の歯は刺激を与え、度宇は激しく咳き込んだ。隙が生じた。その間に源龍は打龍鞭を拾い上げ、
「とどめだ!」
おおいに叫んで、振るう打龍鞭は風を切り、ぶうんと唸れば。度宇の横っ面をしたたかに打った。
はずみで兜が吹っ飛び。さらに、上段に構えるやすぐさま振り下ろし。
脳天直撃!——
頭骨砕けた度宇は頭がら血を噴き出し、少しよろけて、骨が抜けたように、どおっと倒れて。ぴくりとも動かなかった。
「度宇!」
すぐさま甲芭之が駆け寄り、その血まみれの顔面を眺めたが。目を見開いたまま、絶命していた。
源龍は得物の打龍鞭を右肩に担いで。
「オレの勝ちだな」
とつぶやいた。鋭い目で。
「うおおおーー!」
天地も割けんがばかりの喚声が上がった。
「勝負あり!」
そう宣言したのは、慶子義であった。記堂栄たちも拍手喝采だ。
「勝った、の……」
琴羽と羅彩女は嬉しい半面呆気に取られて。貴志も同じくで、度宇に対し合掌し冥福を祈った。
甲芭之はこぼれそうな涙をこらえて立ち上がり。
「見事なり!」
と源龍を賞賛した。
「かくなるうえは、約束通り、我が首を差し出そう。さあ、斬るがよい」
亡き度宇のそばで座り込み、首を垂れる。
そうしている間に、
「わああ——」
という悲鳴が聞こえる。兵がばらけてゆく。十万の寄せ手の、王の軍勢は、完全に烏合の衆と化して。蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うのだった。
南景の兵は誰も追い立てないというのに。心の中の臆病さが、度宇の死を以って兵の胸中に芽生えて。瞬く間に感染して。足を動かせた。
「なんとまあ」
打龍鞭を担ぎながら源龍は呆れかえりながら、度宇と甲芭之から離れて、琴羽たちのそばに戻った。
もともとの士気は高くなかったのだろう。貴志の言った通り、得物をさかさまにもって道を空けた兵はどれだけいたのか。そのおかげで、甲芭之のいる本陣にいたり、度宇と一騎打ちをすることが出来たのだから。
「逃げる者は追うな。降る者、怪我で動けぬ者は助けてやれ」
そう慶子義や記堂栄は命じてから、甲芭之のもとに歩み寄って跪き、向き合う。
「甲芭之殿の見事な御大将ぶり。慶子義、勝利の喜びよりもあなたへの感服の度が大きくございます。どうかお命を無駄にせず、これからはともに王をお諫めいたしましょうぞ」
と、言うも。
「否!」
と甲芭之は叫んだ。




